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そのはちじゅうきゅう
スティレン、諦めない夏
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翌日の朝、リシェと一緒にベッドで眠っていたラスは自分の電話が鳴っている音に気付く。もそもそと蠢くリシェの頭を撫でた後、むくりと起き上がって机の上で充電していた電話を手に取った。
「もしもし…」
寝ぼけ眼で時計に目を向けると、まだ朝八時。
こんな早くから何の用なのだろうか、誰だか分からないけど…と返事をすると、物凄く大きな声が受話口から飛んできた。
『ちょっと!!あいつまだ居る訳!?俺、いつ帰ったらいいか分からないんだけど!?』
その怒鳴り声ですぐに相手が分かった。
ある意味凶悪な目覚まし時計だ。
一気に寝ぼけていたのが醒める。ラスはしかめっ面になりながら「いきなり怒鳴らないでよ」と機嫌を損ねた声を上げた。
「昨日来たばっかりなのにすぐに帰る訳ないじゃないか。…帰れとも言えないしさぁ」
ふああ、とあくび込みでスティレンに言うと、相手の声が聞こえて来たのかリシェとサキトも目が覚めたらしく起き上がってくる。
どれくらいの声量で叫んでいたのだろうか。
「もう、朝っぱらから本当に元気なんだから…むしろ諦めて普通に帰ってきたら?こっちに戻りたいんでしょ…」
その口振りからして戻りたくて戻りたくてたまらないような雰囲気を醸し出している気がするのだが違うのだろうか。
こちらにお伺いする位なら戻って来たらいいのに。
『あいつがまだ居るなら俺が戻りにくいじゃない!!』
「ええ…だってスティレンが戻らないと帰らないって言ってるんだけど…もう帰って来なよ。まさか毎朝こうしていちいち電話かけてくる気?先輩も寝てたのにさあ」
勢いの良い電話からの声に、リシェは不機嫌そうな顔で「またあいつか」と呆れていた。
「もう着信拒否してもいいんじゃないか。あいつだけ」
しかも従兄弟に対して冷たい言葉を投げつける始末。
「スティレンったら朝から元気なんだから。待ってるんだから早くしてよって伝えてよ」
フリフリしたレースの入った寝巻姿のサキトは寝乱れた際に付いた寝癖を直しながらラスに言う。元々カールが激しい髪型なので、寝癖といってもあまり分からなかった。
彼のやたら豪奢な寝巻姿を目にするリシェは「なんだその格好は」と不思議そうに眉を寄せる。どう見ても十代の男子の寝る際に着るものとはかけ離れていた。寝る前にも同じ事を言ったが、やはり朝起きてもおかしいと思ったらしく改めて同じ事を言う。
サキトはおかしいかなぁと可愛らしく首を傾げた。
「僕は全然普通なんだけど…なんなら着てみるぅ?リシェならきっと似合うはずだよ、可愛い顔してるし細いから」
「絶対嫌だ」
即拒否するリシェ。そんな彼は至ってシンプルなシャツとハーフパンツで、サキトにして見れば非常に地味だと思うらしい。
「折角スティレンに会えると思ったのに。この格好であの子を誘惑しようと思ってたのに、それも出来ないなんて」
ぷすーっと膨れるサキト。
要は彼を誘惑したくてそんなふりふりした寝巻を持って来たという訳だ。スティレンはきっと靡かないと思うが。
『…だからさぁ、あいつが帰ったら戻りたいの俺は!どうにかして追い出してよ!!』
「多分無理だと思うよ…寮の事務の方だって懐柔してるのに、俺らが太刀打ち出来る訳ないじゃない…」
『はぁああ!?』
「サキト君、大人顔負けのえげつない手段使ってるからさ…俺らじゃ無理だよ。だから大人しく帰ってきなよ…」
こちらが彼を出そうにも、寮側は恐らく仲良くしなさいと戻してきそうだ。実際向こうの職員はサキトに対してへこへこしていたのだから、自分達が出ていけと言っても違う部屋を用意して臨時で住まわせそうな気がする。
もう諦めるしか道は無いのだ。
応対していたラスに、サキトの手が伸びた。
可愛い笑顔で「貸して♡」と言いだす。らちがあかなかったので、素直にラスはサキトにはい、と自分の電話を渡した。
「もしもしぃ?スティレン?」
上機嫌に彼は電話の向こうのスティレンに話しかけた。
『なっ…!!』
「もうぅ、早く戻って来てよぉ…僕は君が戻って来てくれるのをずっと待ってるからねぇ?今度こそ君を僕のものにしてあげるんだからぁ」
意味深な言葉を延々と繰り返すサキトを見ながら、思いっきり引いた顔をするリシェ。
『俺はあんたが嫌いだって言ってるでしょ!!』
「知らなーい」
『ラスに代わって!!ああムカつく!!』
スティレンはそう喚くが、一方のラスは面倒そうに「俺はいいや」とサキトに丸投げをする。
すると彼はいいのぉ?とにんまりとこちらに笑みを向けていた。
「ねえ、スティレン。ラス君、僕に任せるって言ってるよぉ。お話しよ?んふふふふ」
『はぁああ!?きっしょ!!何なのあんた本当気持ち悪い!!』
ここまで戻りたいアピールをするなら諦めたらいいのに。
ふああ、とあくびを噛み殺しつつ、ラスは延々と二人が織りなす噛み合わない話を聞いていた。
「もしもし…」
寝ぼけ眼で時計に目を向けると、まだ朝八時。
こんな早くから何の用なのだろうか、誰だか分からないけど…と返事をすると、物凄く大きな声が受話口から飛んできた。
『ちょっと!!あいつまだ居る訳!?俺、いつ帰ったらいいか分からないんだけど!?』
その怒鳴り声ですぐに相手が分かった。
ある意味凶悪な目覚まし時計だ。
一気に寝ぼけていたのが醒める。ラスはしかめっ面になりながら「いきなり怒鳴らないでよ」と機嫌を損ねた声を上げた。
「昨日来たばっかりなのにすぐに帰る訳ないじゃないか。…帰れとも言えないしさぁ」
ふああ、とあくび込みでスティレンに言うと、相手の声が聞こえて来たのかリシェとサキトも目が覚めたらしく起き上がってくる。
どれくらいの声量で叫んでいたのだろうか。
「もう、朝っぱらから本当に元気なんだから…むしろ諦めて普通に帰ってきたら?こっちに戻りたいんでしょ…」
その口振りからして戻りたくて戻りたくてたまらないような雰囲気を醸し出している気がするのだが違うのだろうか。
こちらにお伺いする位なら戻って来たらいいのに。
『あいつがまだ居るなら俺が戻りにくいじゃない!!』
「ええ…だってスティレンが戻らないと帰らないって言ってるんだけど…もう帰って来なよ。まさか毎朝こうしていちいち電話かけてくる気?先輩も寝てたのにさあ」
勢いの良い電話からの声に、リシェは不機嫌そうな顔で「またあいつか」と呆れていた。
「もう着信拒否してもいいんじゃないか。あいつだけ」
しかも従兄弟に対して冷たい言葉を投げつける始末。
「スティレンったら朝から元気なんだから。待ってるんだから早くしてよって伝えてよ」
フリフリしたレースの入った寝巻姿のサキトは寝乱れた際に付いた寝癖を直しながらラスに言う。元々カールが激しい髪型なので、寝癖といってもあまり分からなかった。
彼のやたら豪奢な寝巻姿を目にするリシェは「なんだその格好は」と不思議そうに眉を寄せる。どう見ても十代の男子の寝る際に着るものとはかけ離れていた。寝る前にも同じ事を言ったが、やはり朝起きてもおかしいと思ったらしく改めて同じ事を言う。
サキトはおかしいかなぁと可愛らしく首を傾げた。
「僕は全然普通なんだけど…なんなら着てみるぅ?リシェならきっと似合うはずだよ、可愛い顔してるし細いから」
「絶対嫌だ」
即拒否するリシェ。そんな彼は至ってシンプルなシャツとハーフパンツで、サキトにして見れば非常に地味だと思うらしい。
「折角スティレンに会えると思ったのに。この格好であの子を誘惑しようと思ってたのに、それも出来ないなんて」
ぷすーっと膨れるサキト。
要は彼を誘惑したくてそんなふりふりした寝巻を持って来たという訳だ。スティレンはきっと靡かないと思うが。
『…だからさぁ、あいつが帰ったら戻りたいの俺は!どうにかして追い出してよ!!』
「多分無理だと思うよ…寮の事務の方だって懐柔してるのに、俺らが太刀打ち出来る訳ないじゃない…」
『はぁああ!?』
「サキト君、大人顔負けのえげつない手段使ってるからさ…俺らじゃ無理だよ。だから大人しく帰ってきなよ…」
こちらが彼を出そうにも、寮側は恐らく仲良くしなさいと戻してきそうだ。実際向こうの職員はサキトに対してへこへこしていたのだから、自分達が出ていけと言っても違う部屋を用意して臨時で住まわせそうな気がする。
もう諦めるしか道は無いのだ。
応対していたラスに、サキトの手が伸びた。
可愛い笑顔で「貸して♡」と言いだす。らちがあかなかったので、素直にラスはサキトにはい、と自分の電話を渡した。
「もしもしぃ?スティレン?」
上機嫌に彼は電話の向こうのスティレンに話しかけた。
『なっ…!!』
「もうぅ、早く戻って来てよぉ…僕は君が戻って来てくれるのをずっと待ってるからねぇ?今度こそ君を僕のものにしてあげるんだからぁ」
意味深な言葉を延々と繰り返すサキトを見ながら、思いっきり引いた顔をするリシェ。
『俺はあんたが嫌いだって言ってるでしょ!!』
「知らなーい」
『ラスに代わって!!ああムカつく!!』
スティレンはそう喚くが、一方のラスは面倒そうに「俺はいいや」とサキトに丸投げをする。
すると彼はいいのぉ?とにんまりとこちらに笑みを向けていた。
「ねえ、スティレン。ラス君、僕に任せるって言ってるよぉ。お話しよ?んふふふふ」
『はぁああ!?きっしょ!!何なのあんた本当気持ち悪い!!』
ここまで戻りたいアピールをするなら諦めたらいいのに。
ふああ、とあくびを噛み殺しつつ、ラスは延々と二人が織りなす噛み合わない話を聞いていた。
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