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そのよんじゅうなな

ラス「先輩が誘ってきた(夢の中で)」

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 自分の目の前で、切なげな顔を向けながら最愛のリシェが迫っていた。どんな経緯でそうなっているのかラストには分からないまま。
 だがこれは、自分にとってめちゃくちゃ美味しいシチュエーションだったりもする。むしろこういう神がかりなイベントを内心望んでいたのだ。
「ラス。熱い。体が熱い」
 自室のベッドの上で、可愛らしい顔のリシェが熱くなった体をどうにかして欲しいと切実に訴えてくるという状況に、動揺しながら待って待ってと止めようとしていた。
 本当はとにかくめちゃくちゃ嬉しい。
 あの毎度何をやろうにも全くつれないリシェが、自分を求めてくるとかあり得ない場面を作っているのだ。これを見逃す程、自分はヘタレではない。
 うぬぬと自分の欲望を我慢しながら、紳士的に大丈夫ですか?と優しく問う。
 リシェは自分に抱き着くと、荒い呼吸をしながらもうダメと寝巻の前を開けようとしてきた。
「あっ…!ああっ、先輩!!そんな、大胆な…!!」
 ふわりと彼の匂いを感じながら、ラスは首を振った。ほっそりした体を抱きとめると自分の中に棲みつく獣が暴れ出そうとしてくる。
 そんな、まだ俺達学生なのにっ!
 まさかこんな時がやってくるなんて思いもしなかったのだ。リシェは更に迫り、寝巻のボタンを外して裸体をじわじわ見せながら熱っぽくこちらを見上げていた。
「ラス」
「は…はひゃああ」
 間抜けな悲鳴を上げてしまった。紳士的に振る舞うつもりだったのに、これではヘタレ過ぎる。
 それなのにリシェは小悪魔的な顔で抱き着いてきた。黒い髪をふわりと揺らし、熱っぽく頰を紅潮させ濡れたような目を向けて。
「体が熱いから、鎮めて欲しい」
 その言葉にラスは舞い上がり、先輩ぃいい!と叫びながら彼を押し倒していた。

 いけません先輩!!あー!!いけませんんん!!!という頓狂な叫び声に、リシェは目を覚ましてがばりと起き上がっていた。ベッドに付いている小さな電球にスイッチを入れ、いきなり叫び出したラスに向かって「おい!!」と声を荒げる。
 ラスは自分のベッドで悶え、先輩ぃ!先輩ぃ!と叫び続けていた。
「ちっ…人が寝てるっていうのに!起きろ、ラス!!うるさい!」
 リシェはベッドから降りて悶えたままのラスに近付くと起きろと怒鳴った。あまりにも寝ぼけているので乱暴に揺さぶる。
「ほら、起きろ!何なんだお前!?」
「せ…先輩ったら!先輩のエッチ…!」
「あぁ!?」
 人を使って何の夢を見ているのか。リシェはラスの耳を引っ張り強引に起こした。
 彼は痛みにはっと目を開く。
 はぁあっ、と我に返ったラスは目の前で苛立った顔のリシェに気付いた。
「あー!!!先輩っ、先輩ぃ!!」
 まだ夢の延長だと思っているらしい。彼はリシェの腕を引っ張ると、自分のベッドに引き倒してしまう。
「ぎゃあああああああ!!?」
「夢じゃないい!先輩っ、好き!好きぃいい」
 いきなり押し倒される側はたまったものではない。リシェはまだ寝ぼけているのか!と激しく抵抗を続ける。ひたすら往復ビンタをしまくっていると、やがて彼は正気に戻り始めていた。
 なんだかおかしい、と彼なりに感じたようだ。
「ひぇんはい…?」
 リシェは自分の上に居るラスを睨みつけながらやっと起きたかと言った。
「いたい、へんはい」
「ここまで殴られなきゃ分からんのかお前は」
「うう…」
 そこでようやく夢を見ていたのだと気付いた。
「せ、せんぱい…夢で俺にすっごい迫ってたの…」
「知るか」
「な、生殺しだ…う、ううっ」
 腫れた頰で嘆き始める。ラスはリシェの上で天国から地獄に突き落とされたかのような絶望的な様子を見せていた。リシェははあっと溜息をつく。
 さっさと寝たいのに。
 仕方無く、彼は体を移動させると「ほら」とラスに声をかけた。
「え?」
「添い寝してやる。このまま寝ろ」
「………」
 リシェの言葉に、ラスはきょとんとした。それは一緒に寝てくれるという事でいいのだろうかと。
「先輩?」
「寝るだけだ。何もするなよ。何かしてきたら容赦無くアバラ折るからな」
 とにかく早く眠りたいリシェはラスの布団の中でもぞりと埋まった。ラスは半泣きになりながら先輩、と声を上げる。
「抱っこしていい?先輩」
「………」
 面倒臭い奴だ。
 リシェは眠気に耐えながらそこから何もするなよ、と念を押すと彼の腕の中に入り込む。
 ラスは嬉しさのあまり「ああ…!」と感嘆の声を漏らすと、既に寝息を立てているリシェの髪を優しく撫でながら目を伏せた。

 翌朝。
「先輩を抱っこして寝たら腕が痛くなっちゃった★」
「はぁあああ!?何してくれてんのさ、死ね!!」
 にやけながらラスは嬉しそうにスティレンに自慢する。
 その様子を遠目で見ていたリシェは、眠気に負けたとはいえそのまま寝てしまったのを悔み、黙って蹴飛ばして自分のベッドに戻れば良かったと後悔していた。
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