異世界学園の中の変な仲間たち

そのじゅういち

【俺の部屋に】ラス、突撃する【入るな】

　ラスは自分の荷物を抱え、寮内の部屋の手前で深呼吸をしていた。部屋替えの依頼が無事通り、ようやく新しい部屋への移動をする所なのだ。
　家具類は元々備え付けられているので自分が持ち出せるのは完全な私物だけ。移動するのには何ら問題は無い。
　急かす気持ちを押さえながら、彼は厚みのある扉を軽くノックする。しばらく間を開けてから、向こう側からの返事を聞いた。
　同時にゆっくりと扉を開く。
「こんばんは、先輩！」
　朗らかにラスは挨拶をすると、室内でリラックスしていた相手は大きな目で驚いていた。
「う、うわーーーー！！！！」
　悲鳴を上げ、先輩と呼ばれた後輩のリシェは何故かクマのぬいぐるみを抱き締めて立ち上がった。
　ふるふると首を振りながら後退りする始末。
　何もそこまで怖がらなくても、と内心ショックを受けるが、この程度でめげてはいけない。
「今夜からこの部屋で先輩と同室になったんです！ほら、先輩一人じゃ変質者が来た時に大変だし！」
「変質者はお前だ！！」
　何げにぐさりと刺さる言葉を普通に放つリシェ。
　しかし元の世界で完膚なきまでに彼に振られたラスはこの程度では全くのノーダメージだった。
　荷物を床に置き、にっこり微笑みながら近付く。
「何も食べようとしている訳じゃないんですよ！俺は先輩と片時も離れたくなくて部屋移動を申し込んだんです。幸い先輩にはまだルームメイトが居ない。だから俺が先回りして先輩と同室になれるように上にお願いしたってだけ。だからそんなに悲観的にならないで下さい」
　一人部屋で満足していたのに。
　リシェはぬいぐるみで身を隠すようにしながら後退りを続ける。
「今日は酷い日だと思っていたのに、最後まで酷かった。何で俺がこんな目に遭わなくちゃならないんだ…」
　どんよりと暗くなりながら呪詛を唱えるみたいにぶつぶつと文句を呟いていた。
「先輩？」
　部屋の奥、窓辺に引っ込もうとする小さな体を、ラスはしっかりと捕らえて抱き締める。間にぬいぐるみを挟みながら、リシェの感触を存分に味わっていた。
　腕の中で蠢き、感傷に浸る彼は「うう」と涙目になる。
「ここに居る限り変なのに引っ付かれてしまうんだ。やっぱり街の占い師が言った通りなんだ。俺は変態に好かれやすいんだ。おまけに生きとし生けるものに馬鹿にされ続ける運命なんだ。もう駄目だ、俺は変態に懐かれて口では言えない事を沢山されてしまうんだ。エロ同人みたいに」
「あ、あのう…先輩？」
　リシェらしくない発言をしている。
「そこまで変態と遭遇する可能性は少ないと思いますけど…ほら、ここ校舎内だし。防犯対策も存分に出来てるから。そこまで悲しむ事は無いと思うけど…何かあったら俺も居ますから。ねっ、先輩！」
　慰める言葉をあれこれ探しながら宥める。
　リシェは俯いたまま、ふるふると震えていた。しばらく間を取り、ようやく彼はこちらを見上げると持ち前の毒舌をラスに放つ。
「変態のお前が側に居ると余計不安なんだ！」
　自分はあくまで紳士のつもりだったのだが。
　メンタルの強さに自信があったラスだったが、変態扱いをされて地味に傷付いた。