8 / 101
そのなな
絶え間無い嫉妬
しおりを挟む
リシェはたまに遊ぶゲームでチャットをしていた。
最初は辿々しい手つきだったが、次第に慣れてきたのか操作もお手の物となっている。ただ、本格的にゲームをやるよりはプレイ出来る範囲内でのんびりとやるスタイルに留めている。
あまりがっつりやるのは性に合わないらしい。
今回も唯一出来たフレンドと仲良く会話をしていた。
会話と言うよりは、悩み相談のようなものだ。
プレイヤーネーム『肉食の赤フン』、もとい『赤フン』の日頃の悩み相談。
リシェが好んで親身に聞くというよりは、相手が一方的に喋っているだけだった。
…以下、チャット内容。
赤フン『今日も軽く言い合いしちゃった』
りしぇ『ほう、何で?』
赤フン『毎度毎度向こうに行っちゃうから、たまにはこっちでご飯一緒にしようよって言ったんだけどまたごめんって。何なんだろうね、どんだけ好きなんだろ』
りしぇ『もうほっときゃいいのに。飽きたら戻るだろ』
赤フン『だって、俺はそいつ含めて仲良くやりたいのにいきなり出て来た後輩に持ってかれるとか腹立つよ』
そこで初めて赤フンが男子だという事が分かった。リシェは向こうの相談内容があまりにも女々しくて、てっきり女だと思っていたのだ。
どうせ女子同士のいざこざだとそれまで流していた。
りしぇ『その後輩がどう考えてるか知らないけど、鬱陶しがられてると思うけどな』
赤フン『…だよね…もう、直接本人に言えばいいんだろうけどさあ…』
りしぇ『そいつがどう思っているかだな』
赤フン『一度会った事があるけどそいつ、どっちかと言えば地味なタイプでさ。陰キャってやつ?夢中になる意味が分からないんだ。そいつの事余程好きみたいで』
りしぇ『なんだ、会った事あるのか』
赤フン『あるよ。はあ、ほんとムカつくよ』
りしぇ『本人に言ってもダメならその後輩とやらに言えば?休み時間に引っ張り込むなってさ』
赤フン『そうだねぇ。あ、ちょっと用が出来た。また後でね。ありがと』
りしぇ『分かった』
回線が途切れ、リシェもゲームの電源を落とした。
同時に部屋にラスが戻って来る。
「あ、先輩。早く帰るなら言ってくれたら良かったのに」
「掃除当番じゃなかったし」
よいしょと鞄を机に置き、ラスははあっと溜息を吐いた。その溜息が珍しく感じ、リシェは「何があった?」と問う。
心配してくれるの?とラスは少し嬉しそうに笑った。
「こないだ会った友達にもう少し構ってくれって言われてるんです。気をつけなきゃなあって」
「お前がいちいちこっちに来るからだろ」
「先輩に会いたいのに」
毎度顔を合わせているのに、まだ足りないというのか。
「似たような事を赤フンも言ってたな」
「…赤フン?ああ、ゲームのフレンドですか?」
「どの学校にもあるんだな、こういう事」
会話の内容は電源を切った段階でクリアになるので履歴は見れないが、ラスは「よくあるんだ…」と少し変な気分に陥る。
リシェはゲーム機を机に片付けると「腹が減ってきた」と立ち上がる。
「先輩?どこに行くんですか?」
「食堂で晩ご飯の注文をしないと」
「あ、俺も行きます!」
寮の食堂にはその都度連絡をしなければご飯を用意して貰えない決まりがある。連絡を怠れば外に買いに行く事も可能だが、大抵の生徒は面倒がって食堂内で済ませていた。
リシェはラスと一緒に食堂へ向かい、表記された献立のセット内容を選んで注文を専用の申し込み用紙に記入してポストに入れる。
とりあえずその日の晩ご飯と、次の日の朝食分は確保出来た。用件は済んだ。
さて、戻るかと踵を返したその時。
「ラス!」
「あっ、ノーチェ」
前に会ったラスの友人ノーチェが近付いて来た。彼はリシェをちらりと見遣った後、軽く敵意を見せつつ「ちょっと彼に用があるんだけどいい?」と許可を求める。
ラスはきょとんとしながらリシェを見下ろした。
一方のリシェも首を傾げる。
「どうしたんだよ、ノーチェ」
「どうしたも何も…何でこの子がラスを引っ張ってんのかってね」
「俺が?ラスを?」
リシェはきょとんとしていた。
「そうだよ。大体一年のくせに遠慮ってものを知らないんだよ、あまりラスにちょっかい出さないでくれない?同部屋は仕方無いよ?ただ、休み時間にいちいち呼ぶなっての!どんだけ依存してるのさ!」
リシェは呼んだつもりもないし引っ張っているつもりも無かった。それだけに、はあ?としか言いようが無い。
「それはこいつに言え」
面倒そうなリシェはラスを見上げて答える。
「この前も説明しただろう。こいつが勝手に来るんだと」
えへへ、とラスは笑顔になる。
ノーチェはラスじゃなくてあんたに言ってるんだよとリシェに突っかかった。
「あんたが断ればいいだけだろ!」
「俺が断ってもこいつが勝手に来るんだからどうしようも無いじゃないか!」
堂々巡りになり、次第にリシェは面倒臭くなって「分かったよ」と折れた。
「分かった分かった。負けた負けた。だからラスはお前に譲る。それならいいだろう」
頭をかき、リシェは観念したように言った。
それを聞いたラスは悲しそうに「せ、先輩!?」と叫ぶと、その場から立ち去ろうとするリシェに何て事言うんですか!と嘆いた。
「後は勝手にやれ。俺はもう知らん。知らんぞ」
無駄な痴話喧嘩をする気力も沸かないリシェは、さっさと退場するに限ると判断する。
残されたノーチェはやり場の無い感情に、そういう問題じゃないんだよ、この陰キャ!!と毒を吐き捨てていた。
最初は辿々しい手つきだったが、次第に慣れてきたのか操作もお手の物となっている。ただ、本格的にゲームをやるよりはプレイ出来る範囲内でのんびりとやるスタイルに留めている。
あまりがっつりやるのは性に合わないらしい。
今回も唯一出来たフレンドと仲良く会話をしていた。
会話と言うよりは、悩み相談のようなものだ。
プレイヤーネーム『肉食の赤フン』、もとい『赤フン』の日頃の悩み相談。
リシェが好んで親身に聞くというよりは、相手が一方的に喋っているだけだった。
…以下、チャット内容。
赤フン『今日も軽く言い合いしちゃった』
りしぇ『ほう、何で?』
赤フン『毎度毎度向こうに行っちゃうから、たまにはこっちでご飯一緒にしようよって言ったんだけどまたごめんって。何なんだろうね、どんだけ好きなんだろ』
りしぇ『もうほっときゃいいのに。飽きたら戻るだろ』
赤フン『だって、俺はそいつ含めて仲良くやりたいのにいきなり出て来た後輩に持ってかれるとか腹立つよ』
そこで初めて赤フンが男子だという事が分かった。リシェは向こうの相談内容があまりにも女々しくて、てっきり女だと思っていたのだ。
どうせ女子同士のいざこざだとそれまで流していた。
りしぇ『その後輩がどう考えてるか知らないけど、鬱陶しがられてると思うけどな』
赤フン『…だよね…もう、直接本人に言えばいいんだろうけどさあ…』
りしぇ『そいつがどう思っているかだな』
赤フン『一度会った事があるけどそいつ、どっちかと言えば地味なタイプでさ。陰キャってやつ?夢中になる意味が分からないんだ。そいつの事余程好きみたいで』
りしぇ『なんだ、会った事あるのか』
赤フン『あるよ。はあ、ほんとムカつくよ』
りしぇ『本人に言ってもダメならその後輩とやらに言えば?休み時間に引っ張り込むなってさ』
赤フン『そうだねぇ。あ、ちょっと用が出来た。また後でね。ありがと』
りしぇ『分かった』
回線が途切れ、リシェもゲームの電源を落とした。
同時に部屋にラスが戻って来る。
「あ、先輩。早く帰るなら言ってくれたら良かったのに」
「掃除当番じゃなかったし」
よいしょと鞄を机に置き、ラスははあっと溜息を吐いた。その溜息が珍しく感じ、リシェは「何があった?」と問う。
心配してくれるの?とラスは少し嬉しそうに笑った。
「こないだ会った友達にもう少し構ってくれって言われてるんです。気をつけなきゃなあって」
「お前がいちいちこっちに来るからだろ」
「先輩に会いたいのに」
毎度顔を合わせているのに、まだ足りないというのか。
「似たような事を赤フンも言ってたな」
「…赤フン?ああ、ゲームのフレンドですか?」
「どの学校にもあるんだな、こういう事」
会話の内容は電源を切った段階でクリアになるので履歴は見れないが、ラスは「よくあるんだ…」と少し変な気分に陥る。
リシェはゲーム機を机に片付けると「腹が減ってきた」と立ち上がる。
「先輩?どこに行くんですか?」
「食堂で晩ご飯の注文をしないと」
「あ、俺も行きます!」
寮の食堂にはその都度連絡をしなければご飯を用意して貰えない決まりがある。連絡を怠れば外に買いに行く事も可能だが、大抵の生徒は面倒がって食堂内で済ませていた。
リシェはラスと一緒に食堂へ向かい、表記された献立のセット内容を選んで注文を専用の申し込み用紙に記入してポストに入れる。
とりあえずその日の晩ご飯と、次の日の朝食分は確保出来た。用件は済んだ。
さて、戻るかと踵を返したその時。
「ラス!」
「あっ、ノーチェ」
前に会ったラスの友人ノーチェが近付いて来た。彼はリシェをちらりと見遣った後、軽く敵意を見せつつ「ちょっと彼に用があるんだけどいい?」と許可を求める。
ラスはきょとんとしながらリシェを見下ろした。
一方のリシェも首を傾げる。
「どうしたんだよ、ノーチェ」
「どうしたも何も…何でこの子がラスを引っ張ってんのかってね」
「俺が?ラスを?」
リシェはきょとんとしていた。
「そうだよ。大体一年のくせに遠慮ってものを知らないんだよ、あまりラスにちょっかい出さないでくれない?同部屋は仕方無いよ?ただ、休み時間にいちいち呼ぶなっての!どんだけ依存してるのさ!」
リシェは呼んだつもりもないし引っ張っているつもりも無かった。それだけに、はあ?としか言いようが無い。
「それはこいつに言え」
面倒そうなリシェはラスを見上げて答える。
「この前も説明しただろう。こいつが勝手に来るんだと」
えへへ、とラスは笑顔になる。
ノーチェはラスじゃなくてあんたに言ってるんだよとリシェに突っかかった。
「あんたが断ればいいだけだろ!」
「俺が断ってもこいつが勝手に来るんだからどうしようも無いじゃないか!」
堂々巡りになり、次第にリシェは面倒臭くなって「分かったよ」と折れた。
「分かった分かった。負けた負けた。だからラスはお前に譲る。それならいいだろう」
頭をかき、リシェは観念したように言った。
それを聞いたラスは悲しそうに「せ、先輩!?」と叫ぶと、その場から立ち去ろうとするリシェに何て事言うんですか!と嘆いた。
「後は勝手にやれ。俺はもう知らん。知らんぞ」
無駄な痴話喧嘩をする気力も沸かないリシェは、さっさと退場するに限ると判断する。
残されたノーチェはやり場の無い感情に、そういう問題じゃないんだよ、この陰キャ!!と毒を吐き捨てていた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
これは兄さんじゃありません
くるむ
BL
東田志音(しおん)の兄、壱琉(いちる)はある日一人旅に出たまま行方知れずになった。
だが兄の事をどうしても諦められない志音は、兄の友人大翔(ひろと)、新(しん)、晴斗(せいと)の3人と、行方不明になる直前に兄が宿泊の予約を入れていたホテルに泊まりに行くことを決意。
そしてとうとう、行方不明になった壱琉に出会うことが出来たのだが……?
「ちょっと待って、なに? 僕のこと好きになっちゃった!? 待って、待って、待って。急にキスしたりなんてしないで―――!!」
ブラコンで兄さん大好きな志音と、彼を取り巻く人たちとの悲喜こもごもとした(?)ラブストーリーです??
短いですが、シリアスごちゃまぜの基本ギャグ。
なんとも言えない空気感が漂っていると思います。ちょっぴりご注意くださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる