デジタル・ワルキューレ

夢月桜

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第一章

プロローグ

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 これは少し近い未来の話。
 VRMMO(Vitual Reality Massively Multiplayer Online Game)が当たり前になってきた時代の話だ。

 私こと澄本奏波すみもとかなはは今友達に『World Tree Online』ワールドツリーオンライン…通称ワーツリと呼ばれているゲームを勧められているところだ。

「今新規プレイヤーを招待するとレア装備が手に入れられるガチャチケ30回分が無料でもらえるの!でも周りがもうすでにやってるからさぁ…!珍しいことにまだやってないの奏波だけなの!だからお願い!私に協力してぇ~‼‼‼」

 それはもうめちゃくちゃに勧誘されている。
 
「協力するのは全然いいけどさぁ…。あれってクエストクリア?すると報酬を換金できるシステムがあるんじゃなかったっけ?それがあれば無料ガチャチケットってやついらないんじゃないの?」

 私がそう言うと友達…筑井奈々子つくいななこは「ギクゥッ!」と漫画とかでしか聞いたことないようなことを言った。

「それがさぁ…私めちゃくちゃ弱くってさぁ…。低レア装備じゃクエストクリアできるものも限られてるんだよぉ~…。高校生のお小遣いじゃあ課金できる金額も限られてるじゃん?だからこういうの利用するしかないんだよぉ~!!」

 と机に突っ伏して奈々子は私に訴えかけた。

「わかった!わかったから!元気出してよ、奈々子…。私でいいんだったら協力するから」
「え!本当!?マジで?!ありがとう~奏波!さすが我が親友!!」

 先程まで机に突っ伏して泣いていた(嘘泣きだというのは分かっていた)奈々子は急に元気になり、調子のいいことを言って私にハグをして喜びを表現した。

「じゃあワーツリの友達招待のリンク送るね!」

 奈々子はそう言った後私のスマホにリンクを送る。
 通知が来たので私はそれを開いた。

「そういえば奏波、大会の実況は見てたんだよね?なんで今までワーツリやってこなかったの?」
「えーっと…ほらこのゲーム、都市伝説あるじゃん?有名なやつ」

 私がそう言うと奈々子は何か察してくれたのか「あー…」と声を漏らす。

「あれでしょ?いきなり知らない女の子が現れて『助けて』ってつぶやいて消えてくっていう」
「訪問履歴みてもどこにも載ってない…でも確かにそこにいたっていうやつ。あれが怖くてさぁ」
「奏波昔っから怖い話苦手だもんね…。まあ、しょせん都市伝説!本当どうかもわからない噂だよ?現に私の周りでもそんな目に遭ったって人いないし。気にしすぎだって」
「だといいんだけどなぁ…」

 そんな話をしながら私はワーツリのユーザー設定を淡々とやっていく。

「それに登録さえしとけば、人気プレイヤーのバーチャルイベントに参加できるんだし…そっちの方がお得じゃんね?推しが目の前に来てくれる!最高!『エルフ・ロゼッタ』様最強!」
「相変わらず大好きだね、『エルフ・ロゼッタ』…。でも…そうだね。うん、そう思うことにした」
 
 『エルフ・ロゼッタ』というのは奈々子が推している人気のプレイヤーだ。
 その前に『World Tree Online』にはプレイヤー同士のバトル大会がある。
 これがその人気の秘訣だ。
 中にはテレビに出ているような有名人が大会を開いて参加しているのもある。
 でもそんな芸能人を差し置いて人気なプレイヤーがいるのだ。
 そのうちの一人が『エルフ・ロゼッタ』…最強のプレイヤーを決める大会で毎回上位に食い込んでいる。
 『エルフ・ロゼッタ』の戦い方は単に責めるだけではなく、トラップを用いたりして見ていて驚くような…視聴者を飽きさせないエンターテイナーのような戦いを見せてくれる。
 あと花がモチーフなのと、人形のような可愛い見た目からプレイヤーも女性の方なのに女性人気が非常に高いのも特徴だ。
 そんな彼女と同じくらいの実力を持つのが『焔竜』だ。
 彼は『エルフ・ロゼッタ』とは真逆でパワーごり押しの戦い方をする。
 それがかえって清々しいと男性人気が高いプレイヤーだ。
 ファンからはアニキと呼ばれている。
 ちなみにファンネームは舎弟というらしいが『焔竜』本人がなんかムズムズするからやめてくれと照れたことがあり、最近ではそれがかわいい、母性をくすぐるということで女性人気も徐々に得てきているようだ。
 そして現最強の『稲荷・雅』。
 このプレイヤーはすべてが謎に包まれている。
 年齢、性別が一切不明で唯一わかることは日本出身なことくらい。
 大会のインタビューに答えることもない、自分のことも話すことがない…そんなミステリアスなところが彼?彼女?が人気な理由だ。
 急に現れてから今まで一度も負けたことがないらしく、噂では『稲荷・雅』は超高性能なAIなんじゃないかとか言われている。
 でもワーツリのシステム上、外部のAIが侵入することは難しいらしいから『稲荷・雅』は人間なんだということはわかる。
 すべてが謎すぎて『稲荷・雅』のファンからはガチの神様扱いをされている。
 プレイヤー自身もファンもなんだか近寄りがたい…というイメージが私の中にはある。
 奈々子は『エルフ・ロゼッタ』が推しだけど、私は大会の雰囲気を楽しむことが好きなので特に推してる!ってプレイヤーはいない…かな。

「よぉし、奏波もワーツリプレイヤーになった事だし早速帰ったあと一緒にプレイしよ?!何時から空いてる?!何時までイケる?!」
「うーん、明日も学校あるしなぁ…。21時から23時までならギリ…?」
「うぉ…さすが奏波、マジメちゃんだね…」
「まあ一応真面目なのが取り柄だからね」

 そんな話をしていると昼休み終了5分前のチャイムが鳴る。

「わぁ、昼休みも終わりかぁ…。次は現文かぁ…。ランチ後の現文は寝落ち確定だな…」

 と奈々子はふぁっと欠伸をした。

「まあその気持ちも分からなくもないけどね。ミントタブレットでも食べればいいんじゃないかな?」
「今持ってないなぁ、ミントタブレット…」
「だ、代用で歯磨き粉でも舐める…とか…??」
「うわぁ、それめちゃくちゃ嫌だなぁ…。顔洗ってきたら少しは眠気覚めるかも」
「それが一番良さそうだね。先生来ちゃうから早くいってらっしゃい」
「そうだね、ちょっとひとっ走りしてくるわ!」
 
 奈々子は勢いよく教室を出たが途中で先生とすれ違ったのか「こら!廊下走っちゃダメでしょ!?」と注意する声が聞こえた。



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