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そのななじゅうさん
この後美味しくいただきました
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自分宛に何か届いた、とリシェは荷物を持って部屋に入ってきた。ラスはよろよろする彼を手伝い、彼が持って来た大きな箱を引き取る。
「随分と大きな箱ですね」
よいしょ、と中に持っていくとゆっくりと床に置いた。
「実家からだ」
「食料品とかいろいろ入ってるんじゃないですか?優しいですね」
「それなら助かるけど」
意外に重かったので、ラスは普通に生活用品や食料じゃないかと推測している。寮生活の生徒には大変助かるし、家族のありがたみがよく身に染みるのだ。
ラスの家は遠方にある訳ではなく、帰ろうと思えばすぐ帰れる距離にあるのでこのように荷物を送られてくる事はまず無い。連絡を受ければ取りに行くというスタンスだった。
リシェはカッターで箱の上部に切り込みを入れると、ゆっくり一文字に裂いていく。
「送ってくれるのはいいんだけど」
「ん?何ですか?」
溜息混じりにリシェは続けた。
「抜群にセンスが無いんだよなぁ」
どういう意味なのか。
彼の言っている意味がよく分からない様子で、ラスはその中身が判明するのを確認するべく横に付いた。
箱を開き、中身を目の当たりにした瞬間。
…二人は無言で荷物を見つめてしまった。
「あぁ」
ラスはつい声に出した。
「ああ、うん…確かにセンスが無いですね…」
「何これ…手紙が入ってるな」
箱の隅っこに封筒が入っているのを引っ張り出す。無表情のままのリシェは封筒から手紙を取ると、複雑な表情で目を通す。
「いやぁ…これ、どうしろって言うんでしょうか」
ずっしりとした内容物を持ち上げ、ラスは苦笑した。
『旅行先でダチョウの卵を見つけたので買いました。沢山食べると思うので六つ送ります』
書面にはそのような事が記載されていた。
リシェは「何で?」と疑問を呈する。自分がこれだけのずっしりした重い卵を食べられるとでも思うのだろうか。
しかも六つだ。
縦にみっしりと詰められた大きな卵を持ち上げ、ラスは「凄いですねえ」と褒めた。それ以外に言える感想が見当たらないようだ。
「美味しいのかな」
「送ってくるって事は美味しいんだろう。どうしようかなこれ」
「何なら先輩、食堂に持って行ったらどうですか?うまい具合に調理してくれるかもしれませんよ」
何気なく口にした提案に、リシェは顔を上げるとぱあっと表情を明るくした。
「なるほど」
これだけあれば寮内の生徒達に満遍なく卵料理を出せるだろう。
自分では処理できないので丁度いい。
「そうだな。俺、とりあえず食堂に行って打診してくる」
今までセンスが無いと思っていたが、今回はその気持ちが変わった。自分は元より、みんながニッコリするならいいプレゼントだ。
ちょっと度肝を抜かれそうになったが。
リシェが足取り軽く厨房に向かったのと入れ替わりに、スティレンがノックも無しに部屋に入ってきた。いつものように普段着姿でも香水の香りを撒き散らしながら。
その為に彼が近くにやってきた事はすぐに分かるのだ。
「あれ、何それ?」
ラスが手にしていた大きな卵を見たスティレンは、不思議そうな顔で聞いてきた。
「ああ。これ?先輩の実家から送られてきたんだよ」
「でっか!!産んだのかと思った」
「そんな訳ないだろ…」
しばらくして、ようやくリシェが戻って来る。そしてスティレンを見かけるなり、丁度良かったと声をかけた。
「この卵を食堂に運ぶから手伝ってくれ」
「…っはぁあああ!?何で俺が」
重いからに決まってるだろ、と呆れる。だがいきなり運べと言われたスティレンは「意味分かんないんだけど!」と怒った。
「先輩、許可貰ったんですか?」
「めちゃくちゃ喜んでた」
それなら安心だ。最初はどうしたらいいのか分からなかったが、結果オーライという訳だ。箱を持って食堂に行こう、とラスも動き出す。
「ほら、お前も手伝え。卵料理が食えるぞ」
「いきなり手伝えとか!俺の美しい指が歪んだらどうしてくれるのさ!?」
「三人で運べば指なんて歪まないだろ。さっさと動け」
ぶつぶつ文句を言うスティレンを促し、三人で箱を持ち上げた。箱は三人で持つには軽減されたが、リシェはよくこのような物を一人で持ってこれたなと感心する。
どうせなら全部使って巨大卵焼きに挑戦して欲しいが、それも厳しいだろう。寮の調理場はそれを可能にするレベルの鉄板も無い。
「どんな味になるんでしょうね、楽しみだなぁ。ね、先輩」
「そうだな。楽しみだ」
ほのぼのした会話をしながら、巨大卵による料理に期待に胸を躍らせる。ただ一人を除いて。
「ちょっと、意味も分からずに手伝わされてる俺の身にもなってくれない?可哀想だと思わないの、俺が!?」
自分を哀れむような言動に慣れている二人は、分かった分かったと軽く返す。
「これを持っていくと美味しい卵料理が食えるんだぞ。我慢しろ」
「知ってるよ!!もう、ほんとタイミング悪…」
スティレンは諦めたように毒づきながら、しっかりと箱を持って一緒に移動する。
結局彼も、同じように料理が楽しみだったようだ。
「随分と大きな箱ですね」
よいしょ、と中に持っていくとゆっくりと床に置いた。
「実家からだ」
「食料品とかいろいろ入ってるんじゃないですか?優しいですね」
「それなら助かるけど」
意外に重かったので、ラスは普通に生活用品や食料じゃないかと推測している。寮生活の生徒には大変助かるし、家族のありがたみがよく身に染みるのだ。
ラスの家は遠方にある訳ではなく、帰ろうと思えばすぐ帰れる距離にあるのでこのように荷物を送られてくる事はまず無い。連絡を受ければ取りに行くというスタンスだった。
リシェはカッターで箱の上部に切り込みを入れると、ゆっくり一文字に裂いていく。
「送ってくれるのはいいんだけど」
「ん?何ですか?」
溜息混じりにリシェは続けた。
「抜群にセンスが無いんだよなぁ」
どういう意味なのか。
彼の言っている意味がよく分からない様子で、ラスはその中身が判明するのを確認するべく横に付いた。
箱を開き、中身を目の当たりにした瞬間。
…二人は無言で荷物を見つめてしまった。
「あぁ」
ラスはつい声に出した。
「ああ、うん…確かにセンスが無いですね…」
「何これ…手紙が入ってるな」
箱の隅っこに封筒が入っているのを引っ張り出す。無表情のままのリシェは封筒から手紙を取ると、複雑な表情で目を通す。
「いやぁ…これ、どうしろって言うんでしょうか」
ずっしりとした内容物を持ち上げ、ラスは苦笑した。
『旅行先でダチョウの卵を見つけたので買いました。沢山食べると思うので六つ送ります』
書面にはそのような事が記載されていた。
リシェは「何で?」と疑問を呈する。自分がこれだけのずっしりした重い卵を食べられるとでも思うのだろうか。
しかも六つだ。
縦にみっしりと詰められた大きな卵を持ち上げ、ラスは「凄いですねえ」と褒めた。それ以外に言える感想が見当たらないようだ。
「美味しいのかな」
「送ってくるって事は美味しいんだろう。どうしようかなこれ」
「何なら先輩、食堂に持って行ったらどうですか?うまい具合に調理してくれるかもしれませんよ」
何気なく口にした提案に、リシェは顔を上げるとぱあっと表情を明るくした。
「なるほど」
これだけあれば寮内の生徒達に満遍なく卵料理を出せるだろう。
自分では処理できないので丁度いい。
「そうだな。俺、とりあえず食堂に行って打診してくる」
今までセンスが無いと思っていたが、今回はその気持ちが変わった。自分は元より、みんながニッコリするならいいプレゼントだ。
ちょっと度肝を抜かれそうになったが。
リシェが足取り軽く厨房に向かったのと入れ替わりに、スティレンがノックも無しに部屋に入ってきた。いつものように普段着姿でも香水の香りを撒き散らしながら。
その為に彼が近くにやってきた事はすぐに分かるのだ。
「あれ、何それ?」
ラスが手にしていた大きな卵を見たスティレンは、不思議そうな顔で聞いてきた。
「ああ。これ?先輩の実家から送られてきたんだよ」
「でっか!!産んだのかと思った」
「そんな訳ないだろ…」
しばらくして、ようやくリシェが戻って来る。そしてスティレンを見かけるなり、丁度良かったと声をかけた。
「この卵を食堂に運ぶから手伝ってくれ」
「…っはぁあああ!?何で俺が」
重いからに決まってるだろ、と呆れる。だがいきなり運べと言われたスティレンは「意味分かんないんだけど!」と怒った。
「先輩、許可貰ったんですか?」
「めちゃくちゃ喜んでた」
それなら安心だ。最初はどうしたらいいのか分からなかったが、結果オーライという訳だ。箱を持って食堂に行こう、とラスも動き出す。
「ほら、お前も手伝え。卵料理が食えるぞ」
「いきなり手伝えとか!俺の美しい指が歪んだらどうしてくれるのさ!?」
「三人で運べば指なんて歪まないだろ。さっさと動け」
ぶつぶつ文句を言うスティレンを促し、三人で箱を持ち上げた。箱は三人で持つには軽減されたが、リシェはよくこのような物を一人で持ってこれたなと感心する。
どうせなら全部使って巨大卵焼きに挑戦して欲しいが、それも厳しいだろう。寮の調理場はそれを可能にするレベルの鉄板も無い。
「どんな味になるんでしょうね、楽しみだなぁ。ね、先輩」
「そうだな。楽しみだ」
ほのぼのした会話をしながら、巨大卵による料理に期待に胸を躍らせる。ただ一人を除いて。
「ちょっと、意味も分からずに手伝わされてる俺の身にもなってくれない?可哀想だと思わないの、俺が!?」
自分を哀れむような言動に慣れている二人は、分かった分かったと軽く返す。
「これを持っていくと美味しい卵料理が食えるんだぞ。我慢しろ」
「知ってるよ!!もう、ほんとタイミング悪…」
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