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そのじゅうさん
花と犬
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ラスが部屋へ押しかけた翌日の朝、予定表通りにさせてたまるかと早起きをしてさっさと朝食を摂り、部屋から逃げ出すようにしてリシェは校舎へ向かっていた。
いつもより早い為、生徒の姿はまだ見えない。
足早に先を進みながらリシェは何故自分がここまで気を使わなければならないのかと溜息をついた。
あんな頭のおかしいのを部屋に放り込むなど、狂気の沙汰としか思えない。寮側からは転入早々は落ち着くまで同室に生徒を入れないようにすると言っていたのは嘘だったのか。
騙された、と思った。
後で文句を言ってやる、と悶々としながら先を進んでいると、敷地内にある庭木の手入れをする男の姿が見えた。
朝露と放水で、植木がキラキラ輝きを増している。ふわりと緑と土の匂いが鼻を突いた。
「おはようございます」
「ん?」
男は剪定バサミを手にしたまま、リシェに目を向けた。
日の光に照らされた彼の不思議な色の髪は、銀にも金にも見え、筋肉質の逞しい体もやけにかっこよく目に映る。そのくせ、異性受けしそうな端正な顔をしていた。
さぞかしモテるだろう。
「まだみんな寝ている時間だ。お前は早起きだな」
「…予定表通りにされたくなくて…」
「予定表?」
何の話か読めない彼は首をひねる。
「あまり見ない顔だな」
「ここに来たばかりなのです」
「ほう。だから見なかったのか」
パチン、と余分な枝をひたすら剪定していく。
「用務員さんって朝が早いんですね」
「まだ仕事は始まっていない。そろそろ気になる花が咲く頃だから様子を見にきたのだ」
「花?」
「そう。花だ。いい案配になった花が欲しくてな」
「誰かにあげるのですか?」
彼はふっと軽く微笑む。
「そうだ。あげるのだ。オーギュスティンにな」
「え!?オーギュスティン先生?」
「あいつには棘のある薔薇が良く似合う。勿論棘は刺さらないようにちゃんと切り取っておく」
何故花を送るのか、彼の意図が分からない。
「よく送っているのですか?」
「勿論だ。仕事が大変そうだからな、せめてもの癒しを与えられればいいと思ったのだ。だが、まだ花は本咲きではないようだ」
なるほど…とようやく納得した。
彼がたまに見せる深みのある優しい表情が気になるが、気にしてはいけない気がした。突き詰めれば余計自分が混乱するかもしれない。
「いい花が咲くといいですね」
「うむ」
仕事の邪魔をしてはならない、とリシェはとりあえずその場から立ち去ろうと思った。
「じゃあ俺、失礼します」
ぺこりと頭を下げ、用務の青年に言う。
「よく勉強するのだぞ」
「はい」
彼と別れ、リシェは校舎に向かって歩く。
稀に一般人と見られる人々が犬の散歩がてら校舎内に入っていたが、特に問題は無いようだ。
学校に向かうのはいいものの、そこからどう時間を潰せばいいのだろう。
先程の彼が言った通り、勉強でもしておくべきなのか。
うーんと考えていると、突然犬の鳴き声が耳を突いた。
「あっ!こら、やめなさい!」
「どうしたんだろう、いきなり吠えるなんて」
けたたましく吠える多数の犬。見ると、こちらに向けて一般人の連れ出している犬達は一斉に吠えだしていた。
リシェはショックを受ける。
…またかよ!!
何故こちらを見るなり吠え出すのかと悲観的になりながら早々に歩いてやり過ごし、彼らの目線から逃れて校舎の手前までやってきた。
「ああ、もう…犬にすら嫌われるなんて」
頭をかくりと垂れ、しょぼんとする。
しばらくすると、ある事に気がついた。真新しい革靴に何かが付着している…。
左足の靴を取り、それを確認した。その後、彼はううと呻き顔を痙攣らせる。
飼い主ならちゃんと持ち帰るべきそれが、靴の下で潰れていた。
リシェはそれを見るなりペット連れの彼らが憎たらしくなる。真新しい事から、犯人はあの中の誰かのはずだ。
「何なんだよ、くそっ!!」
怒りのやり場を無くし、彼は一人で怒鳴っていた。
いつもより早い為、生徒の姿はまだ見えない。
足早に先を進みながらリシェは何故自分がここまで気を使わなければならないのかと溜息をついた。
あんな頭のおかしいのを部屋に放り込むなど、狂気の沙汰としか思えない。寮側からは転入早々は落ち着くまで同室に生徒を入れないようにすると言っていたのは嘘だったのか。
騙された、と思った。
後で文句を言ってやる、と悶々としながら先を進んでいると、敷地内にある庭木の手入れをする男の姿が見えた。
朝露と放水で、植木がキラキラ輝きを増している。ふわりと緑と土の匂いが鼻を突いた。
「おはようございます」
「ん?」
男は剪定バサミを手にしたまま、リシェに目を向けた。
日の光に照らされた彼の不思議な色の髪は、銀にも金にも見え、筋肉質の逞しい体もやけにかっこよく目に映る。そのくせ、異性受けしそうな端正な顔をしていた。
さぞかしモテるだろう。
「まだみんな寝ている時間だ。お前は早起きだな」
「…予定表通りにされたくなくて…」
「予定表?」
何の話か読めない彼は首をひねる。
「あまり見ない顔だな」
「ここに来たばかりなのです」
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パチン、と余分な枝をひたすら剪定していく。
「用務員さんって朝が早いんですね」
「まだ仕事は始まっていない。そろそろ気になる花が咲く頃だから様子を見にきたのだ」
「花?」
「そう。花だ。いい案配になった花が欲しくてな」
「誰かにあげるのですか?」
彼はふっと軽く微笑む。
「そうだ。あげるのだ。オーギュスティンにな」
「え!?オーギュスティン先生?」
「あいつには棘のある薔薇が良く似合う。勿論棘は刺さらないようにちゃんと切り取っておく」
何故花を送るのか、彼の意図が分からない。
「よく送っているのですか?」
「勿論だ。仕事が大変そうだからな、せめてもの癒しを与えられればいいと思ったのだ。だが、まだ花は本咲きではないようだ」
なるほど…とようやく納得した。
彼がたまに見せる深みのある優しい表情が気になるが、気にしてはいけない気がした。突き詰めれば余計自分が混乱するかもしれない。
「いい花が咲くといいですね」
「うむ」
仕事の邪魔をしてはならない、とリシェはとりあえずその場から立ち去ろうと思った。
「じゃあ俺、失礼します」
ぺこりと頭を下げ、用務の青年に言う。
「よく勉強するのだぞ」
「はい」
彼と別れ、リシェは校舎に向かって歩く。
稀に一般人と見られる人々が犬の散歩がてら校舎内に入っていたが、特に問題は無いようだ。
学校に向かうのはいいものの、そこからどう時間を潰せばいいのだろう。
先程の彼が言った通り、勉強でもしておくべきなのか。
うーんと考えていると、突然犬の鳴き声が耳を突いた。
「あっ!こら、やめなさい!」
「どうしたんだろう、いきなり吠えるなんて」
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頭をかくりと垂れ、しょぼんとする。
しばらくすると、ある事に気がついた。真新しい革靴に何かが付着している…。
左足の靴を取り、それを確認した。その後、彼はううと呻き顔を痙攣らせる。
飼い主ならちゃんと持ち帰るべきそれが、靴の下で潰れていた。
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