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そのさんじゅういち
【変態定期】暗がりで密着
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「ラッキースケベという言葉があります」
いきなりラスはおかしげな言葉を放つ。
慣れ切ってしまったリシェは、読書を一瞬止めると興味無さげに「はあ」とだけ返した。
今日は珍しく風雨が激しく、酷い嵐になっているので部屋に篭る寮生が多い。部活動もほとんど切り上げて早めに帰宅していた。
強めの雨が部屋の窓をひたすら叩きつけてくる。
「その名の通り、たまたまエッチな事案が起こる時に使うらしいのです」
「それが何か?」
どうやら漫画を読んで感化されたらしい。
リシェは無表情のままでラスを見ていた。リシェはほとんど漫画を読まないので、内容は良く知らないが彼が漫画を結構な頻度で読む事は知っていた。
今は携帯電話でも読む事が出来るが、やはり紙媒体で読むのが一番だとリシェは思う。それはラスも同意見らしく、自分が読みたいものは必ず手に取れる本を購入していた。
「よーく考えると、俺は先輩となかなかラッキースケベな展開になってないような気がするんですよ」
「なってたまるか」
相変わらずつれない返事をして再び本を読み出す。
「無理矢理事案を起こすタイプのくせに」
「そ、そんな事無いですよ…先輩、奥手だからこっちが率先して迫らないと進展しませんし」
勝手に奥手にされている。
ラスはリシェにいつものように近付くと、床に座っている彼と向き合って読書をしていた彼の両手に触れた。
邪魔をされた感じがして、リシェは嫌そうにラスを見上げる。
「何だよ?」
「いや、ほら。実際こうして近付かないとそんな美味しい展開なんて出てこないかなと思って…」
その瞬間。
ピカッと外が光った。
「あっ」
凄まじい雷鳴が轟き、同時に部屋が真っ暗になる。
停電だ、とラスは窓の外を見た。部屋の外から、他の生徒らの声があちこちで聞こえる。
急な停電で驚いているようだ。
「近い場所に落ちたみたいですね。すぐに戻るといい…」
ラスは目の前のリシェに目を向けると、彼は自分にしがみついていた。暗がりの中、微かに見えるリシェの顔を覗き込む。
「…せんぱい?」
「………っ」
ラスを引き寄せるように手を伸ばし、無言でしがみつくリシェは暗がりを避けるようにして胸元に顔を埋めていた。
雷、怖いんだ。
そう気付くと、可愛い所見つけたと言わんばかりにラスはついくすりと笑った。
「先輩」
「………」
「先輩、雷怖い?」
「怖いものか!」
「嘘。怖いくせに」
優しく耳元で問いかけた瞬間、また外で雷鳴が響く。びくんと身を縮こませた後、リシェはぶんぶんと首を振って否定した。
「うるさいから嫌いなだけだ!」
「大丈夫ですよ。すぐに停電も収まりますから」
暗闇の中でリシェの頰を優しく撫で、落ち着かせようと自分の方に向けさせる。性別を誤解させる程の可愛らしいリシェの顔を見下ろしながら、ラスは「俺が居ますから」と微笑んだ。
すりすりと軽くくすぐり、ここぞとばかりに密着する。
「先輩」
「…や、やだ、触る、な」
大丈夫、と優しく諭しながらラスはリシェとの距離を縮めていく。リシェもラスを見上げ、抵抗する事無く若干目を細めていった。
「可愛いですよ、先輩」
…お互いの唇が近付いた瞬間。
室内の明かりが復活した。
リシェはハッと我に返り、うわあああ!と悲鳴を上げてラスを突き飛ばす。
「なっ、ななな何をしようとした!?」
「せ、先輩だってめちゃくちゃくっついてきたじゃないですかあ!!折角のチャンスだったのにあんまりです!」
キスしても良いという態度だった、と言わんばかりにラスは嘆いた。一方のリシェは顔を真っ赤にしながら憤慨する。
「チャンスだっただと!?ここぞとばかりに変な気を起こしやがって、この変態!!」
「じゃあその気にさせないで下さいよ!ラッキースケベにあずかれそうだったのに!!」
「何がラッキースケベだ馬鹿!どさくさに紛れてやましい事を考えるな!!」
お互いに顔を真っ赤にしながら言いあっていると、やがて雷も雨も落ち着きを取り戻し小康状態になっていく。
だが二人の不毛な言い争いは、しばらく落ち着きそうにも無かった。
いきなりラスはおかしげな言葉を放つ。
慣れ切ってしまったリシェは、読書を一瞬止めると興味無さげに「はあ」とだけ返した。
今日は珍しく風雨が激しく、酷い嵐になっているので部屋に篭る寮生が多い。部活動もほとんど切り上げて早めに帰宅していた。
強めの雨が部屋の窓をひたすら叩きつけてくる。
「その名の通り、たまたまエッチな事案が起こる時に使うらしいのです」
「それが何か?」
どうやら漫画を読んで感化されたらしい。
リシェは無表情のままでラスを見ていた。リシェはほとんど漫画を読まないので、内容は良く知らないが彼が漫画を結構な頻度で読む事は知っていた。
今は携帯電話でも読む事が出来るが、やはり紙媒体で読むのが一番だとリシェは思う。それはラスも同意見らしく、自分が読みたいものは必ず手に取れる本を購入していた。
「よーく考えると、俺は先輩となかなかラッキースケベな展開になってないような気がするんですよ」
「なってたまるか」
相変わらずつれない返事をして再び本を読み出す。
「無理矢理事案を起こすタイプのくせに」
「そ、そんな事無いですよ…先輩、奥手だからこっちが率先して迫らないと進展しませんし」
勝手に奥手にされている。
ラスはリシェにいつものように近付くと、床に座っている彼と向き合って読書をしていた彼の両手に触れた。
邪魔をされた感じがして、リシェは嫌そうにラスを見上げる。
「何だよ?」
「いや、ほら。実際こうして近付かないとそんな美味しい展開なんて出てこないかなと思って…」
その瞬間。
ピカッと外が光った。
「あっ」
凄まじい雷鳴が轟き、同時に部屋が真っ暗になる。
停電だ、とラスは窓の外を見た。部屋の外から、他の生徒らの声があちこちで聞こえる。
急な停電で驚いているようだ。
「近い場所に落ちたみたいですね。すぐに戻るといい…」
ラスは目の前のリシェに目を向けると、彼は自分にしがみついていた。暗がりの中、微かに見えるリシェの顔を覗き込む。
「…せんぱい?」
「………っ」
ラスを引き寄せるように手を伸ばし、無言でしがみつくリシェは暗がりを避けるようにして胸元に顔を埋めていた。
雷、怖いんだ。
そう気付くと、可愛い所見つけたと言わんばかりにラスはついくすりと笑った。
「先輩」
「………」
「先輩、雷怖い?」
「怖いものか!」
「嘘。怖いくせに」
優しく耳元で問いかけた瞬間、また外で雷鳴が響く。びくんと身を縮こませた後、リシェはぶんぶんと首を振って否定した。
「うるさいから嫌いなだけだ!」
「大丈夫ですよ。すぐに停電も収まりますから」
暗闇の中でリシェの頰を優しく撫で、落ち着かせようと自分の方に向けさせる。性別を誤解させる程の可愛らしいリシェの顔を見下ろしながら、ラスは「俺が居ますから」と微笑んだ。
すりすりと軽くくすぐり、ここぞとばかりに密着する。
「先輩」
「…や、やだ、触る、な」
大丈夫、と優しく諭しながらラスはリシェとの距離を縮めていく。リシェもラスを見上げ、抵抗する事無く若干目を細めていった。
「可愛いですよ、先輩」
…お互いの唇が近付いた瞬間。
室内の明かりが復活した。
リシェはハッと我に返り、うわあああ!と悲鳴を上げてラスを突き飛ばす。
「なっ、ななな何をしようとした!?」
「せ、先輩だってめちゃくちゃくっついてきたじゃないですかあ!!折角のチャンスだったのにあんまりです!」
キスしても良いという態度だった、と言わんばかりにラスは嘆いた。一方のリシェは顔を真っ赤にしながら憤慨する。
「チャンスだっただと!?ここぞとばかりに変な気を起こしやがって、この変態!!」
「じゃあその気にさせないで下さいよ!ラッキースケベにあずかれそうだったのに!!」
「何がラッキースケベだ馬鹿!どさくさに紛れてやましい事を考えるな!!」
お互いに顔を真っ赤にしながら言いあっていると、やがて雷も雨も落ち着きを取り戻し小康状態になっていく。
だが二人の不毛な言い争いは、しばらく落ち着きそうにも無かった。
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