上 下
5 / 7
恋焦がれる

恋などしない・・・いや、できない

しおりを挟む
 僕は逃げた。逃げていた。足が動いている。疲れているのに休みたいのに足が止まらない。でもそれでもいい。どこか先輩が来ない場所。そう遠くに、遠くに逃げたい。



 「なぎ様?」
 誰かの声が・・・誰かではない時咲とさの声が聞こえた。
 「あ、れ?」
 「凪様のお母様が私の家に来て凪様の具合が悪いと聞き来ました。」
 「お母様が?」
 「はい。」
 「そうか。帰って良い。」
 「で、ですが、何か悪い夢でも見ていたのではないですか?うなされていたので・・・」
 「・・・なんか言っていたか?」
 「・・・・先輩と」
 「まぁ、とにかくだ。僕は大丈夫。茅鶴様がご飯を作って待っているんだろう?こっちもかおる兄さんが帰って来る。」
 「はい、では私は帰ります。」
 「そうしてくれ、」



 一人になるとやっぱり考えてしまう。


 僕は本当に恋をしているのだろうか?いやいやまさかそんなことはないはずだ。だって僕は婚約者のいる身、ダメなはずだ。違反のはずだ。伝統破りのはずだ。
 時咲に、お母様にお父様に何を思われるか・・・考えただけで鳥肌が立つ。

 「凪。居る?」
 「兄さん?」 
 「話がある。」
 「?何?どうしたの?」

 「俺は、かなめ家の当主の座から降りる。だから時期当主はお前、凪だ。」


 「え?なんで?当主は兄さんで僕はつなぎ家の者になるんでしょう?」
 「俺が繋家の者になる。父も了承している。母は特に何も・・」
 「待って、そんな簡単に・・」
 「簡単じゃない、考えて、考えて導き出した結果だ。」
 薫兄さんはそう言ってどこかに行ってしまう。僕もそれについて行き外に出た。後をつけて繋家の敷地内に入った。インターホンを押したのか家からは繋家の者で薫兄さんの婚約者、そして時咲の姉茅鶴ちづる様が出てきて抱き締めた。
 「茅鶴!」
 「薫様!」
 「幸せになろう!」
 そう大きな声で聞こえた。茅鶴は手で口を押さえてその場にしゃがみ込んでしまった。
 僕は手を握りしめた。


 ああ、僕に恋なんってできるわけない
しおりを挟む

処理中です...