異世界学園の中の変な仲間たち

ひしご

文字の大きさ
上 下
9 / 101
そのはち

ハト

しおりを挟む
 …私以外にあの世界を知っている人は居るのだろうか。

 ロシュは自分は仕事場でもある保健室の机でぼんやりと考えていた。特有の薬品が棚に立ち並び、独特な匂いを漂わせる室内は、一種のマニアに好まれている。彼もそのマニアの一人だった。
 消毒薬の匂いが昔からたまらなく好きで、ずっと嗅いでいたいあまり今の仕事場を得た。
 …ある意味、自分の持つ権限をフルに使ったのもある。
 そうしてまで、この空気に触れたかったのだ。
 そしてもう一つしてみたい事がある。
 それは、保健室内で愛するリシェといちゃいちゃしたいという事だ。あの職員室で彼と再会した際に、向こうは自分の事が分からない様子だった。
 他人のような目線をされてしまうのは少しショックだったが、それでもいい。
 要はこれから知って貰えばいいのだ。
 むしろ何も分からない方がシチュエーション的には最高だ。その方が自分の好みに出来る。
 例えばだ。
 貧血気味で休みに来たリシェを寝かせながら優しく介抱してやるとか、指を怪我をした彼の手を取り患部を舐めてやるとか…
 保健医らしくない最低な妄想をしながら、ほうっと溜息を吐く。
 ちょっと卑猥な状況下に置かれたリシェは、きっと可愛く反応しながら嫌がってくれるはずだ。それを更に押していけば…と彼は勝手に身悶えするロシュの元へ、一人の来訪者がやってきた。
 からりと引き戸が開かれる。
「失礼します、すみません絆創膏を下さい」
 小さな人影。
 ロシュはハッと我に返り、その来訪者を見た。
「いっ………!!」
 体操服を身に付けた、憧れのリシェがそこに居た。ロシュはガタガタッ!と急に立ち上がった。だが拍子に椅子の脚にひっかけて倒れそうになる。
 あうっ、とバランスを立て直し、ドキドキする心臓を押さえるように胸に手を当てる。
「なっ、何をされましたかっ!?り、リシェ?」
 来訪者は何で俺の名前が分かるのだろうと不思議そうにしながら、「怪我をしたのです」と説明した。
 …これは妄想のシチュエーションそのままではないか!!
 はあはあと呼吸が荒くなるのを我慢しながら、リシェに近付く。冷静を装うのがこんなにも難しいのかと悩ましくなった。
 彼の手を取り、ティッシュに包まれた右手の人差し指を見ると結構な血が出ている。
「…あぁ、かなり出てますね。何故こんな怪我をしたんですか?」
 ああ、舐めたい。
 この小さな指を丁寧に舐めて、リシェが変な気分になるまで可愛がってあげたい。
 危ない欲望に心を支配されそうになる変態保健医。そんな相手を目の当たりにするリシェは、こちらを見上げながら怪我の原因を語り出す。
「ハトに襲撃されたのです」
 ?
 ロシュは彼の言葉を聞いて、現実に戻された。
「は、ハト?」
「ハトです」
「ハトに何かしたんですか?ほら、悪戯とか」
 襲撃される意味が分からなかった。
 彼が動物に何か危害を加えるとは思いにくいのだが、襲われるとなれば相応の理由があるはずだ。
 しかしリシェは眉を寄せて不快そうに答えた。
「してません。何も」
「餌を沢山持ってたのですか?」
「何も持っていない。授業中に襲撃されたんです。大量のハトに…追い払っても追い払っても追いかけてくるしつついて来た。好きなだけつついておいて、気が済んだら逃げて行きやがった。何で俺ばっかり」
 しょんぼりするリシェ。
 悪戯したい何かが彼にはあるのだろうか。
 ロシュはその気持ちは分からないでもないなと思ったが、何故ハトなのだろう。
「………」
 とりあえずお薬を塗っておきましょうか、とロシュは言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

優しい恋に酔いながら

すずかけあおい
BL
一途な攻め×浅はかでいたい受けです。 「誰でもいいから抱かれてみたい」 達哉の言葉に、藤亜は怒って――。 〔攻め〕藤亜(とうあ)20歳 〔受け〕達哉(たつや)20歳 藤の花言葉:「優しさ」「歓迎」「決して離れない」「恋に酔う」「忠実な」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

処理中です...