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第一章
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あんなに大量にいたスライムがあっという間に消え去り、私と奈々子は口を開けてぽかんとしてしまった。
が、そんな間の抜いた空間を切り裂くようにピコン!っと通知音が鳴ったので私達は我に返る。
『スライムを10匹倒せ』のクエストが達成できたのでその通知が来たのだ。
私達は10匹以上倒したので、報酬が設定されていたものより多めになっていた。
やったー!と私は思っていたけど、奈々子はまだ口をあんぐりと開けたままだった。
「へー、キミ初めてのクエストクリアだったんだね。おめでと」
狐のお面の人は私のクエストクリアの通知を見てそう言った。
「キミのオトモダチ、なんか固まってるけど大丈夫そう?」
そういえばスライム退治に必死すぎて狐のお面の人のことじっくり見れてなかったな。
お礼を言うためにもちゃんと顔(アバター越しだけど)を見て言おう。
あと怪我ないかとか。
あんな大量のスライムを一気に倒してしまうなんて相当レベルが高いんだろうな。
「あんなものすごい数のスライムを一掃するなんて…助かりました!ありがとうござい…!?」
お礼を言おうと顔を見ると私は途中で固まってしまった。
「あれ?こっちも固まっちゃった…」
そうだ、あの狐のお面、通りで見たことあるはずだ。
私達の目の前にいるのは『World Tree Online』、現最強のプレイヤー『稲荷・雅』だったからだ。
「い、『稲荷・雅』!?」
私は本人を目の前につい呼び捨てをしてしまった。
「ちょ!呼び捨てはさすがにまずいって!」
奈々子にそう言われて私は「しまった!」となった。
「別にそういうのは気にしてないから大丈夫だよ」
『稲荷・雅』さん本人は呼び捨てにしてしまったことをあんまり気にしてないようだ。
「めちゃくちゃ失礼な質問なんですけど…なんであなたみたいな方が初心者ダンジョンに?」
奈々子は恐る恐る『稲荷・雅』さんに質問した。
「どうやらダンジョン選択を押し間違えちゃってね。ついでにモンスターをおびき寄せる強力な誘引薬を割っちゃってこの様ってわけ。いやぁ、参った参った…いくら最弱のモンスターだからってあんな大量に降ってきたらさすがにびっくりしちゃうよ」
『稲荷・雅』さんはあっけらかんと言った。
もしかしてこの人、超天然なのでは?
ワーツリ最強大会の時はミステリアスで近寄りがたいイメージがあったけど…、今目の前にいるこの人を見てみると、こんなにも人間味があるんだなと思った。
私が初めてクエストクリアしたときも、おめでとうって言ってくれたし。
こんな一面を知ったらファンになってしまいそうだ…いやもうなっているのかもしれない。
「やっぱ寝ぼけてるときにゲームやるもんじゃないね。あっ、できれば今日の出来事ぼくのファンには内緒にしておいて。妙にぼくのこと、神格化しちゃってるとこあるからさ。『稲荷・雅』はそんなことしない!ってキミたちのアカウント炎上とかしちゃうと思うから…たぶん」
『稲荷・雅』さん本人も自身のファンに過激派が多いことを知っているらしい。
カリスマ性をもつことも大変なんだな…。
私達は「わかりました」と頷いた。
「自分で言うのもあれだけど、普段ダンジョンに出没するのも珍しいからね」
「そうなんですか?」
「ああ、そう言えばあんまり聞かないかも。遭遇した!って話」
と奈々子は思い出したように言う。
「ぼく、すごい引きこもりなんだよ。リアルでもゲームでも。理由は初対面のキミたちには重すぎるから敢えて言わないんだけどさ。なんて言えばいいんだろね、大勢の前で話すのが苦手のめちゃくちゃひどい版?」
「じゃあ、今は超頑張って話してるってことです?」
「そういうこと。だから最強大会のインタビューもあんま好きじゃなくてすぐ帰っちゃうんだよね。だからファンじゃない人や対戦相手にはあんまりいい印象もたれてないのも自覚してるよ」
「どうしてそんなこと初対面の私達に話してくれたんです?約束破って今日のこと垂れ流しにしちゃうとか思わないんですか?」
ちょっとずけずけと質問しすぎちゃったかな…と思っていると『稲荷・雅』さんは答えてくれた。
「うーん、なんでだろうね。キミはそう言うことしないって思ったからかな。キミのオトモダチもキミがそんなことしないってこと分かってそうだし。ね?」
と『稲荷・雅』さんは奈々子に尋ねた。
奈々子はそれに頷いた。
「だってさ、よかったね。そうだ、名前教えてよ。ぼくは『稲荷・雅』…ってもう分かってるか」
という『稲荷・雅』さんの自己紹介に私と奈々子はつい吹いてしまった。
「私は『アネモス』っていいます!」
奈々子は名前の意味をギリシャ語で風という意味だと説明してくれた。
「私は『リップル』です」
こうつけた理由は単に言葉の響きが可愛いと思ったのと、自分の名前『奏波』になぞらえてっていうのもある。
「アネモスにリップルね…。ああ、伝えるのがだいぶ遅くなっちゃったけどスライムに埋もれたぼくのこと、助けてくれてありがとね」
「むしろ助けられたのは私達の方っていうか」
「あっ、たしかに…」
「謙虚だね。でも現にぼくはキミらとこうして話せてなんか心がすっきりした。久々に人と話せて楽しかったよ。運が良ければまた会おう」
『稲荷・雅』さんはそう言って私達と別れた。
が、そんな間の抜いた空間を切り裂くようにピコン!っと通知音が鳴ったので私達は我に返る。
『スライムを10匹倒せ』のクエストが達成できたのでその通知が来たのだ。
私達は10匹以上倒したので、報酬が設定されていたものより多めになっていた。
やったー!と私は思っていたけど、奈々子はまだ口をあんぐりと開けたままだった。
「へー、キミ初めてのクエストクリアだったんだね。おめでと」
狐のお面の人は私のクエストクリアの通知を見てそう言った。
「キミのオトモダチ、なんか固まってるけど大丈夫そう?」
そういえばスライム退治に必死すぎて狐のお面の人のことじっくり見れてなかったな。
お礼を言うためにもちゃんと顔(アバター越しだけど)を見て言おう。
あと怪我ないかとか。
あんな大量のスライムを一気に倒してしまうなんて相当レベルが高いんだろうな。
「あんなものすごい数のスライムを一掃するなんて…助かりました!ありがとうござい…!?」
お礼を言おうと顔を見ると私は途中で固まってしまった。
「あれ?こっちも固まっちゃった…」
そうだ、あの狐のお面、通りで見たことあるはずだ。
私達の目の前にいるのは『World Tree Online』、現最強のプレイヤー『稲荷・雅』だったからだ。
「い、『稲荷・雅』!?」
私は本人を目の前につい呼び捨てをしてしまった。
「ちょ!呼び捨てはさすがにまずいって!」
奈々子にそう言われて私は「しまった!」となった。
「別にそういうのは気にしてないから大丈夫だよ」
『稲荷・雅』さん本人は呼び捨てにしてしまったことをあんまり気にしてないようだ。
「めちゃくちゃ失礼な質問なんですけど…なんであなたみたいな方が初心者ダンジョンに?」
奈々子は恐る恐る『稲荷・雅』さんに質問した。
「どうやらダンジョン選択を押し間違えちゃってね。ついでにモンスターをおびき寄せる強力な誘引薬を割っちゃってこの様ってわけ。いやぁ、参った参った…いくら最弱のモンスターだからってあんな大量に降ってきたらさすがにびっくりしちゃうよ」
『稲荷・雅』さんはあっけらかんと言った。
もしかしてこの人、超天然なのでは?
ワーツリ最強大会の時はミステリアスで近寄りがたいイメージがあったけど…、今目の前にいるこの人を見てみると、こんなにも人間味があるんだなと思った。
私が初めてクエストクリアしたときも、おめでとうって言ってくれたし。
こんな一面を知ったらファンになってしまいそうだ…いやもうなっているのかもしれない。
「やっぱ寝ぼけてるときにゲームやるもんじゃないね。あっ、できれば今日の出来事ぼくのファンには内緒にしておいて。妙にぼくのこと、神格化しちゃってるとこあるからさ。『稲荷・雅』はそんなことしない!ってキミたちのアカウント炎上とかしちゃうと思うから…たぶん」
『稲荷・雅』さん本人も自身のファンに過激派が多いことを知っているらしい。
カリスマ性をもつことも大変なんだな…。
私達は「わかりました」と頷いた。
「自分で言うのもあれだけど、普段ダンジョンに出没するのも珍しいからね」
「そうなんですか?」
「ああ、そう言えばあんまり聞かないかも。遭遇した!って話」
と奈々子は思い出したように言う。
「ぼく、すごい引きこもりなんだよ。リアルでもゲームでも。理由は初対面のキミたちには重すぎるから敢えて言わないんだけどさ。なんて言えばいいんだろね、大勢の前で話すのが苦手のめちゃくちゃひどい版?」
「じゃあ、今は超頑張って話してるってことです?」
「そういうこと。だから最強大会のインタビューもあんま好きじゃなくてすぐ帰っちゃうんだよね。だからファンじゃない人や対戦相手にはあんまりいい印象もたれてないのも自覚してるよ」
「どうしてそんなこと初対面の私達に話してくれたんです?約束破って今日のこと垂れ流しにしちゃうとか思わないんですか?」
ちょっとずけずけと質問しすぎちゃったかな…と思っていると『稲荷・雅』さんは答えてくれた。
「うーん、なんでだろうね。キミはそう言うことしないって思ったからかな。キミのオトモダチもキミがそんなことしないってこと分かってそうだし。ね?」
と『稲荷・雅』さんは奈々子に尋ねた。
奈々子はそれに頷いた。
「だってさ、よかったね。そうだ、名前教えてよ。ぼくは『稲荷・雅』…ってもう分かってるか」
という『稲荷・雅』さんの自己紹介に私と奈々子はつい吹いてしまった。
「私は『アネモス』っていいます!」
奈々子は名前の意味をギリシャ語で風という意味だと説明してくれた。
「私は『リップル』です」
こうつけた理由は単に言葉の響きが可愛いと思ったのと、自分の名前『奏波』になぞらえてっていうのもある。
「アネモスにリップルね…。ああ、伝えるのがだいぶ遅くなっちゃったけどスライムに埋もれたぼくのこと、助けてくれてありがとね」
「むしろ助けられたのは私達の方っていうか」
「あっ、たしかに…」
「謙虚だね。でも現にぼくはキミらとこうして話せてなんか心がすっきりした。久々に人と話せて楽しかったよ。運が良ければまた会おう」
『稲荷・雅』さんはそう言って私達と別れた。
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