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そのろくじゅうさん

有害であろう図書

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 授業の合間の休み時間を利用し、リシェは調べ物の為に学校内の図書室に足を運んでいた。アストレーゼン学園内にある図書室は、中等部と高等部の生徒達共用となっていて、施設内の広さや本の種類も多岐に渡っている。
 周辺の学校と比較すると、より大規模な図書室だった。
 リシェはあらかじめメモしていたタイトルを見ながら検索するべくカウンターに置かれているタブレット端末を前にする。早々と検索して調べものをして、残りの休み時間を自由に使おうと考えていた。
 パネルをタッチしていると、すぐ真横でカウンター越しに質問する無邪気な声が飛び込んでくる。
「ねえ、まだ入荷しないのぉ?」
 まだ幼く、甘えた声音の声。
「入荷する予定は無いですね」
 はっきりと職員は答えた。入荷予定の無い本を求めるのも珍しい、とリシェはつい手を止めて隣をちらりと見ると、いつぞやのゆるふわな中等部の少年が居た。前回見た時は中庭でハトにパンの切れ端を餌としてあげていたような気がする。
 リシェは「あ…」と声を上げてしまうと、相手もリシェに気付き可愛らしく笑顔を見せてきた。その笑顔はとにかく愛の天使のような華やかさを感じさせてくる。
「あれぇ?前にも会ったよねぇ…発情したハトに突かれてた子でしょ?」
 発情したハトって何だよ、とリシェは嫌そうな顔をした。
「君も図書室に来るんだね。んふふ」
「調べ物をしたいだけだ」
 リシェは再びタブレット端末に顔を向けると、自分で検索を始める。すると相手はするすると近付いてきた。
 腕に絡み付きながら甘い吐息混じりに「何を調べるのぉ?」とじわじわ懐いてくる。
「何だよ、鬱陶しいな。お前には関係無いだろ」
「気になるんだもん。ね、何調べたいの?エッチな内容?」
「何でそうなるんだ。そんな訳ないだろう。むしろ名前すら知らないのに話しかけてくるな」
 年柄年中発情期のような発言に、リシェはドン引きする。まだ中等部のくせにませ過ぎだ。一体普段どんな生活をしているのだろう。親の顔を見てみたい。
 彼はリシェのドン引きをする気持ちを全く知らずに、生来の可愛い顔で迫ってくる。
「お前は自分の調べ物があるんだろ。邪魔をするな。て言うかお前誰だよ」
「んんん、僕はルシル。ルシル=クラリス=ランベール。これで知り合いだよねっ★んっとね…調べたい物っていうか、取り寄せてってお願いしてるのに入れてくれないんだもん。ね、君からお願いしてよぉ」
「何だよ面倒臭いな」
 リシェは困った顔をしながらカウンター越しの職員を見た。
 職員は無表情のまま作業をしている。
「他の子の要望は聞くのに、僕のだけはしてくれないんだよぉ。酷いと思わない?」
 目を潤ませながらリシェの腕にしがみつき訴える。
「あの」
 リシェは渋々作業中の職員に話しかけた。職員は無表情のままで「何ですか?」と問う。
「こいつが欲しいって言うジャンルって何ですか?」
「あん、こいつだなんて…」
 引っ付くルシルを剥がそうとするリシェに、職員はやはり無表情を決めたまま「しょうもないジャンルですよ」と返す。
「しょうもない?」
 リシェは眉を顰めた。
「この子、これだけ可愛い顔して性教育の本やら官能小説やら、とんでもないものを取り寄せてくれってうるさいんですよ。どう考えても学生向けとは言いにくいのに。何回も頼んできてとにかくタチが悪い。ガキのくせに」
 最後にぽろっと本音が出た。
 リシェはルシルをちらりと見ると、彼は悪びれもせずに「だって」と首を傾げる。
「読みたいんだもん。しょうがないじゃない…ねっ、リシェ?」
 何故かそこでこちらに同意を求めてきた。
 一緒にされてはたまらないとリシェは彼の手を払うと、ルシルの言葉を完全に否定した。
「お前と一緒にするな、変態」
 何をどうしたらそんな性質になるのだろうか。
 はっきりとしたリシェの言葉を受け、酷いなあと呟く。
 ルシルは頰を膨らませて、心の底では興味あるくせにぃとむくれていた。
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