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そのはちじゅうなな

【追い】スピーカーホン【電話】

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 電話を切ったラスに、サキトは首を傾げながら「どうしたのぉ?」と問いかける。休みの期間、寮の居残り組がわらわらとご馳走にありつこうと食堂に駆け込む中、立ち止まり電話をしだす彼が気になったようだ。
 携帯電話をポケットにしまいながら、ラスは大した事じゃないよと笑う。
「スティレンから電話が来ただけだし」
「スティレンから!?」
 やはり彼の名前を出すとサキトは過剰な反応を起こしてしまう。
「ねぇ、もう一度かけ直してよ!もう、あの子が居ないとつまらないんだよぉ」
 サキトはどうしてもスティレンと話したいらしく、電話を切ったラスにせがんできた。そんなにまで彼に執着してしまう理由も分からなくは無いが、また電話をするとして向こうがどう反応するのだろうか。
 リシェは既に食堂前で待機している。
「何をしている?早く行くぞ」
「ねぇ、リシェ。君はスティレンの番号は知らないの?」
 何だいきなり、と迫ってくるサキトに対し、リシェは知らないと答えた。
「ええ、どうして?従兄弟同士なんでしょ?知らないの?」
「知らない。知りたいとも思わないし」
「仲が良いのに?変なの…」
「別に普通に毎度顔を合わせるんだから連絡先なんて知らなくてもいいだろう」
 確かにそうなんだけどさぁ、とサキトは首を傾げた。
「先輩には俺が付いてるし、俺がスティレンの番号控えてるから大丈夫なんだよ」
「じゃあさ、スティレンにもう一回かけてくれる?んで電話代わって!」
 まあいいけど…とラスはスティレンの番号を表示し、画面のボタンを押した。しばらく耳に当てた後、即座に出てきた彼に話しかける。
 やけに嬉しそうになあに!?と返ってきた後、ラスは「ちょっと待ってて」と前置きしてサキトに渡した。
「はい」
「わーい!ありがと!…もしもし、スティレンー?」
 サキトはうきうきしながら電話の向こうの相手に話しかけた。
『………っ!!』
 敢えてスピーカーホンにしたのだが、明らかに彼がサキトに対して嫌がっているのかが分かった。

 ガチャ

 ツー…ツー…

 分かりやすい反応に、それを聞いていたリシェもははっと笑う。
「切られた」
 サキトは向こうの態度に「んもう」とぷくりと頰を膨らませる。
「もう一回!」
 ラスはリダイヤルし、スティレンの番号にかけ直した。
『ちょっと、何なの!?嫌がらせ!?』
「だってかけろって言うから…」
 スピーカーのままで会話をしている為に周りにも会話がバレバレだ。食堂に向かう寮生達が横切る度にこちらを見ていた。
『俺はね、あいつと話す気は全っ然無いの!!だからあいつから何か言われても繋げないで!』
「ああんスティレン、どうしてそんな事言うのさ」
『!!!』
「僕は休みの間、君と親密になりたくて来たのに。どうして実家に戻っちゃうのかなぁ…」
 甘い声音で訴えた。
『…何なのあんた!?俺は今ラスと話してるんだけど!?どういう事!?』
 怒るスティレンに、ラスは「ああ」と笑う。
「ごめん、こっちスピーカーホンにしてるんだあ」
『は!??』
 怒りの一声と同時に、電話がまた切れた。
「ああ、切れちゃった」
「いいよぉ」
 サキトはニコニコしながら自らの携帯電話を握り、何かを打ち込み始めた。ラスは不思議そうにしながら何してるの?と問う。
 彼はほんわりとした笑顔を見せながら、「暗記した♡」と答えた。ラスの電話からスティレンの番号を盗み見したらしく即座に登録したようだ。
 ついラスは「うわぁあ」と引く。
 さすがに好きでもそこまでは出来ない。
「んふ…これでいつでも好きな時にスティレンに電話をかけられるよ。ありがと♡」
「そこまでしてあいつと繋がりたいのか?」
「当たり前じゃない。僕はスティレンが大好きなんだから…」
 いくら何でもそれはどうなのだろうか。
 嬉しそうな笑みを見せて満足げなサキトに向けて、馬鹿正直なリシェは「気持ち悪い奴だ」と吐き捨てていた。
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