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10話 迷いの森
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霊峰ワーガルドを目指すため、霊峰の手前にある森に入ってからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
俺たちはまだ森を歩き続けている。
確かに、霊峰は雄大な山だから、近くに見えていたけどまだまだ距離があったということなのだろう。
だから歩き続けていることはおかしいことではない……おかしいことではないのだけど、正直霊峰に近づいているかさっぱり分からないのだ。
森に入る前まではあんなに巨大で存在感のあった霊峰も、森に入ってからは影も形も見えなくなってしまった。
森を舐めていたと言わざるを得ない状況だ。
「なあ、ヒルダ。このまま進み続けて大丈夫だと思うか?」
「分からないわよ。こうなってしまうと何が正しいのかなんて」
「だよな……。どうしたもんかな……」
もはや歩き続けることに、体力的にも精神的にも参ってしまった。
おそらくヒルダも同じだろう。
きっと俺に愛想を尽かしているに違いない。
俺とヒルダは近くの木の根元に腰を下ろした。
一度腰を下ろしてしまうと、もう歩きたくなくなってしまう。
「ごめんな、ヒルダ」
「謝らないでよ。諦めるにはまだ早いでしょ? まだ竜にも会ってないじゃない」
「だけどさ、この森を無事に抜けられる保証なんてないんだ。ここで終わりかもな」
「馬鹿言わないで! シグルズは必ず護ってみせるから」
こんな言い合いを繰り広げていても、事態は好転しない。
ただ時間が過ぎていくだけだ。
動かなければ森を抜けることなどできない、それは理解してる。
それでも、もう動きたくない。
「はぁ……」
先ほどからため息ばかりが口を衝く。
ヒルダとの会話も無くなってしまった。
これからどうしたらいいんだ。
そんなことを考えていると、何かが聞こえてきた。
『ぁ……ぁ……ぁ……』
「何だよ、ヒルダ。呻き声なんか出して」
「私じゃないわよ。シグルズでしょ?」
『タ……チ……サ……レ』
「何……? 何の声? ねえ、シグルズ!」
少し離れて座っていたヒルダが近づいてきて俺の服を掴む。
完全にビビっているようだ。
かく言う俺も、心臓がバクバクいっている。
明らかにおかしい声が聞こえたのだ。
人を不快にさせるような、おぞましい声が。
『タ……チ……サ……レ』
『デ……テ……イ……ケ』
声が増えている。
森に木霊するように四方八方から声が聞こえる。
これはヤバイやつだ。
このままここにいてはいけない。
本能がそう囁き、体を動かしていた。
「走れ、ヒルダ!」
俺はヒルダの手を強引に取り、体を引き起こす。
そして、行先など考えずにひたすら森を駆けた。
だが、どこへ走っても声が消えることはない。
「シグルズ……」
ヒルダは泣きそうになっている。
苦手なものが大挙して押し寄せれば無理もないだろう。
だから、ヒルダの手を放さないように力強く握りながらひた走る。
『マ……テ』
『デ……テ……イ……ケ』
どこまで付きまとうんだこの声たちは。
しつこ過ぎるだろ!
あれからかなり走ったと思うが声は消えない。
そろそろ息が上がってきたし、体力的にも厳しいかもしれない。
そんなとき、
「キャア!」
とヒルダが悲鳴を上げながら躓いてしまった。
いくら足元が悪いとはいえヒルダにしては珍しいことだ。
それだけ心に余裕がないんだろう。
「ヒルダ、しっかり掴まってろよ!」
「ひゃあ!」
俺は転倒したヒルダを抱き上げてお姫様抱っこをする。
走るスピードは遅くなってしまうが、もしかするとヒルダは足を挫いているかもしれないし、そのまま走らせるのは危険だと判断した。
「自分で走れるよ!」
「いいから、しっかり掴まってろ!」
「……うん」
ヒルダは観念したように俺の首周りに腕を絡めてきた。
こんな状況でなければどれだけ嬉しかったか。
ヒルダの顔が近い、抱きかかえている体が柔らかい、良い匂いがする。
こんなに素晴らしい状態を堪能できないことが悔しい。
「シグルズ」
「なんだ?」
「その……重くない?」
「重さなんて気にならねえよ」
ヒルダも体重気にしてるんだな。
一つ新しい知識が増えた。
『ウォォォォ』
そして後ろを追ってくる声も増えた。
マジで勘弁してくれ!
さっきはカッコつけたけど、正直ヒルダはちょっと重い。
おそらく筋肉質だからだと思うけど、そんなヒルダをいつまでも抱えて走るのはキツイ。
「シグルズ、前!」
バッと森を抜けた。
いや、正確には森の中に開けた場所があったのだ。
そして、その場所に出た途端、ピタッと禍々しい声が止んだのである。
まるでここへ誘われていたかのように。
そして俺たちの眼前にはボロボロになった木造の家々があったのだ。
俺たちはまだ森を歩き続けている。
確かに、霊峰は雄大な山だから、近くに見えていたけどまだまだ距離があったということなのだろう。
だから歩き続けていることはおかしいことではない……おかしいことではないのだけど、正直霊峰に近づいているかさっぱり分からないのだ。
森に入る前まではあんなに巨大で存在感のあった霊峰も、森に入ってからは影も形も見えなくなってしまった。
森を舐めていたと言わざるを得ない状況だ。
「なあ、ヒルダ。このまま進み続けて大丈夫だと思うか?」
「分からないわよ。こうなってしまうと何が正しいのかなんて」
「だよな……。どうしたもんかな……」
もはや歩き続けることに、体力的にも精神的にも参ってしまった。
おそらくヒルダも同じだろう。
きっと俺に愛想を尽かしているに違いない。
俺とヒルダは近くの木の根元に腰を下ろした。
一度腰を下ろしてしまうと、もう歩きたくなくなってしまう。
「ごめんな、ヒルダ」
「謝らないでよ。諦めるにはまだ早いでしょ? まだ竜にも会ってないじゃない」
「だけどさ、この森を無事に抜けられる保証なんてないんだ。ここで終わりかもな」
「馬鹿言わないで! シグルズは必ず護ってみせるから」
こんな言い合いを繰り広げていても、事態は好転しない。
ただ時間が過ぎていくだけだ。
動かなければ森を抜けることなどできない、それは理解してる。
それでも、もう動きたくない。
「はぁ……」
先ほどからため息ばかりが口を衝く。
ヒルダとの会話も無くなってしまった。
これからどうしたらいいんだ。
そんなことを考えていると、何かが聞こえてきた。
『ぁ……ぁ……ぁ……』
「何だよ、ヒルダ。呻き声なんか出して」
「私じゃないわよ。シグルズでしょ?」
『タ……チ……サ……レ』
「何……? 何の声? ねえ、シグルズ!」
少し離れて座っていたヒルダが近づいてきて俺の服を掴む。
完全にビビっているようだ。
かく言う俺も、心臓がバクバクいっている。
明らかにおかしい声が聞こえたのだ。
人を不快にさせるような、おぞましい声が。
『タ……チ……サ……レ』
『デ……テ……イ……ケ』
声が増えている。
森に木霊するように四方八方から声が聞こえる。
これはヤバイやつだ。
このままここにいてはいけない。
本能がそう囁き、体を動かしていた。
「走れ、ヒルダ!」
俺はヒルダの手を強引に取り、体を引き起こす。
そして、行先など考えずにひたすら森を駆けた。
だが、どこへ走っても声が消えることはない。
「シグルズ……」
ヒルダは泣きそうになっている。
苦手なものが大挙して押し寄せれば無理もないだろう。
だから、ヒルダの手を放さないように力強く握りながらひた走る。
『マ……テ』
『デ……テ……イ……ケ』
どこまで付きまとうんだこの声たちは。
しつこ過ぎるだろ!
あれからかなり走ったと思うが声は消えない。
そろそろ息が上がってきたし、体力的にも厳しいかもしれない。
そんなとき、
「キャア!」
とヒルダが悲鳴を上げながら躓いてしまった。
いくら足元が悪いとはいえヒルダにしては珍しいことだ。
それだけ心に余裕がないんだろう。
「ヒルダ、しっかり掴まってろよ!」
「ひゃあ!」
俺は転倒したヒルダを抱き上げてお姫様抱っこをする。
走るスピードは遅くなってしまうが、もしかするとヒルダは足を挫いているかもしれないし、そのまま走らせるのは危険だと判断した。
「自分で走れるよ!」
「いいから、しっかり掴まってろ!」
「……うん」
ヒルダは観念したように俺の首周りに腕を絡めてきた。
こんな状況でなければどれだけ嬉しかったか。
ヒルダの顔が近い、抱きかかえている体が柔らかい、良い匂いがする。
こんなに素晴らしい状態を堪能できないことが悔しい。
「シグルズ」
「なんだ?」
「その……重くない?」
「重さなんて気にならねえよ」
ヒルダも体重気にしてるんだな。
一つ新しい知識が増えた。
『ウォォォォ』
そして後ろを追ってくる声も増えた。
マジで勘弁してくれ!
さっきはカッコつけたけど、正直ヒルダはちょっと重い。
おそらく筋肉質だからだと思うけど、そんなヒルダをいつまでも抱えて走るのはキツイ。
「シグルズ、前!」
バッと森を抜けた。
いや、正確には森の中に開けた場所があったのだ。
そして、その場所に出た途端、ピタッと禍々しい声が止んだのである。
まるでここへ誘われていたかのように。
そして俺たちの眼前にはボロボロになった木造の家々があったのだ。
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