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そのななじゅう

変態スナイパー

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 気温が高い日が続いていた。
 日中も高く、うだるような暑さにダウンしそうになるのだから夜はまだマシかもしれない。だがそれでも暑いものは暑い。
「はああ…エアコンはまだ禁止だし…鬼かな」
 ラスは部屋の窓を開き、外気の風を浴びようとした。
 リシェも無表情のままだが、じわじわと汗が湧き出てくる不快感に襲われている。しばらくすると、風を感じたのかラスは軽く歓声を上げた。
「あっ、ちょっと涼しい!」
「本当か?」
 リシェも窓に近付き、自然の恩恵に与ろうとした。
 その瞬間。
「…ぎゃあああああ!?」
 ラスが突然悲鳴を上げる。風を切る音がし、ピタン!!と彼の額に何かがくっついていたのだ。
 リシェはそれを眼前で目撃し、うわあ!と身を引く。
「何だそれ!?お前、スナイパーに狙われたぞ!」
 見れば吸盤付きの矢文がラスの額に綺麗に命中していた。
「んんんぁああ!!もう!!」
 誰の仕業なのかラスはよく分かっていた。額に着いた矢文を毟り取ると、括り付けられていた手紙を強引に取って文面を見る。
 リシェも恐る恐るラスが手に持つその手紙を覗き見た。

『暑くなっているので薄着のリシェを見せなさい。むしろ上半身脱いでも構いません。ベランダにきちんと立たせるように誘導して下さい』

 二人は無言になった。
「何だこれ、めちゃくちゃ気持ち悪い」
 変態さもここまでくれば最悪だ。リシェは寒気を感じ、部屋の奥へと引っ込んだ。そしてそこから不愉快そうに問う。
「何で俺?」
「…いや…先輩だからですよ…」
 手紙を出してきた相手はロシュなのだから。
 それにしても一体どこから矢文を飛ばしているのだろう。
「んびゃっ!?ぎゃああ!!」
 ピスッ、ピスッ!と再度矢文がラスの頭と額に飛んできた。何というコントロールなのだろう。ピンポイントで頭に当ててくるなど、かなりの腕を上げているではないか。
 ラスは怒りに任せて矢文を毟ると、外に向けて「いい加減にしろ!!何なんだあんたは!!」と叫んだ。
 部屋の奥のリシェはひい、と涙目になっている。
「ああ、もう!何て奴だ、教師とは思えない!」
 再度手紙を開く。

『早く』
『早くしなさい。エッチで可愛いリシェを眺めたいのです』

 手紙を無言で破ると、「黙れ変態!!」と怒鳴った。
「誰が言う事を聞くか!!」
 ああ、もうムカつく!と暑さの不快感も重なり苛立っていると、部屋の奥に引っ込んでいたリシェはおもむろに謎のボウガンを手に窓辺に戻ってきた。
 それを見るなりラスは「は!?」と身を退かせる。
「改造した水鉄砲だ。その矢を貸せ、ラス」
「せ、先輩…!?」
 リシェはラスの手から吸盤の矢をひったくると、おかしな方向に魔改造された水鉄砲の中にそれを装填させた。一体いつ作ったのだろう。むしろ部屋のどこにあったのか。
「気持ち悪い奴め。俺が引導を渡してやる」
 ラスはハラハラしながらリシェに問う。
「あの…矢が来た方向分かりますか?」
 困惑するラスの隣で、リシェはベランダの手摺りの下に身を潜めて隙間から水鉄砲の銃口を外部に向ける。
「飛んできた風の音と、お前の頭のどの部分に当てられたかで方向は大体分かった」
「へ!?先輩にそんな趣味が」
 リシェは無言で大体の方向に焦点を定めると、容赦無く水鉄砲の引鉄を引く。装填されていた矢は勢い良く先端から飛び出し、暗闇の中風を引き裂いた。
 ハラハラしながら経過を見ていたラスの耳に、闇の中で「ぎゃあああ!!」と大人の悲鳴が遠くから聞こえてくる。
 同時に倒れる音。
 何という才能なのだろう。こんな闇の中でピンポイントで狙い撃ちが出来るなどとは。
 リシェはドヤ顔で体を起こすと、「見ろ」と誇らしげに言った。内心物凄く嬉しいのだろう。その顔はキラキラと輝いて見える。
「変態は死んだぞ」
 仮にも本人がこよなく愛しているロシュに対して、記憶が無いとはいえ遠慮無く魔改造されたボウガン水鉄砲を放つとは。
「死んだ!!俺が倒した!!」
 何故嬉しそうなのか。
 いや、多分倒れただけです…とラスは普通に反論した。
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