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そのにじゅうろく

ドッジボール

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 今日はグラウンドは二年生が利用しているので使えない為、体育館でドッジボールをすると宣言されたリシェのクラス。生徒によって悲喜交々の中、ぼんやりとその知らせを聞いていたリシェはぶつけ合いかぁ…と天井に挟まっている小さいボールの数々を見上げていた。
 数人ずつチーム分け、体育館の敷地を分割してそれぞれ試合を行う。適当に割り振られたチームで、リシェはスティレンと離れてしまう。別のチームになったと知るや、スティレンはニヤニヤしながらリシェに近付いてきた。
「ふふ…リシェ、運が悪かったねぇ俺と別チームなんてさぁ。お前は絶対俺が落としてやるからね」
 やたらと闘志満々な従兄弟を、リシェは困ったような表情を見せて困惑した様子。
「お前、俺に何か恨みでもあるのか」
「特に無いけど、お前はどうしても俺がボールを当てたいんだよ。ふふん、覚悟しな」
 幸いリシェの入っているチームとスティレンのチームは二回戦目で、少し待機しなければならない。一回戦目の試合を見ている間、同じチームになった同級生はちょいちょいと観戦中のリシェに話しかけてきた。
「なぁ、あんた大丈夫なのか」
 あまり会話した事の無い同級生は、やけに恐る恐る話を切り出す。
「何がだ?」
 クラスに数人は居るであろうちょっと派手めなその生徒らは、やたら敵視してきたスティレンに不安を覚えたのだろう。
「なんかめっちゃ狙う発言されてるじゃん」
 だがリシェはけろっとしたまま「大丈夫だ」とだけ返した。
「俺があいつを狙えばいいだけの話だ」
 そういう問題なのか。
 むしろそんな外見でそこまで強気になる程ドッジボールの力が強いのか。同級生らはお、おう…と返す言葉を無くしていると、自分達の番が回ってきた。
 開始前、スティレンはこちらを見てやたらニヤニヤといやらしい笑みを向けてくる。チーム別に整列し、挨拶を済ませていると向かい合うリシェを見下す。
「ふふん、リシェ。俺がお前にぶつけるんだから間違っても他の奴らなんかにやられないでよ?」
「……」
 困ったやつだと眉をハの字にしながら「その前にお前が陣地から居なくなると思う」と反論した。
 生意気な、と文句を言う。
 スティレンは舌打ちし、今に見てなと強がりを言い返した。どうにかしてこの生意気なリシェを打ち負かしたい。
 試合開始の笛が館内に鳴り響いた。
 最初は滞りなくボールの打ち合いをしていったが、スティレンに反撃のボールが渡ると、彼は美しい顔を小悪魔の表情に変化させた。
 その予告通り、彼がボールを思いっきり振るってリシェに向けて放った。ボールは激しい回転をしながら小さなリシェ目掛けて飛んでいく。
「リシェ。大人しく枠外に行きな!!」
 結構な速さだった。試合前に予告されていただけあり、同級生達はうわ、と声を上げてその行先に目を向ける。
 リシェはひょいっとそれを避けた。
 ボールはそのまま枠外を超えて体育館の壁にバシーン!と衝撃音を響かせて勢い良くバウンドし、リシェのチーム内の一人にキャッチされてしまう。
「おっ。ラッキー」
 豪速球過ぎてかえって敵チームに渡ってしまい、スティレンは軽く悪態をつく。もうちょっと軽めにすればよかったのかと。
 まあいい、この次さ。
 次こそ絶対にぶつけてやる、と更に闘志を燃やした。

 この時間の授業が終わって教室に戻る最中のラス。
 外靴から上履きに履き替えていると、何やら体育館方面がやけに喧しい事に気付く。
「何だ?」
「凄え面白い事してるんだよ、一年の授業だったみたいなんだけど」
「終わんねぇのかよこれ」
 何をしているのだろうか。
 ラスはノーチェ達に引っ張られるまま、体育館の入口で溜まり場になっている生徒らに便乗してその奥を眺めた。
 そこにはドッジボールを授業後にもまだ続けている美少年二人の姿。他の生徒達が枠外に出されても、リシェをスティレンだけが残って打ち合いをしていた。
「なんだあいつら?」
「めっちゃ続いてるじゃん」
「あの小さいのもやけに豪速球投げてんなぁ」
 お互い負けたくない熱気が館内から溢れていた。
 二人共早く負けてしまえと言いながらボールを互いに投げ合っていく。
「先輩とスティレンじゃんか…」
 終わる事の無い試合を眺めながら、ラスは呆気に取られていた。体力が尽きる事無く投げ合っているのは、元の世界からの名残のせいだろうか。
「…早く落ちろ!!」
「お前が早く落ちればいいだけの話だ!!」
 度々そんな声が聞こえてくる。
 彼らの意地の張り合いを見ながら、ラスはこりゃなかなか終わりそうも無いなぁと苦笑いしていた。
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