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そのよんじゅうろく
見返りを求めようとする変態
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昼休みに昇降口付近で開かれているパンの販売に行こうとしていたリシェだったが、行きがけにばったりとロシュに遭遇していた。反射的にひい!と声を上げてしまう彼に、ロシュはちょっと困惑しながらもにっこりと微笑む。
「おや、リシェ。あれから良くなったみたいですね…良かった」
安堵した様子で話し掛けてきた。
リシェはぺこんと頭を下げて礼を言う。
「お忙しいのにありがとうございました」
頭を下げると同時にさらりと流れる黒髪を撫でてやりたいという衝動に駆られつつ、ロシュは紳士的にいえいえと微笑んだ。ここは秘めたる欲望をぐっと堪えていかないと人としていけない気がする。
本当ならぎゅううっと抱き締めて頬擦りしてあげたい。
むしろ物陰に連れ込んで思いっきり可愛がってあげたい。
「あなたが元気なのが何より嬉しいですよ、リシェ」
「お世話になりました。お陰様でもう大分良くなりました」
「あなたの事は良くわかっているつもりですから」
元の世界ならば何の抵抗もなく受け入れられる発言だが、今のリシェには何故?というリアクションしか出て来ない。
リシェはあまり深く考えないようにした。怖いから。
怯えが出るのをどうにか抑えてながら、彼は「俺、パンを買わないといけないので」と頭を下げた。早く行かなければ売り切れてしまう。
リシェの発言を受け、ロシュはちらりと購買の方に目線を向けた。見れば、生徒達の波が購買に向かって進軍している。
へえ。と目を細めた。
あの人の波に可憐な出で立ちのリシェが耐え切れるとは思えない。ロシュはリシェの目線に合わせて屈むと、「何か欲しいものはあるのですか?」と問う。
え?とリシェはぽかんとする。ロシュはにっこりと優しく微笑むと、「あなたは病み上がりですからね」と彼の頭を撫でた。
「え…あ、あの、焼きそばパンとあんパンがあれば」
「そうですか。ちょっとお待ちなさいね」
え?え?と困惑するリシェを余所に、ロシュはその人並みに向かって歩き始めた。混雑していく生徒の波の中、彼は悠々を進んでいく。
目的のパンを求め、飢えて殺気立つ生徒らはロシュの姿に気付くと、どういう訳なのか彼に道を譲るかのように間を広げていった。
「ロシュ先生だ」
「めっずらし…先生もパン食うんだ」
「相変わらず綺麗な人だな」
「あれ、本当に男か?女子とかじゃねえよな」
ロシュは中身はあれだがとにかく見栄えだけは良い。
口々に生徒らから溜息混じりの賞賛と憧れの声が聞こえてくる。
女っ気に飢えた年頃の生徒達は、中性的な彼に対して数歩下がって見てしまうのだ。まるで彼に道を作っていくかのように、彼らはロシュに道を譲っていた。
リシェは口をぽかんと開きっぱなしにして、その異常な光景を眺めている。道を譲られたロシュは周囲の生徒らに「ありがとうございます」と優雅な微笑みを向けると、目的のパンを手に取ってお金を支払った。
売店のおばちゃんですらぽうっとしてしまう始末。
ロシュは丁寧に頭を下げると、生徒達が見送る中でまたも悠々とリシェの元へ戻ってきた。同時に我を取り戻した生徒達は再びパンを求め始めた。
まるで一瞬時間が止まったかのようだ。むしろ神なのかと思えてくる程、さらっとパンを買ってきた。
あまりのあっさりぶりでぼんやりしていたリシェに、ロシュは戦利品を「はい」と差し出した。ハッとリシェは財布から金額分を出そうと焦る。
「あ、ありがとうございます」
「お金は要りませんよ、リシェ」
「で、でも」
ロシュは得意の微笑みをすると、また同じ目線で屈んでリシェの耳元で優しく囁いた。
「お礼は後で沢山頂きますから」
後で沢山…??
リシェは大きな目を見開き、ロシュの綺麗な顔をそろりと見た。
意味深過ぎる言葉に何故かぞわりとし、咄嗟に彼は自分の財布から金額分を引っ張ると、ロシュの手にお金を突き出して握らせる。
「ち、ちゃんと払わないと俺の気が済まないので!!」
反射的にそれを受け取ったロシュは、わわっと声を上げた。
パンを抱き締め、リシェは頭を下げて物凄い勢いでそこから逃げ出してしまう。
…やっぱりあの人は変態なんだと思う!!
絶対借しを作ってはいけない、と思った。
後でお礼を頂くと言い出した時点で、謎の防衛本能が働いていたのだ。その内容は不明だが、きっといかがわしい事に違いない。
リシェはうわあああと悲鳴を上げて猛ダッシュしながらロシュから離れていった。
「おや、リシェ。あれから良くなったみたいですね…良かった」
安堵した様子で話し掛けてきた。
リシェはぺこんと頭を下げて礼を言う。
「お忙しいのにありがとうございました」
頭を下げると同時にさらりと流れる黒髪を撫でてやりたいという衝動に駆られつつ、ロシュは紳士的にいえいえと微笑んだ。ここは秘めたる欲望をぐっと堪えていかないと人としていけない気がする。
本当ならぎゅううっと抱き締めて頬擦りしてあげたい。
むしろ物陰に連れ込んで思いっきり可愛がってあげたい。
「あなたが元気なのが何より嬉しいですよ、リシェ」
「お世話になりました。お陰様でもう大分良くなりました」
「あなたの事は良くわかっているつもりですから」
元の世界ならば何の抵抗もなく受け入れられる発言だが、今のリシェには何故?というリアクションしか出て来ない。
リシェはあまり深く考えないようにした。怖いから。
怯えが出るのをどうにか抑えてながら、彼は「俺、パンを買わないといけないので」と頭を下げた。早く行かなければ売り切れてしまう。
リシェの発言を受け、ロシュはちらりと購買の方に目線を向けた。見れば、生徒達の波が購買に向かって進軍している。
へえ。と目を細めた。
あの人の波に可憐な出で立ちのリシェが耐え切れるとは思えない。ロシュはリシェの目線に合わせて屈むと、「何か欲しいものはあるのですか?」と問う。
え?とリシェはぽかんとする。ロシュはにっこりと優しく微笑むと、「あなたは病み上がりですからね」と彼の頭を撫でた。
「え…あ、あの、焼きそばパンとあんパンがあれば」
「そうですか。ちょっとお待ちなさいね」
え?え?と困惑するリシェを余所に、ロシュはその人並みに向かって歩き始めた。混雑していく生徒の波の中、彼は悠々を進んでいく。
目的のパンを求め、飢えて殺気立つ生徒らはロシュの姿に気付くと、どういう訳なのか彼に道を譲るかのように間を広げていった。
「ロシュ先生だ」
「めっずらし…先生もパン食うんだ」
「相変わらず綺麗な人だな」
「あれ、本当に男か?女子とかじゃねえよな」
ロシュは中身はあれだがとにかく見栄えだけは良い。
口々に生徒らから溜息混じりの賞賛と憧れの声が聞こえてくる。
女っ気に飢えた年頃の生徒達は、中性的な彼に対して数歩下がって見てしまうのだ。まるで彼に道を作っていくかのように、彼らはロシュに道を譲っていた。
リシェは口をぽかんと開きっぱなしにして、その異常な光景を眺めている。道を譲られたロシュは周囲の生徒らに「ありがとうございます」と優雅な微笑みを向けると、目的のパンを手に取ってお金を支払った。
売店のおばちゃんですらぽうっとしてしまう始末。
ロシュは丁寧に頭を下げると、生徒達が見送る中でまたも悠々とリシェの元へ戻ってきた。同時に我を取り戻した生徒達は再びパンを求め始めた。
まるで一瞬時間が止まったかのようだ。むしろ神なのかと思えてくる程、さらっとパンを買ってきた。
あまりのあっさりぶりでぼんやりしていたリシェに、ロシュは戦利品を「はい」と差し出した。ハッとリシェは財布から金額分を出そうと焦る。
「あ、ありがとうございます」
「お金は要りませんよ、リシェ」
「で、でも」
ロシュは得意の微笑みをすると、また同じ目線で屈んでリシェの耳元で優しく囁いた。
「お礼は後で沢山頂きますから」
後で沢山…??
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意味深過ぎる言葉に何故かぞわりとし、咄嗟に彼は自分の財布から金額分を引っ張ると、ロシュの手にお金を突き出して握らせる。
「ち、ちゃんと払わないと俺の気が済まないので!!」
反射的にそれを受け取ったロシュは、わわっと声を上げた。
パンを抱き締め、リシェは頭を下げて物凄い勢いでそこから逃げ出してしまう。
…やっぱりあの人は変態なんだと思う!!
絶対借しを作ってはいけない、と思った。
後でお礼を頂くと言い出した時点で、謎の防衛本能が働いていたのだ。その内容は不明だが、きっといかがわしい事に違いない。
リシェはうわあああと悲鳴を上げて猛ダッシュしながらロシュから離れていった。
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