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そのきゅう
根暗と罵倒と性欲魔獣
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ハトに襲われる人間を初めて見た…と手厚い手当をリシェに施しながらロシュは思った。
「これでとりあえず大丈夫でしょう」
「ありがとうございます」
包帯に巻かれた手を安心したように眺めるリシェ。その側で内面から溢れ出そうになるいやらしい欲望をひたすら押さえるロシュ。
「よろしければ休んで行かれますか?ほら、またハトに襲撃されてしまうかもしれないし…」
自分で言いながら意味が分からないが、一緒に居られるチャンスだ。
安心させつつ少しずつ距離を狭めて、あわよくば甘い関係に持ち越せるはず。リシェも、その体に染み付いた自分への気持ちに気付くかもしれない。
向こう側の世界でも甘い関係だったのだから、こちら側でも更に甘くなればいいのだ。
妄想を駆り立て、ロシュは胸をときめかせていると、リシェの口から拍子抜けさせるような質問が放たれる。
「どうやったらハトから襲われませんかね?」
「ハト」
彼なりにハトの襲撃は不安の種のようだ。
「餌を持ってる訳でもない。ハトは温厚な性格らしいのに、何で俺は突かれるんだろう。犬には吠えられるし、カラスには上からピンポイントで木の実を頭に落とされるし、世界中のあらゆるものから嫌われているような気がする」
「は…はは…まあ、カラスは中身を開けて欲しいんでしょう。犬はたまたま騒がしい性格なんじゃないでしょうかね。そんなに悲観的になるものではありませんよ、リシェ」
酷いネガティブ思考。
…こんな性格だったっけ?と疑問に思えてくる程。
ロシュは俯くリシェの肩にそっと触れながら、宥める口調で落ち着かせる。
「困った事があったらいつでもここにいらっしゃい。私はあなたの為なら何でもしますから…向こうでもずっと一緒だったじゃないですか。こちら側でもあなたの全てを知り尽くしたいのです」
言いながら彼に近付き、俯いたままのリシェの頭を優しく撫でる。
「?」
リシェは近過ぎるロシュに不思議な感覚を覚えながら、ハッと現実に戻り身動ぎを始めた。
「えっ、あの…ロシュ様?」
不意に口を突いて出てきたフレーズ。
何故「様」付けをしてしまったのだろう。
それを聞いたロシュは、はあっと感嘆の吐息を漏らした。
「ああ、リシェ。思い出したのですか?私のものだった時の記憶を」
「え!?あっ…な、何で?分からな…あの、離して下さい」
完全に先程とは違う目線に変化したロシュに、リシェは焦りを感じた。背もたれのある椅子に座っていた彼は、ロシュによって完全に前を塞がれる形で密封されてしまう。
下手をすれば覆い被さられる状態に、リシェは危機感を覚えた。
「や、やめて下さいっ」
「そんなに怖がらないで…大丈夫ですよ、ここには私とあなたしか居ませんから」
それが余計怖いのだとリシェは身を縮める。
ひくひくと怯えながら、これならハトに襲撃された方がマシだと目をぎゅうっと閉じた。
そんなリシェの思惑とは逆に、彼に迫るロシュは優しく耳元で「リシェ」と甘く囁く。
「う…うう、嫌だぁ…何で」
完全に怯えるリシェ。
どういう訳なのか、ロシュに対しては抵抗が出来なかった。
「そんなに怖がらなくても。ちょっとは私を思い出してくれたんじゃないかなって期待したのにねぇ」
「??」
すっとリシェの頰に指を滑らせ、ロシュはその柔らかい感触を楽しむ。指先が動く度、リシェはぴくぴくと小さな反応を示していた。
指が唇に触れる。
ロシュは彼の唇を少し開かせ、指の先だけ含ませてみた。
「ふ…ああっ」
「沢山甘えてくれていたのになあ」
「は…や、やめ…」
抵抗出来ず恐怖感を感じながら、リシェはぞくぞくする何かを感じる。どういう訳か、勝手に体がロシュの動きをを受け入れていた。
相手の指先だけで口内を弄ばれ、ううっと呻きながら体が熱くなる。
「ふああ…っ」
「はあ、可愛い…少しは私を思い出しましたか?あなたが望むなら、私はいつでも」
羞恥で涙目になるリシェを前に、ロシュは美しい顔を更に近付ける。
はあ、こちらでもこんなリシェが見られるなんて!
変態なロシュは、小さな唇の端から唾液を零しながら呆然とするリシェを眺めて恍惚感に浸る。
すると遠くからこちらに向かって近付いてくる足音が聞こえてきた。
「んん?」
バシーン!!!とけたたましく扉がスライドして開くと、その衝撃音でリシェはハッと現実に戻る。
第二の来訪者の姿を確認するや、ロシュは途端に嫌そうな顔を露わにした。怯えるリシェから離れると、ああもうと口走る。
「あんたは少し前に忠告した事すら忘れるんですか!!!」
オーギュスティンがズカズカと室内に入り、小さくなっているリシェを強引に引っ張った。
割と強く引っ張る為に、リシェはオーギュスティンの体にばふんと真正面からぶつかってしまう。ロシュの魔の手から救うかのように、彼の手はリシェをしっかり留めていた。
「転入したばかりの何も分からない子を引っ掛けるな、このド変態!!さあリシェ、戻りますよ!怪我をしたと聞いてまさかと思っていたらこれですよ、あなたはご自分の立場ってもんをよく考えなさい!!」
相当怒り狂っている。
ロシュはああ、と半ばがっかりした様子でブチ切れているオーギュスティンに向かって、「いい所だったのになぁ」とまるで挑発するかのように嘆いた。
「何がいい所だ、上手い事を言ってあんな事やこんな事やそんな事をしようと企んでいたくせに!リシェ、この人に最低限近付いてはいけませんよ、下劣な下半身脳なんですから!」
「か、下半身脳…そこまで言わなくても良くないですかねえ…」
ボロクソに罵倒されたロシュは、怒るオーギュスティンの破壊的な口の悪さに言葉を詰まらせた。
リシェを促し、オーギュスティンは先に保健室から出させると、再び振り返って嫌悪感むき出しの表情を見せる。
そしてまるでゴミを見るような目で吐き捨ててきた。
「この性欲魔獣が!!」
ピシャーン!!と激しく扉が閉められた。
ロシュはぽかんと口を開いたまま、その扉を見つめる。
…あの人、あんなに口が悪かったっけ…?
呆然としながら、向こうの世界では相当冷静沈着だった彼の意外な一面に衝撃を受けていた。
「これでとりあえず大丈夫でしょう」
「ありがとうございます」
包帯に巻かれた手を安心したように眺めるリシェ。その側で内面から溢れ出そうになるいやらしい欲望をひたすら押さえるロシュ。
「よろしければ休んで行かれますか?ほら、またハトに襲撃されてしまうかもしれないし…」
自分で言いながら意味が分からないが、一緒に居られるチャンスだ。
安心させつつ少しずつ距離を狭めて、あわよくば甘い関係に持ち越せるはず。リシェも、その体に染み付いた自分への気持ちに気付くかもしれない。
向こう側の世界でも甘い関係だったのだから、こちら側でも更に甘くなればいいのだ。
妄想を駆り立て、ロシュは胸をときめかせていると、リシェの口から拍子抜けさせるような質問が放たれる。
「どうやったらハトから襲われませんかね?」
「ハト」
彼なりにハトの襲撃は不安の種のようだ。
「餌を持ってる訳でもない。ハトは温厚な性格らしいのに、何で俺は突かれるんだろう。犬には吠えられるし、カラスには上からピンポイントで木の実を頭に落とされるし、世界中のあらゆるものから嫌われているような気がする」
「は…はは…まあ、カラスは中身を開けて欲しいんでしょう。犬はたまたま騒がしい性格なんじゃないでしょうかね。そんなに悲観的になるものではありませんよ、リシェ」
酷いネガティブ思考。
…こんな性格だったっけ?と疑問に思えてくる程。
ロシュは俯くリシェの肩にそっと触れながら、宥める口調で落ち着かせる。
「困った事があったらいつでもここにいらっしゃい。私はあなたの為なら何でもしますから…向こうでもずっと一緒だったじゃないですか。こちら側でもあなたの全てを知り尽くしたいのです」
言いながら彼に近付き、俯いたままのリシェの頭を優しく撫でる。
「?」
リシェは近過ぎるロシュに不思議な感覚を覚えながら、ハッと現実に戻り身動ぎを始めた。
「えっ、あの…ロシュ様?」
不意に口を突いて出てきたフレーズ。
何故「様」付けをしてしまったのだろう。
それを聞いたロシュは、はあっと感嘆の吐息を漏らした。
「ああ、リシェ。思い出したのですか?私のものだった時の記憶を」
「え!?あっ…な、何で?分からな…あの、離して下さい」
完全に先程とは違う目線に変化したロシュに、リシェは焦りを感じた。背もたれのある椅子に座っていた彼は、ロシュによって完全に前を塞がれる形で密封されてしまう。
下手をすれば覆い被さられる状態に、リシェは危機感を覚えた。
「や、やめて下さいっ」
「そんなに怖がらないで…大丈夫ですよ、ここには私とあなたしか居ませんから」
それが余計怖いのだとリシェは身を縮める。
ひくひくと怯えながら、これならハトに襲撃された方がマシだと目をぎゅうっと閉じた。
そんなリシェの思惑とは逆に、彼に迫るロシュは優しく耳元で「リシェ」と甘く囁く。
「う…うう、嫌だぁ…何で」
完全に怯えるリシェ。
どういう訳なのか、ロシュに対しては抵抗が出来なかった。
「そんなに怖がらなくても。ちょっとは私を思い出してくれたんじゃないかなって期待したのにねぇ」
「??」
すっとリシェの頰に指を滑らせ、ロシュはその柔らかい感触を楽しむ。指先が動く度、リシェはぴくぴくと小さな反応を示していた。
指が唇に触れる。
ロシュは彼の唇を少し開かせ、指の先だけ含ませてみた。
「ふ…ああっ」
「沢山甘えてくれていたのになあ」
「は…や、やめ…」
抵抗出来ず恐怖感を感じながら、リシェはぞくぞくする何かを感じる。どういう訳か、勝手に体がロシュの動きをを受け入れていた。
相手の指先だけで口内を弄ばれ、ううっと呻きながら体が熱くなる。
「ふああ…っ」
「はあ、可愛い…少しは私を思い出しましたか?あなたが望むなら、私はいつでも」
羞恥で涙目になるリシェを前に、ロシュは美しい顔を更に近付ける。
はあ、こちらでもこんなリシェが見られるなんて!
変態なロシュは、小さな唇の端から唾液を零しながら呆然とするリシェを眺めて恍惚感に浸る。
すると遠くからこちらに向かって近付いてくる足音が聞こえてきた。
「んん?」
バシーン!!!とけたたましく扉がスライドして開くと、その衝撃音でリシェはハッと現実に戻る。
第二の来訪者の姿を確認するや、ロシュは途端に嫌そうな顔を露わにした。怯えるリシェから離れると、ああもうと口走る。
「あんたは少し前に忠告した事すら忘れるんですか!!!」
オーギュスティンがズカズカと室内に入り、小さくなっているリシェを強引に引っ張った。
割と強く引っ張る為に、リシェはオーギュスティンの体にばふんと真正面からぶつかってしまう。ロシュの魔の手から救うかのように、彼の手はリシェをしっかり留めていた。
「転入したばかりの何も分からない子を引っ掛けるな、このド変態!!さあリシェ、戻りますよ!怪我をしたと聞いてまさかと思っていたらこれですよ、あなたはご自分の立場ってもんをよく考えなさい!!」
相当怒り狂っている。
ロシュはああ、と半ばがっかりした様子でブチ切れているオーギュスティンに向かって、「いい所だったのになぁ」とまるで挑発するかのように嘆いた。
「何がいい所だ、上手い事を言ってあんな事やこんな事やそんな事をしようと企んでいたくせに!リシェ、この人に最低限近付いてはいけませんよ、下劣な下半身脳なんですから!」
「か、下半身脳…そこまで言わなくても良くないですかねえ…」
ボロクソに罵倒されたロシュは、怒るオーギュスティンの破壊的な口の悪さに言葉を詰まらせた。
リシェを促し、オーギュスティンは先に保健室から出させると、再び振り返って嫌悪感むき出しの表情を見せる。
そしてまるでゴミを見るような目で吐き捨ててきた。
「この性欲魔獣が!!」
ピシャーン!!と激しく扉が閉められた。
ロシュはぽかんと口を開いたまま、その扉を見つめる。
…あの人、あんなに口が悪かったっけ…?
呆然としながら、向こうの世界では相当冷静沈着だった彼の意外な一面に衝撃を受けていた。
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