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そのきゅう

とにかくいやらしいヴェスカ

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 最近大変疲れが溜まっている。
 どうせなら休日を利用して温泉にでも行って来ようか、と職員室の自分の座席で日帰り温泉カタログを開き睨めっこをするオーギュスティンは、どの場所に行こうかと悩んでいた。
 そこへやってきた体育教師ヴェスカ。
 おっ?と彼が眺めている雑誌に目をつける。
「何だ、オーギュスティンせんせ。温泉旅行でもすんの?」
 面倒なのが来た事に気付き、彼は雑誌を閉じて机に置いた。見ます?とヴェスカに言う。
 ヴェスカは満面の笑みを浮かべ、無表情のオーギュスティンに「新婚旅行するか!」と茶化しながら本を受け取った。
「ああ、結婚おめでとうございます。知らなかったです」
 非常に冷めた言い草。
 ヴェスカは何か勘違いしてねぇか?と普通に疑問符を投げつけた。
「何です?」
「俺とあんただろ、結婚すんのは」
「どうして私があなたと結婚しなきゃならないんですか、おぞましい」
「絶対俺と相性いいぞ?あんたは近寄り難いタイプだから他の奴なんて寄り付かないだろ?俺はほら、あんたに凄く興味あるからな」
 こちらはお前と会話するのすら嫌なんだ、とオーギュスティンはヴェスカを嫌そうにして見上げる。苦々しく思っている彼とは逆に、頭の中がお花畑のヴェスカは普通に満面の笑みで雑誌を眺めていた。
 常にヴェスカのような能天気な性格なら、どんなに気楽に生活が出来るだろう。
「私は一人が性に合ってるんです。温泉だって、日帰りで気楽に行くつもりなんですから」
「へえ…じゃあ俺も一人で気楽に行くかなあ」
「ええ、そうして下さい」
「後でどこに行くつもりなのか教えてよ」
「は?」
 何を言い出すのだろうか。
 また変な事を言い始めるヴェスカに、何故ですかと眉を寄せる。
「あんたが向かう温泉に、単身で俺も向かうから」
「はいぃ??」
 要は後でついてくるという事か。
 一人の意味が全く無いではないかとオーギュスティンは呆れ果てた。他行け!!とつい本音が出る。
 大体何故自分が行きたい先にヴェスカも行くのか。一人で行きたいとは言ったが、彼もついていく形になれば意味を成さないではないか。
 誰も知らない場所に一人で行く事に意味があるのだ。
 そこへ顔見知りの人間が入ると、嫌でも現実に引き戻されてしまう。
 この馬鹿は、何故それが分からないのだろう。
「私は一人がいいと言ったでしょうが!」
「えぇ…俺、あんたと一緒に温泉入ってみたいなあ」
 男が同性に向かって温泉に一緒に入りたい、という話を聞いた周囲の教師らは、ついつい二人に注目する。女性教師の中にはやけに目を輝かせる者も居たが、オーギュスティンはスルーした。
 何か誤解している気がするが、説明も面倒だ。
 屈強な体格のヴェスカと、細くしなやかな体つきのオーギュスティンとでは変な妄想を滾らせやすいらしい。思うだけ思っておけばいいが、口には出さないようにして欲しい。
「お断りします、薄気味悪い!!それに私は暑苦しいのは嫌いです!!」
「温泉行くのに暑苦しいのは嫌だって本末転倒じゃねぇか…」
「とにかく、私はあなたには行き先を教えたりなんてしませんから!まだ行くかどうかも考え中なのに!」
 まるで少年のように表情豊かなヴェスカはええ、と不満げに頬を膨らませた。とにかく一緒に行きたいらしい。
 じゃあいいけどよ、と前置きすると次はとんでもないことを言い始める。
「じゃ、代わりに俺と湯煙の中でエロい事をする妄想させてくれよ。オーギュスティンせんせ?」
 非常に馬鹿な事を口走る。
 顔が自然に熱くなり、全身が怒りに震えてしまう。

 …結局いやらしい事をしたいだけじゃないか!!

 オーギュスティンは顔を引きつらせ、雑誌を奪い取りながら「お断りだ!!」と怒鳴っていた。
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