上 下
32 / 101
そのさんじゅういち

【変態定期】暗がりで密着

しおりを挟む
「ラッキースケベという言葉があります」
 いきなりラスはおかしげな言葉を放つ。
 慣れ切ってしまったリシェは、読書を一瞬止めると興味無さげに「はあ」とだけ返した。
 今日は珍しく風雨が激しく、酷い嵐になっているので部屋に篭る寮生が多い。部活動もほとんど切り上げて早めに帰宅していた。
 強めの雨が部屋の窓をひたすら叩きつけてくる。
「その名の通り、たまたまエッチな事案が起こる時に使うらしいのです」
「それが何か?」
 どうやら漫画を読んで感化されたらしい。
 リシェは無表情のままでラスを見ていた。リシェはほとんど漫画を読まないので、内容は良く知らないが彼が漫画を結構な頻度で読む事は知っていた。
 今は携帯電話でも読む事が出来るが、やはり紙媒体で読むのが一番だとリシェは思う。それはラスも同意見らしく、自分が読みたいものは必ず手に取れる本を購入していた。
「よーく考えると、俺は先輩となかなかラッキースケベな展開になってないような気がするんですよ」
「なってたまるか」
 相変わらずつれない返事をして再び本を読み出す。
「無理矢理事案を起こすタイプのくせに」
「そ、そんな事無いですよ…先輩、奥手だからこっちが率先して迫らないと進展しませんし」
 勝手に奥手にされている。
 ラスはリシェにいつものように近付くと、床に座っている彼と向き合って読書をしていた彼の両手に触れた。
 邪魔をされた感じがして、リシェは嫌そうにラスを見上げる。
「何だよ?」
「いや、ほら。実際こうして近付かないとそんな美味しい展開なんて出てこないかなと思って…」
 その瞬間。
 ピカッと外が光った。
「あっ」
 凄まじい雷鳴が轟き、同時に部屋が真っ暗になる。
 停電だ、とラスは窓の外を見た。部屋の外から、他の生徒らの声があちこちで聞こえる。
 急な停電で驚いているようだ。
「近い場所に落ちたみたいですね。すぐに戻るといい…」
 ラスは目の前のリシェに目を向けると、彼は自分にしがみついていた。暗がりの中、微かに見えるリシェの顔を覗き込む。
「…せんぱい?」
「………っ」
 ラスを引き寄せるように手を伸ばし、無言でしがみつくリシェは暗がりを避けるようにして胸元に顔を埋めていた。
 雷、怖いんだ。
 そう気付くと、可愛い所見つけたと言わんばかりにラスはついくすりと笑った。
「先輩」
「………」
「先輩、雷怖い?」
「怖いものか!」
「嘘。怖いくせに」
 優しく耳元で問いかけた瞬間、また外で雷鳴が響く。びくんと身を縮こませた後、リシェはぶんぶんと首を振って否定した。
「うるさいから嫌いなだけだ!」
「大丈夫ですよ。すぐに停電も収まりますから」
 暗闇の中でリシェの頰を優しく撫で、落ち着かせようと自分の方に向けさせる。性別を誤解させる程の可愛らしいリシェの顔を見下ろしながら、ラスは「俺が居ますから」と微笑んだ。
 すりすりと軽くくすぐり、ここぞとばかりに密着する。
「先輩」
「…や、やだ、触る、な」
 大丈夫、と優しく諭しながらラスはリシェとの距離を縮めていく。リシェもラスを見上げ、抵抗する事無く若干目を細めていった。
「可愛いですよ、先輩」
 …お互いの唇が近付いた瞬間。
 室内の明かりが復活した。
 リシェはハッと我に返り、うわあああ!と悲鳴を上げてラスを突き飛ばす。
「なっ、ななな何をしようとした!?」
「せ、先輩だってめちゃくちゃくっついてきたじゃないですかあ!!折角のチャンスだったのにあんまりです!」
 キスしても良いという態度だった、と言わんばかりにラスは嘆いた。一方のリシェは顔を真っ赤にしながら憤慨する。
「チャンスだっただと!?ここぞとばかりに変な気を起こしやがって、この変態!!」
「じゃあその気にさせないで下さいよ!ラッキースケベにあずかれそうだったのに!!」
「何がラッキースケベだ馬鹿!どさくさに紛れてやましい事を考えるな!!」
 お互いに顔を真っ赤にしながら言いあっていると、やがて雷も雨も落ち着きを取り戻し小康状態になっていく。
 だが二人の不毛な言い争いは、しばらく落ち着きそうにも無かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ショタだらけのシェアハウス

ichiko
BL
魔法が存在する平行世界の日本に生きるおっさん。魔法が一つしか使えないために職にも就けず生活は破綻寸前だった。そんな彼を不憫に思った神様が彼を魔法が存在しないパラレルワールドの日本に転移させる。転移した先はショタっ子だけのシェアハウスだった。

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

転生して勇者を倒すために育てられた俺が、いつの間にか勇者の恋人になっている話

ぶんぐ
BL
俺は、平凡なサラリーマンだったはずだ…しかしある日突然、自分が前世プレイしていたゲームの世界の悪役に転生していることに気が付いた! 勇者を裏切り倒される悪役のカイ…俺は、そんな最期は嫌だった。 俺はシナリオを変えるべく、勇者を助けることを決意するが──勇者のアランがなぜか俺に話しかけてくるんだが…… 溺愛美形勇者×ツンデレ裏切り者剣士(元平凡リーマン) ※現時点でR-18シーンの予定はありませんが、今後追加する可能性があります。 ※拙い文章ですが、お付き合い頂ければ幸いです。

転生したらBLゲームの攻略キャラになってたんですけど!

朝比奈歩
BL
ーーある日目覚めたら、おれはおれの『最推し』になっていた?! 腐男子だった主人公は、生まれ変わったら生前プレイしていたBLゲームの「攻略対象」に転生してしまった。 そのBLゲームとは、本来人気ダンスヴォーカルグループのマネージャーになってメンバーと恋愛していく『君は最推し!』。 主人公、凛は色々な問題に巻き込まれながらも、メンバー皆に愛されながらその問題に立ち向かっていく! 表紙イラストは入相むみ様に描いていただきました! R-18作品は別で分けてあります。 ※この物語はフィクションです。

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

気にしないで。邪魔はしないから

村人F
BL
健気な可愛い男の子のお話 , , , , 王道学園であんなことやこんなことが!? 王道転校生がみんなから愛される物語〈ストーリー〉 まぁ僕には関係ないんだけどね。 嫌われて いじめられて 必要ない存在な僕 会長 すきです。 ごめんなさい 好きでいるだけだから 許してください お願いします。 アルファポリスで書くのめっちゃ緊張します!!!(え) うぉぉぉぉぉ!!(このようにテンションくそ高作者が送るシリアスストーリー💞)

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

処理中です...