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その49 完全アウェイで連載中②

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「・・・来週お弁当が来ない。」

「は。」

 背後から抱き付いているのでセンセイに顔は見えないし、鏡もないから確認できないけど、僕も間違いなくチサみたいなぽかんとした表情をしているに違いない。自然に口開いちゃったし。



 まあ、ほぼ3食食べている身としては死活問題なのかもしれないけど、こういう少女マンガならキラキラが飛ぶだろう今なぜに。

 いや、でもお弁当が来ないってことは。



「おかみさんになにかあったんですか?」

「・・・あった。」

「なにがっ?!お弁当よりそっちの報告が先じゃないですか?」

 僕は恋人っぽく回していた手を両肩に移して、激しく揺さぶってやる。



 なんか僕の動きが、橘さんに似てきた気がしないでもない。



 「・・・あたった・・。」

 僕が揺らしているからか、声がガタガタ震えている。でもお知らせ優先順位がおかしいだろ。

 「なにに?なに食べたんですか?!」

 食の安全には一番気を遣っているだろう人がなんてこと。

 「・・・温泉旅行・・。」

 「は?」

 つい手を離す。夕凪センセイは少し揺れた後、ちら、と僕の方を振り返る。



 「・・・福引。」

 「それ先言ってください!」

 ほんと、優先順位がおかしすぎ。コミュ障のプレゼン能力に期待しちゃいけないけど。



 なんの問題もなくてなによりなのだけど、つまりはおかみさん夫婦が商店街の福引で当たった温泉旅行に行く。正月くらいしか休みがないおかみさん夫婦は橘さんの勧めでせっかくの機会、と1週間の休みをとることにしたから、ここに配達が出来ないということっぽい。企業と契約しているお昼のお弁当は橘さんとご主人で対応するけど、それ以外はムリと言われたらしい。



 「まあ・・・スキルアップにはいい機会ですね。」

 一応現在まで出来ている原稿も見たし、僕は温かいハーブティを入れてセンセイの前に置いた。

 橘さんも、それを考えてお弁当の配達を断ったんじゃないかと思う。



 「それでどうしますか?お弁当買えるとこ・・一番近いのはセンセイが水を買ってるコンビニですけど。」

 せっかくだから恋人らしく、たまにはこじゃれたところでおいしいご飯を食べたい。



 でも、僕が恋してしまったこの人には外食ってハードルが高すぎる。センセイの活動範囲も狭すぎるし。



 自分のための美容室にはなんとか自力で行けるようになったけど、整体とパーソナルトレーニングはちょっと遠かったので、訪問してもらっている状態。



 「もしくは僕がなにか買ってくるから、温めますか?」

 一応この部屋、電子レンジはある。



 うーん、本当なら“僕が作ってきますね♪”っていうのが理想的なのかもしれない。でもトースト焼いたり、こうやってお茶を淹れることはできるけど、料理となると何とも言えない。佐和さわは忙しいし元々好きではないからか僕に教えることもなく、ごはんと言えば圧倒的に試食を含む自社製品か外食が多かった。



 ん?

 テイクアイトできる、おいしそうなお店を記憶の中から探っているうちにふと閃く。



僕は自分の椅子ではなく、再び夕凪センセイの背後に回る。前より密着して、強めに腕を巻き付ける。 

 身体がくっつけば、顔も近づく。僕はセンセイのサイドの髪を勝手に指で掛け、見えた耳に唇を寄せる。微風っぽくかーるく息をかけて。



 「メイ、僕に言いたいことあるでしょ?」

 いつも以上にセンセイの肩はガチガチ。 



 「言わないと、僕はお弁当の時間来ないですよ。多分お弁当なかったら時間の指定ないだろうし。」

 橘さんが僕の勤務時間を決めていたのは、おかみさんがここに配達するお弁当の数を確定させるためだ。お弁当がないなら、1日4時間とか6時間と指定される時間数を満たせば、僕がここで食べないスケジュールを自由に決めていいはず。



 「う・・。」

 抵抗したってダメなんだから。

 ほんと、いつの間にかイケメンなセンセイ困らせるのが趣味になっちゃった。

 僕のこと、ストーリー変えたとか言いやがるけど、僕の趣味嗜好を変えちゃったのはセンセイだと思うんだけどな。



 「言った気になってるでしょ?ちゃーんと聞かないと僕は動かないです。」

 僕はダメ押しの一言を薄い小さめの耳にささやいた。 
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