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進学

僕が聞きたいのは

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 秋松あきまつの祖父母の家は電車で二時間かかった。
 「こんなに長く電車に乗ったの初めてだから疲れました」
 電車を降り志綾しあは腕を上げて伸ばした。
 「荼泉とい様が平気なのが少しだけむかつきます。」
 「まぁ、どんまい」
 二人で会話をしていると後ろから秋松が「お疲れ様」と飲み物を渡してくれた。
 「秋松君もお疲れ様です。」
 「・・・案内してくれ」
 「もちろん」
 三人は周りを見ながら祖父母の家まで向かって行った。


 秋松がインターホンを押す。「はい」と言う返事が返って来て扉が開いた。出て来たお婆さんは秋松を見てびっくりした。
 「夏輝斗くん。どうしたの」
 「お母さんの様子を見にきたのと話がある」
 「・・・上がって」
 一瞬だけ志綾達を見てから三人を上がらせた。
 先にお母さんがいる部屋に案内されて三人は入る。
 「お母さん、久しぶり。元気だった?」
 「・・・・か、かきと?」
 「うん」
 「元気だったよ。でもね、あの家にいないはずなのに私の周りには人が沢山いるの。怖くて、怖くて」
 秋松の袖を掴んで訴える。
 「うん、怖いね、大丈夫だよ。もう誰もいない。いないから大丈夫。」
 少しの間、秋松が背中をさすって落ち着かせていた。少しすると無言でベットに戻り寝息を立て始めた。
 「戻ろ」
 秋松はそう言いお婆さんのところに戻って来た。
 「改めましてつなぎ 志綾と言います。こっちが」
 「かなめ 荼泉です。」
 「秋松君は小学生の時一緒で仲良くさせてもらっていました。」
 「ッ」
 志綾がそう言った瞬間秋松が唾を飲み込んだ。
 視線を秋松に移してニコッと微笑んだ。
 「そうか、そうか。仲良くしてくれてありがとう。それでそれだけじゃないんだろう?」
 「はい、秋松君から相談され手伝おうと思いここに来ました。」
 「それは秋松の母親のことか?」
 「それもありますし、貴方でもあります。」
 「私かい?」
 「はい、貴方にお母さんは預けたが自分までもが貴方に世話になるわけには行かないと、貴方に楽をさせてあげたいと言っていました。」
 「夏輝斗くん。そんなこと」
 「そんなことではありません。秋松君なりに考えて行動しています。秋松君は中学を中退しています。本来義務教育は簡単に中退出来ません。ですが、母親のため、お婆ちゃんのためにと仕事を探していました。ですが父親の肩書がある以上どこも雇ってくれない。なので私が彼を雇うことにしました。繋と聞いて気づいたことはありませんか?」
 「繋・・・なるほど」
 「そこで提案です。秋松君の家も学校関係も全て繋家が出します。苗字も繋に変えれば雇ってくれると思います。お母さんを精神科に入れるお金も私が負担します。お婆さんもいつでも介護を雇うことも出来るようにします。他にもなにがして欲しいことがあるなら優先的にします。改めてお願いがあります。秋松君を私の家で雇っても良いですか?」
 「え、」
 何を言っているのかわからない顔をする。
 「全面的にサポートをします。」
 「そんなことしなくても夏輝斗がいいなら」
 「そんな簡単に結論を出さないでください。これから仕事内容を説明します。でも、仕事内容を話したらきっと二人は軽蔑してしまうかもしれない。それでも聞いてくれますか?」
 「・・・俺は軽蔑しない、住める家を食べれるご飯を与えてくれたのは全部繋だ。繋が言うことは正しいし、俺は軽蔑してはいけない。」
 「私も聞いてみる。軽蔑はしないと思う、いえ、しない。夏輝斗を助けてくれたのは繋さんだものね」
 「ありがとうございます。」

 覚悟を決めて話し始める。
 「秋松君にやって貰いたいのは・・・後処理です。」
 「後処理?」
 「はい、私は夜・・・ごめんなさい、」
 急に志綾は頭を下げた。
 「繋?」
 「・・・ごめんな
 「はぁ。無理してやることじゃないのに・・・」
 「・・・志飛しとか。」
 「志飛?」
 「初めまして、繋 志飛です。僕と志綾は双子と言う設定で産まれてきましたが本来は僕が本物です。」
 「志飛、そんな説明じゃわからないって」
 「・・・お婆さん、繋と要家のこと知ってるんでしょう?なら昔話は?」
 「昔話?」
 「そう、もう都市伝説化を果たした繋家と要家の昔から続いていること」
 「・・・少し待ってて」
 お婆さんは立ち上がり棚を漁る。手に一冊の絵本を持って来た。
 「これは私の死んじゃった夫が書いた絵本。」
 「おじいちゃんが・・・」
 「おじいちゃんは人一倍要家と繋家の過去について興味を惹かれていたわ。」
 お婆さんは絵本を広げて読み聞かせをするようにぽつりぽつりと音読し始めた。
 『ある田舎の一軒家に若い夫婦がおりました。
 夫婦の家は貧乏でありました。その街には決まりがあり女は中、男は外。女は外では仕事が出来ず家計は夫が一人が支えていました。ですが夫一人では家計を支えるのは困難でした。
 夫婦の間に子供が産まれました。念願の男とはならず女の子でした。男の子が欲しかった夫婦はまた子供を産みますが女の子しか産まれません。その間も夫は一人で仕事をし、家計を支えないといけません。三人目の子供が産まれました。残念ながら女の子でした。夫婦は諦めました。夫は一人で働いていました。
 夫婦にとって災厄なことが起きてしまいました。そう夫が倒れてしまったんです。夫は倒れ、女、子供は仕事ができない。ああ、大変。どうしたものだ。
 食べるものもなくなりこのまま死んでしまうと思っていた夫婦に奇跡が起こりました。こんな田舎にくるとは思わなかった人が・・・お偉いさん、上のいいところで暮らしている人が夫婦の家に来ました。お偉いさんの家は男しか産まれないと夫婦に言いました。夫婦もまた女しか産まれないと泣きついてしまいました。お偉いさんと夫婦は利害の一致を果たしました。それからはお偉いさんを要、夫婦を繋として、要家は男。繋家は女を輩出し結婚させると言うルールが作られました。』
 「・・・」
 秋松は真剣に聞いている。
 「そう言うことだ。だか、僕達が産まれた年、このルール、伝統はもう終わった。繋家に産まれたのが男の僕だった。両親達は僕を女として育てた。」
 「・・・そうだったのか」
 「私の夫はこの本をもう一冊書く予定だったの。今の要家と繋家のお話を書きたいって言っていたわ。」
 「じゃあ、もしかして」
 「ええ、私の夫は繋家が男を産んだことを知っていたの。」
 「ど、どうして」
 「・・・秋松は父の苗字。母の苗字はみちび。」
 「「!!」」
 志飛と荼泉は二人して驚く。
 導家とは、要家、繋家と同じて名家だった。要家と一緒で裏の仕事をしていた。繋家は基本的に裏の仕事はしていない。女を輩出する家計だから。
 「で、では」
 「お金は・・・必要ないの。それから繋さんが言っていた仕事。やらせても私はいいと思うわ。あとは本人同士で決めて。私も若い時は後処理の仕事を任されたわ。」
 「・・・」
 「志飛?」
 「本心ですか?」
 「え、ふふ、本心よ。」
 「僕にはとても本心には聞こえない。」
 「人の気持ちなんて誰にもわからない。」
 志飛は立ち上がる。
 「僕が聞きたいのは・・・助けてくださいだ。」
 手を差し出す。
 「お金も本当は残り少ないんだろう?導家は五年前から手伝わなくなった。なら当主様からは何ももらっていないはずだ。」
 「・・・・」
 「困っている時は素直に周りの人を目の前の人を頼ってもいい。」
 「・・・」
 「貴方はこれから娘さんの世話。秋松君がこれからやる仕事も全て背負っていがないといけなくなる。」
 「・・・」
 「・・・・導 じゅんさん、僕に貴方の手伝いをさせてください。頼りないかもしれませんが貴方の力になりたい。」
 
 あぁなんていい子なんだろう。
 私は導家に産まれたことを後悔していた。要家の手伝いをするのは別に仕事だからと吹っ切れるが、自分の手が自分のではないように感じながら生きて来た。そんな汚れた手で彼女・・・彼の手をとっていいのだろうか・・

 私は恵まれているのかもしれない。
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