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その24 第10話①

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第10話は第5話のように、ファッションやメイクのマニュアルのようだった。

 芹那、穂乃果、そしてれいらの3人がショッピングモールに行き、それぞれに服を選ぶ。

 今回は巻頭カラーだったから、3人の髪や肌の色がちゃんと分かるのだけど。



 ・・・改めてくれあセンセイのすごさがつき刺さった。

芹那の変化を、一話で描ききっていたとき、その画力と表現力に感動した癖に。



 “骨格は3種類に分けることが出来る。芹那はウエーブ、穂乃果はナチュラル れいらはストレート 。それぞれに合う服・質感は~”



 僕はれいらの骨格をストレート、なんて意識して描いていない。時々先生がれいらの線を直しているのは発売された『リコリス』を見て分かっていたけど、このためだったんだ。



 そして、僕がデザインしたれいらを見て、先生は芹那や穂乃果の骨格を決めていったはず。主人公芹那とれいらに穂乃果を加えて3人の女の子をメインに出していたのは3種類の骨格を示すため。



 同時にカラー部分で分かる3人の肌・髪色の色もそれぞれ違う。こちらはイエローベース・ブルーベース、さらにはパーソナルカラー診断の春・夏・秋に分かれている。3人なので一番日本人の割合として少ないと言われている冬をカットしたんだと思う。



 骨格・似合う色を把握した上で服を選び、試着した姿を互いに見せ合って客観的な意見を言い合う。



ハイ・キャッスルのスクールでも取り入れている似合う服、メイクレッスンがマンガになってる。



 だから今回はれいらの出番が多い。

 どうしよう、ストレートの骨格のれいらを描ききれるんだろうか。



 怖い。

 初めて、原稿を前にして怖くなった。今まではただ、くれあセンセイの原稿に、大好きな世界に自分のデザインしたキャラクターが入っていくことが嬉しくてたまらなかったのに。



 パソコンの画面にチャットメッセージが現れる。



 “いつものように描いてください。身体のフォルムはこちらで直す。表情が大切なので、身体は気にせず、のびのびといつものように。服のサンプルも一応送るけど、それもこちらで訂正できるから。” 



  僕はくれあセンセイの部屋のドアを見た。中は見えない。なのに、くれあセンセイは完全に僕の気持ちを見透かしている。



 神様はいるかもしれない、だけど僕は超能力なんて信じてない。

 とは言え、くれあセンセイのこの能力はなんて呼べばいいんだろう。



 激しく他人を拒絶している癖に、分厚いドアもココロの壁も越えて、どうしてセンセイは僕のことを、いや他人の気持ちまで分かるのか。



 僕は息を飲んだ。

今回のれいらはいろんな服を着て、過剰でないほどよい自信を持って、笑ったり考え込んだり、アドバイスしたりされたりする。他の2人と同じくらい、ストレートな骨格の読者代表として紙面でより輝くために動かないといけない。



夢物語じゃなくて、読者と同じ位置で。だって代表なんだから。



そう思った瞬間、僕の手が止まった。



夕凪くれあの隅々まで行き届いた思いが溢れてるこの紙面に、僕のやわな思いで、キャラクターを描いてもいいんだろうか。



やっぱり怖い。



今日は10話アシスタント最初の日。それに僕が担当している場所の描く順番は指定されていない。だから、れいらは今日すぐに描かなくちゃいけない訳じゃない。僕は売り場の服だの、服のタグだのの人物と絡まないところを優先して描いた。気持ちが落ち着いたら描くから。ちゃんとストレートの骨格を見てから描くから。



 そう自分に言い聞かせながら、必死で描いた。



 “お疲れさま また明日お願いします”



 れいらを描かずにアシスタント終了の時間になった。原稿を先生のデータに送ると、いつものようにチャットメッセージが届いた。

 「お先に失礼します。」



 そうセンセイの部屋のドアに挨拶した声は我ながら元気がなかった。センセイの返事がないのはいつものとおり。



急に自信を失くしてしまった。

僕の描くキャラクターは、くれあセンセイのテイストと似ていても、中身が違いすぎる。センセイはしっかり考え抜いて骨から作っているのに、僕はなんとかくれあセンセイ風に上っ面を整えるのに必死だったんだ。



駅に着いた僕は、スマホを取り出して橘さんの電話番号を表示させた。アシスタントのことは内緒なんだから、ずん、と沈んでしまった気持ちを聞いてもらえるのはこの人しかいない。福利厚生で聞くっていってくれてたし。



でも…。



番号をタップしようとして、指を止める。



赤ちゃんのいる生活に、絶対ゆとりがあると言える時間はないよね…。



迷ったとき、ふと、画面に違う番号があるのに気づいた。



僕は迷わずその番号に触れた。
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