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そのろく

スタンプ連打

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「先輩」
 ある日、ラスはおもむろに口を開く。
「ん?」
 リシェはぽちぽちと携帯電話の操作をしていたが彼の声に反応した。
「好きです」
 突如口から放たれる告白に、すっかり慣れたらしく「ああ、そうか」と再び自分の携帯と向き合ってスルーを決め込む。ラスはむうっと膨れっ面になった。
 ちゃんと聞いて下さいよ!と。
「聞き慣れてしまった」
「定期的に言わないとダメな気がして!!先輩、ちゃんと聞いてます?」
「ああ。聞いている聞いている」
 そうは言うものの目線は携帯電話だし指を動かしてるし、とリシェの真ん前に近付いた。
「何してるんですか」
 あまりにも向き合ってくれないので嫉妬しそうだ。
 リシェは心底怠そうに「あの馬鹿の相手をしてるんだ」と返す。
「あの馬鹿?」
「ああ。この前会っただろう、あいつに」
「あいつ…って、先輩のお兄さんですか?」
 どうやっても兄とか名前を言いたくないらしく、苦々しい顔をしながら答えた。
 そんなにも嫌なのか、とラスは思う。
 彼なりにリシェの事を大事にしているようにも見えるのだが、本人にとってはとにかく嫌で嫌で仕方無いようだ。
 元の世界での関係性はどうだったのだろう。
 元々アストレーゼンに単独でやってきたので、そんなに仲良くも無かったのかもしれない。
「連絡取り合ってるんですか?」
 嫌だと言いながらも連絡を取っているとは、と変な矛盾を感じてしまった。リシェは舌打ちしながら「家族から連絡先をしつこく聞き出したらしい」と言う。
「どうせあいつの事だから我儘言って折れさせたに違いないんだ。散々口止めしておいたのに」
「はあ…大変ですね…」
 彼の手元を眺めていると、延々と同じ動きをしている事に気が付いた。その動きからして、普通に会話をしているようには思えない。
 無表情でぽんぽんと指を押しているリシェに。ラスは眉を細めて「先輩」と声をかける。
「ん?」
「それ、会話してるんですか?」
「ああ」
 会話ツールで言い合っているのは理解出来たが。
「あいつが一方的に喋ってるだけだけどな」
「………」
「会話、成立してるんですか?」
「いや、ボタン連打してるだけだ」
「見せて貰っていいですか?」
 リシェはいいぞと自らの携帯電話をラスに見せた。

『リシェ!吾輩にコスプレを見せるのでござる!同士達に絶対着せるって約束してしまったのですよ!』
『(う◯このマーク)』
『まだかまだかって顔を合わせるたびに言われるのです!住所を教えなさい!』
『(う◯このマーク)』
『ちゃんと向き合いなさーい!!でないとちゅーしちゃいますからね!!』
『(う◯このマーク)』

 …会話にすらなっていない…。
 もういいや、とラスはリシェに携帯電話を返した。
 会話するのも面倒らしい。
「先輩、ちょっとだけでも会話してあげましょうよ」
 邪険にされているのが分かり過ぎて何だか可哀想になってきた。ラスのちょっとした願いに、リシェは心底嫌そうに「嫌だ」と冷たい言葉を返していた。
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