上 下
485 / 512
2人が幸せになるために

待っている人がいるから

しおりを挟む
 テレビをつけると、大々的に『鵺瀬やせ夜丘やおか先生復活か!?』とテロップに書いてあった。直也なおやはその言葉になんとなくつけたが、つい見入ってしまった。

 事情までは教えてくれなかったが、12月31日に発売予定だとニュースキャスターが言う。直也は鵺瀬夜丘の公式サイトを開いていた。そこにはotomoという名前の人がお知らせと書いて投稿されていた。
 
 『未発売だった小説が12月31日予定で発売されます。予定なので変わり次第またお知らせいたします。』

 そのコメントには様々な反応があった。

 『わーい、待ってました』『書けない状態ってなんだったんだ?』『また発売できないとか聞きたくないよー』『戻ってきたー』

 直也は今、白斗はくとがどんな状況なのかわからない。これは素直に喜んでいいことなのだろうか。そうスマホを弄っているとガチャガチャと勝手にドアを開けている音がする。玄関に行く前にドアが開き、リビングに来た。
 「直木なおきさん・・合鍵渡しましたっけ?」
 「お前が落ち込んでる時に机に落ちてあった白斗の鍵を拝借した。それより・・ついてこい。」

 聞き捨てならないことを聞いたが、直木が肩で息をしていた。相当焦っていることに気がついて詰めるのをやめた。外に出ると車が停めてあった。乗れと言われ、直也は乗る。

 運転手がいて直也は軽く会釈をして椅子に座った。直木も乗り向かい側に座る。

 「どこに行くんです?」
 「白斗のとこ」
 「えっ、もう俺行っていいんですか?」
 「・・・いや、会うのあずさ。白斗とはまだ会わせられない。でも、いい機会だと俺は思う。一回、白斗が暮らしている場所を見てみるといい。」

 それ以上何も言わない。直也も特に言うことがないので沈黙のまま目的まで車で揺れた。

 「つきました。」
 「降りろ。ありがとう。お昼過ぎに戻ってくる。」
 「わかりました。」

 地面に足をつける。
 「ここは・・・」
 「研究室本部だ。」
 「本部・・」
 「行くぞ」

 説明もほどほどに直木は先を歩く。

 研究室を歩くと色んな研究員にすれ違う。毎回「直木さんお疲れ様です」と喋りかけられる直木は鬱陶しそうだった。

 直木はある部屋で止まる。
 「直木さん?」
 直木の名前を呼ぶと直木は静かに指を指す。

 そこには誰かと何かを話しているがいた。そこに行こうとした直也を直木が止めた。

 「見るだけだ。行くぞ。」

 直木は白斗から目を逸らし、右曲がった。直也も悔しそうな顔をして直木について行く。



 2人が来た部屋には梓がもう座って待っていた。
 「久しぶり。直木、直也さん。」
 「梓。」

 座ってと2人に諭す。
 「で、なんのようだ?」
 「白斗が見たいと思って」

 直木がガタンっと立ち上がる。

 「直木。嘘よ。座って」
 「ちっ」

 イライラした様子でドカッと座る。

 「白斗のこと気になってると思うから・・まずは報告。」
 「まずはってことはまだ他に何にがあるのか?」
 「落ち着いて。話すから。」
 梓ははぁと息を吐く。
 「まずね、白斗はお父様と・・・篠秋しのあき信秋のぶあき百々目とどめまさに血を提供している。」
 「血を提供?」
 直也が質問すると梓が微妙な顔をして
 「それは・・実験内容だから詳しくは話せない。ごめんなさい。」
 「・・」
 納得はできないけど、しょうがないと気持ちを切り替えた。切り替えたけど、百々目という名字が次に引っかかった。
 「百々目・・もしかして雪君の」
 「知っているのね・・百々目雪の父親。」
 「それで?」
 直木が話を早めようとする。
 「それで、本当はあの部屋にいる決まりなんだけど、」
 あの部屋で直木は理解したみたいだが、直也は理解が追いついていない。
 「白斗が血を提供する代わり?に自由にしてほしいって願った・・だから、今の白斗はこの施設で自由。2人が白斗を心配する必要がないって言いたかっただけ。」
 「それだけなのか?」
 「あとね・・白斗が直也さんに『待ってるから』だって」

 梓は微笑む。直也は下を向き

 「ありがとうございます!」
とお礼を言った。

 帰り際、また白斗を見かけた。梓を見つけた白斗が直也の横を通り過ぎる。直也は振り向かず、施設を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

5人の幼馴染と俺

まいど
BL
目を覚ますと軟禁されていた。5人のヤンデレに囲われる平凡の話。一番病んでいるのは誰なのか。

処理中です...