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そのごじゅうさん

モテ期

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「人生には三回モテ期があるといいますが」
 ラスは向かい合うリシェに言った。
「先輩はモテなくてもいいと思うのです」
「………」
 それはリシェも同意だ。
 スティレンは「何なのさいきなり」と呆れる。
「あんたが元から失礼なのは理解してるけど、いきなりモテなくてもいいとか言われたら俺だったらビンタしちゃうよ、ラス」
 その攻撃的な発言に、ラスは男子校なのにここでモテたいのか?と思っていた。
 いつもの放課後の屋上。
 オレンジ色に染まりかける校舎は、生徒達へ帰宅を促すような雰囲気を醸し出す。
 リシェは地面に直に座り、困った表情のままでスティレンを見上げてお前は他人からの評価が一番大事だもんなとはっきり告げた。
「うるさいよ、リシェ。俺が美し過ぎるからって嫉妬しないでくれない?」
「嫉妬する要素なんかあるものか」
 スティレンはすかさずリシェの頰をぐにょりと引っ張った。また引っ張られてしまうリシェは痛い痛いと喚く。
 ラスはそんな彼らに落ち着いてと宥めた。
「先輩は俺だけにモテればいいのですよ」
「ラス、あんたも変な事言わないでよ」
 痛みを押さえ、リシェはひいひいと涙目になっていた。
 思えば今日は散々な日だ。ラスの同級生には迫られるし、スティレンには頰を引っ張られるし。そういえば中庭でハトに追われ、おまけにフンを踏んだ。
 リシェは「何なんだよお前ら」と嘆く。
「黙ってれば好き放題言いやがって」
 泣きながら彼は二人に言った。
「好き放題していいだなんて、そんな先輩!何てエッチで大胆な…!!そんな事を言われちゃうと俺、困ってしまいますよ!」
「…リシェ。ラスを殴ってもいいんだよ」
 いつものおかしげな妄想をしだすラスにうんざりするスティレン。過激な発言を無視し、リシェはかくりと頭を垂れる。
 何故自分の周りには変なのしか寄り付かないのだろう。
 不運に苛まれ続け悲観的になるリシェの前で、同じように座り込むラスは勝手に妄想して勝手に頰を赤らめながら「先輩」と迫ってきた。
「先輩はこの通り可愛い顔をしていますから、他にも変な奴に言い寄られるかもしれないけど頑として断ってもいいんですからね。先輩には俺という立派な恋人が居るんですから…!」
 切実に言ってくれるが。
 リシェは不意に今日自分に話しかけてきた彼の友人を思い出した。そして「じゃあお前の友達をどうにかしろ」と返す。
「へ?」
 とぼけたようなラスの反応を見るなり、スティレンは何だよと呆れた。
「あんたの友達のベルンハルドだっけ?あのピアスごちゃってる奴。あいつ、リシェに迫ってたんだよ。何なのさあれ?」
 ラスは初耳とばかりにスティレンに目を向ける。
「え???」
「連絡先教えろってしつこかったんだから。そもそも美しい俺を差し置いて何なのって話だよ。失礼だと思わない?」
 話がだんだんおかしな方向に向かうスティレンをスルーし、ラスはリシェの顔を覗き込みながら「先輩?」と困惑する。
 思い出したリシェはまたぼろぼろと涙を零した。
「ああ、鬱陶しいね!!いちいち泣くんじゃないよ!!」
 あまりにも泣く頻度が多すぎて、スティレンは苛々とリシェに怒り出す。
「お、お前には分かるもんか。意味不明な奴に引っ付かれる恐怖なんか」
「その位知ってるっての!!道を歩けばおっさんに追われたり、変な男に下着の色聞かれたりするんだからね!!」
 そっちの方が何だか酷い気がする。ラスはそう思った。
 彼の場合気が強いから普通に撃退出来るのだろう。しかしリシェは逃げの態度しか取っていないのだから、つい弱気になり過ぎるのだ。
「スティレンは常にモテ期なんだね…」
 色んな種類にモテているのだ。それが例え変質者であろうと、彼にとっては一種のステータスになっている節がある。
 ラスの言葉を褒め言葉と受け取ったスティレンは、ふふんと得意げな表情を見せた。当然でしょ、と。
「俺は世界で一番最高だからね。だから美しさを常に保って、全身に気を使い続けてるんだから。年中無休でモテなきゃおかしいよ」
 これを素で言うのだから凄い。
 モテる相手は変質者でも構わないのだろう。
「俺はスティレンみたいにモテたくない…」
 変態なんかうんざりだ。
 めそめそと泣き続けているリシェは、ラスを前にして切実に呟いていた。
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