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そのはち
ハト
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…私以外にあの世界を知っている人は居るのだろうか。
ロシュは自分は仕事場でもある保健室の机でぼんやりと考えていた。特有の薬品が棚に立ち並び、独特な匂いを漂わせる室内は、一種のマニアに好まれている。彼もそのマニアの一人だった。
消毒薬の匂いが昔からたまらなく好きで、ずっと嗅いでいたいあまり今の仕事場を得た。
…ある意味、自分の持つ権限をフルに使ったのもある。
そうしてまで、この空気に触れたかったのだ。
そしてもう一つしてみたい事がある。
それは、保健室内で愛するリシェといちゃいちゃしたいという事だ。あの職員室で彼と再会した際に、向こうは自分の事が分からない様子だった。
他人のような目線をされてしまうのは少しショックだったが、それでもいい。
要はこれから知って貰えばいいのだ。
むしろ何も分からない方がシチュエーション的には最高だ。その方が自分の好みに出来る。
例えばだ。
貧血気味で休みに来たリシェを寝かせながら優しく介抱してやるとか、指を怪我をした彼の手を取り患部を舐めてやるとか…
保健医らしくない最低な妄想をしながら、ほうっと溜息を吐く。
ちょっと卑猥な状況下に置かれたリシェは、きっと可愛く反応しながら嫌がってくれるはずだ。それを更に押していけば…と彼は勝手に身悶えするロシュの元へ、一人の来訪者がやってきた。
からりと引き戸が開かれる。
「失礼します、すみません絆創膏を下さい」
小さな人影。
ロシュはハッと我に返り、その来訪者を見た。
「いっ………!!」
体操服を身に付けた、憧れのリシェがそこに居た。ロシュはガタガタッ!と急に立ち上がった。だが拍子に椅子の脚にひっかけて倒れそうになる。
あうっ、とバランスを立て直し、ドキドキする心臓を押さえるように胸に手を当てる。
「なっ、何をされましたかっ!?り、リシェ?」
来訪者は何で俺の名前が分かるのだろうと不思議そうにしながら、「怪我をしたのです」と説明した。
…これは妄想のシチュエーションそのままではないか!!
はあはあと呼吸が荒くなるのを我慢しながら、リシェに近付く。冷静を装うのがこんなにも難しいのかと悩ましくなった。
彼の手を取り、ティッシュに包まれた右手の人差し指を見ると結構な血が出ている。
「…あぁ、かなり出てますね。何故こんな怪我をしたんですか?」
ああ、舐めたい。
この小さな指を丁寧に舐めて、リシェが変な気分になるまで可愛がってあげたい。
危ない欲望に心を支配されそうになる変態保健医。そんな相手を目の当たりにするリシェは、こちらを見上げながら怪我の原因を語り出す。
「ハトに襲撃されたのです」
?
ロシュは彼の言葉を聞いて、現実に戻された。
「は、ハト?」
「ハトです」
「ハトに何かしたんですか?ほら、悪戯とか」
襲撃される意味が分からなかった。
彼が動物に何か危害を加えるとは思いにくいのだが、襲われるとなれば相応の理由があるはずだ。
しかしリシェは眉を寄せて不快そうに答えた。
「してません。何も」
「餌を沢山持ってたのですか?」
「何も持っていない。授業中に襲撃されたんです。大量のハトに…追い払っても追い払っても追いかけてくるしつついて来た。好きなだけつついておいて、気が済んだら逃げて行きやがった。何で俺ばっかり」
しょんぼりするリシェ。
悪戯したい何かが彼にはあるのだろうか。
ロシュはその気持ちは分からないでもないなと思ったが、何故ハトなのだろう。
「………」
とりあえずお薬を塗っておきましょうか、とロシュは言った。
ロシュは自分は仕事場でもある保健室の机でぼんやりと考えていた。特有の薬品が棚に立ち並び、独特な匂いを漂わせる室内は、一種のマニアに好まれている。彼もそのマニアの一人だった。
消毒薬の匂いが昔からたまらなく好きで、ずっと嗅いでいたいあまり今の仕事場を得た。
…ある意味、自分の持つ権限をフルに使ったのもある。
そうしてまで、この空気に触れたかったのだ。
そしてもう一つしてみたい事がある。
それは、保健室内で愛するリシェといちゃいちゃしたいという事だ。あの職員室で彼と再会した際に、向こうは自分の事が分からない様子だった。
他人のような目線をされてしまうのは少しショックだったが、それでもいい。
要はこれから知って貰えばいいのだ。
むしろ何も分からない方がシチュエーション的には最高だ。その方が自分の好みに出来る。
例えばだ。
貧血気味で休みに来たリシェを寝かせながら優しく介抱してやるとか、指を怪我をした彼の手を取り患部を舐めてやるとか…
保健医らしくない最低な妄想をしながら、ほうっと溜息を吐く。
ちょっと卑猥な状況下に置かれたリシェは、きっと可愛く反応しながら嫌がってくれるはずだ。それを更に押していけば…と彼は勝手に身悶えするロシュの元へ、一人の来訪者がやってきた。
からりと引き戸が開かれる。
「失礼します、すみません絆創膏を下さい」
小さな人影。
ロシュはハッと我に返り、その来訪者を見た。
「いっ………!!」
体操服を身に付けた、憧れのリシェがそこに居た。ロシュはガタガタッ!と急に立ち上がった。だが拍子に椅子の脚にひっかけて倒れそうになる。
あうっ、とバランスを立て直し、ドキドキする心臓を押さえるように胸に手を当てる。
「なっ、何をされましたかっ!?り、リシェ?」
来訪者は何で俺の名前が分かるのだろうと不思議そうにしながら、「怪我をしたのです」と説明した。
…これは妄想のシチュエーションそのままではないか!!
はあはあと呼吸が荒くなるのを我慢しながら、リシェに近付く。冷静を装うのがこんなにも難しいのかと悩ましくなった。
彼の手を取り、ティッシュに包まれた右手の人差し指を見ると結構な血が出ている。
「…あぁ、かなり出てますね。何故こんな怪我をしたんですか?」
ああ、舐めたい。
この小さな指を丁寧に舐めて、リシェが変な気分になるまで可愛がってあげたい。
危ない欲望に心を支配されそうになる変態保健医。そんな相手を目の当たりにするリシェは、こちらを見上げながら怪我の原因を語り出す。
「ハトに襲撃されたのです」
?
ロシュは彼の言葉を聞いて、現実に戻された。
「は、ハト?」
「ハトです」
「ハトに何かしたんですか?ほら、悪戯とか」
襲撃される意味が分からなかった。
彼が動物に何か危害を加えるとは思いにくいのだが、襲われるとなれば相応の理由があるはずだ。
しかしリシェは眉を寄せて不快そうに答えた。
「してません。何も」
「餌を沢山持ってたのですか?」
「何も持っていない。授業中に襲撃されたんです。大量のハトに…追い払っても追い払っても追いかけてくるしつついて来た。好きなだけつついておいて、気が済んだら逃げて行きやがった。何で俺ばっかり」
しょんぼりするリシェ。
悪戯したい何かが彼にはあるのだろうか。
ロシュはその気持ちは分からないでもないなと思ったが、何故ハトなのだろう。
「………」
とりあえずお薬を塗っておきましょうか、とロシュは言った。
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