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そのごじゅうはち

かくれんぼ

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 あぁ…だっる。
 気分にムラがあり過ぎるタイプのスティレンは一人、職員室に向けてクラス分のノートを提出する為に歩いていた。一クラス約三十人分。何故自分がやらねばならないのかというのは、今日がたまたま日直だったからだ。
 この俺にこんな事をさせるとか、と内心苛々しつつも、素直にノートを回収して職員室へ向かう。どうせ従わなければ成績にも響くのだろう。仕方無くやっているだけだ。
 この間にもあのリシェは変な奴に懐かれているに違いない。
 そう思うと一刻も早く彼の元に行かなければ。
 生徒達が行き交う中、職員室へ繋がる廊下に出る。はあ…とやる気なさそうな溜息を吐きながらトボトボと歩いていると、何処からか急に飛び出す影にぶつかってしまった。
 突然の衝撃にスティレンは両手に抱えていた三十人分のノートをぶちまけてしまう。
「うあああ!!」
「いぃいってぇ!!何だ!?」
 ぶつかった拍子にバランスを崩して尻餅を着く形で床に倒れたスティレンは、バラバラにされたノートを見回すと相手を睨み上げる。
「ちょっと!!いきなり何なのさ!?俺が怪我したらどうしてくれるの!?」
 ここでも口を突いて出るのは散らされたノートの心配ではなく自分の心配だった。
 他人のノートよりも彼は何より自分が優先だ。
「んああ…?あー、悪かったよ。今かくれんぼの最中だったんだよ。だからさ、つい見れてなくて。じゃあな!」
 短い金髪を若干トゲトゲにさせた愛嬌のある少年は、真っ青で大きな瞳をキラキラさせながらスティレンに挨拶する。しかしそのまま帰ろうとする彼をスティレンは許さなかった。
「…待ちな!!」
 何もせずに帰ろうとする彼の腕をすかさず捕捉する。
 相手は不満そうに唇を尖らせた。
「なーんだよーぉ」
「何だよ、じゃないよ!!あんたが勝手にぶつかってきたんだから片付けな!!」
「ええ…そっちだってボサッとしてたからこうなったんじゃん。上手く避けろよなー」
「ぶつかっておいてそれ!?偉そうに抜かしてんじゃないよ…って、あんた何、中等部の制服じゃん!!何でこっちに来てんのさ!?あんたらの縄張りはあっちでしょ!?」
 制服のタイの色で、スティレンはすぐに分かった。
 中等部と高等部はそもそも校舎が分けられていて、普通ならば中等部の生徒はこちらには来ない。逆に高等部の生徒は稀に懐かしむように足を運ぶ者も居なくはないが、ほとんどはお互い行き交いもしないのが通常。
 なのに彼は平気でこちら側に入り込み、その理由はかくれんぼときたものだ。
 怖いもの無しにも程がある。
 しかし中等部の彼は「こっちに来たら見つからねーと思ってさあ」と悪びれずに笑った。その笑顔が妙に可愛らしくて、スティレンは余計ムッとする。
「そりゃあ誰も来ないだろうさ。…でもかくれんぼの意味無いだろ!ノート回収したらあっちに帰んな!」
 スティレンはノートを集めながら怒鳴る。
「もー、あんたがぼさっとしてるからー」
「はぁああ!?」
 少年はぶちぶちと文句を言いながらノートを集める。
「次は気をつけなよー?」
 全て回収した後、彼は何故かスティレンに説教をした。ぶつかってきたくせに意味不明だ。
「あんたが気をつけてよ!てか、高等部に来んな!!」
「俺、あんたって名前じゃねーし。ルイユって名前だし」
「あんたの事なんてどうだっていいんだよ。むしろ俺に謝るべきだと思うけど!?」
 ルイユは仕方無ぇなあ…と溜息を吐いた。
 そしてスティレンに向けてちょいちょいと手招きする。
「俺の背の高さに合わせて屈んで」
「あぁ?何でさ」
「いいからいいから。あんた背がちょっと高いから」
 何で自分がこんなガキに、と渋々彼に従い同じ位に合わせて屈む。その瞬間、目の前が真っ暗になって唇に柔らかな感触を受けた。
 は!?と反射的に体を引っ込める。同時に再び落下するノート。
「ほぉおお」
 ルイユはスティレンの過度な反応に少し嬉しそうににっこりと笑うと、嬉しいだろ?と言いだす。
「…っが、なっ…何っ、こっの…!!クソガキ…!!」
 触れた唇をゴシゴシと擦るスティレンの反応を楽しむようにしながら、ルイユは面白ぇ反応だなぁと神経を逆撫でする言葉を吐いた。
 そしてまた散らばってしまったノートをチラッと見ながら、彼は「あーあ」と無邪気に笑う。
「今回は手伝ってやんね!あんたが勝手に落としたんだからな♬」
 怒りに顔を真っ赤にさせる先輩をさし置いて、ルイユはじゃあなー!と来た道を戻って行った。
「ふざけるなよマセガキ!!戻って回収しな!!」
 スティレンは彼の背中に怒鳴るが、ルイユはそれをスルーしながら姿を消す。
「俺の可憐な唇を何だと思ってるんだ!!許さないからな!!」
 怒りに任せて自分でばら撒いてしまったノートを回収する。
「唇が歪んだらどうしてくれるのさ…!!腹立つ!!覚えてろよクソガキ!!」
 苛立ちと動揺に打ち震えながら、そこでも自画自賛の言葉を吐き散らかしていた。
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