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そのはちじゅうろく

スティレンは受け身体質(別の意味で)

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 ふん、今頃あいつらは俺が居ない事でビービー泣いてるだろうね。
 実家に戻っていたスティレンは広々とした自室で優雅に紅茶を飲みながら、窓からの景色を眺めていた。彼の家は高級住宅地にあり、その中でもランクの高い地区だ。
 一般とは思えないレベルの大豪邸が周囲に立ち並んでおり、これもまた格式の高い人々がこれ見よがしに庭園やら門などを自慢げに披露している特殊な場所で、普通階級の住民達の目には見えっ張り街道と揶揄される程の豪勢な地域。
 気分が落ち着く音楽を聴きながら、お気に入りの服を身につけて思い通りの時間を過ごす…なんと贅沢な事だろう。
 窮屈な学校の寮では不自由な事ばかりだったから、こうして休暇で自由に羽根を伸ばせる自宅の存在は物凄く有難い。離れて暮らしてみる事で、それが十分に身に染みた。
 そんな優雅な環境に置かれている中、自分の携帯電話を手にスティレンはじっと鳴らないそれを見下ろす。これまでは何の連絡も無く、メールすら来ない。リシェには連絡先の交換を完全に拒否されているので、真っ当な連絡の手段はラスの携帯くらいだ。

 …てか、俺が居なくて寂しくない訳?

 全く連絡も無いので彼は不満げに溜息を吐く。
 普通なら何かしらよこしてこないものだろうか、と思うのだ。
 別に寂しい訳では無い。一応連絡手段もあるのだから、向こうからアクションを起こしてくれないと困るじゃないかと軽く舌打ちした。
 そんな彼には自分から連絡するという意識は毛頭無い。
 何故自分がやらなければならないのだといらぬ意地が出てしまうのだ。あくまで自分は求められて仕方無く動きたい。
 仕方無い奴らだね、と文句を言いながら満更でも無さそうにして動きたい。お前達は俺が居ないとなぁんにも出来ないんだからねと嘲笑しながら。
 だが、待てど待てど連絡は来そうに無かった。時間が経過する度にイライラと不満が募ってしまう。
 かと言って自分から連絡するというのも嫌だった。
 ひたすら悶々としている状況がもどかしい。電話を片手にしながら、今連絡が来ないか来ないかと呻き続けていた。ラスの電話番号を出したままで。
「何でこの俺が気にしなくちゃいけないのさ…!」
 一回くらいくれるもんでしょ、と。
 はぁ、と一息つくと仕方無いねと通話ボタンを押す。繋がる為の電子音を耳にしながら、スティレンは軽く息を吐いた。
 間を置いてからようやくラスの『もしもし?』という声が聞こえる。スティレンは内心ホッとしつつも、ちょっと!と叫んでいた。
「何か無い訳!?俺が実家に戻ってる間にさあ!」
 突然意味不明な事を叫ばれたラスは、ええ!?と動揺したように返事をしていた。
『何が!?特に何も無いけど』
「むしろそっちから俺に電話かけるべきじゃないの!?融通きかないんだから!」
『めちゃくちゃ理不尽過ぎるけど変わった事なんて別に何も無いよ!?』
 何も無いから連絡のしようもないじゃないかと電話越しのラスは困惑していたが、しばらくしてから『あ、そうだ!』と思い出したように続けた。
「何!?」
『スティレンを求めにサキト君が来てるよ!』
 その名前を聞いた瞬間、スティレンは全身の毛が逆立ってしまった。
「はぁああああ!?」
『だから早く戻って来てね!』
 何で居るんだ、と顔を引きつらせながら言う。しかも休暇の時を見計らったかのように。
「追い出してよ!」
『いやー、無理だと思うなぁ。何だか事務所側に結構包んだらしいよぉ。むしろ歓迎モードで今日ご馳走作ってくれるってさぁ』
 何と卑怯な、と唇を震わせた。
「どうにかしてよ、俺が戻れないじゃない!!数日したら戻るつもりだったのにさあ!俺あいつ嫌いなんだけど!!」
『そんな事言われても…向こうはスティレンの事が大好きらしいよぉ。だから俺がどうしようが絶対動かないって』
 間延びしたようなラスの発音すら苛立ってくる。
『あ、先輩が呼んでる。今から晩ご飯なんだぁ。お陰でめっちゃ豪華なの。早く食堂に行かないとみんなに食べられちゃうからね、一旦切るよ。早く戻って来た方がいいよ、スティレン』
 電話の向こうでそう告げると、薄情なラスはじゃあねえとだけ言って電話を切ってしまった。ツーツーと無機質な音を聞きながら、スティレンは「ふざけないでよ!!」と叫ぶ。
 あの悪魔は休みの時にまで顔を出してくるのか。
「あぁあああもう、何なのあのガキぃいい!!」
 彼は携帯電話を手にしたまま、部屋の中で嫌悪感たっぷりに絶叫していた。
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