5 / 8
大人なんですね
しおりを挟む
*
な、鳴らしてしまった……
――今朝、女の人と会ってましたよね? どうしても気になって来ちゃいました。
なんて、あざとくかわいく、バカ正直に告白する図太さなんか持ち合わせていない。
どうしよう。どうすればいい?
インターホンを押してしまった後で、思考をフル回転させて必死にうまい言い訳を探していた私は、
「どうしたの? こんな時間に」
そう言って出てきた彼を見て、ぴたりと固まってしまった。
「そっちこそ、大丈夫……?」
どうしたの? はこっちの台詞だ。
そんな、薄暗闇でも分かるほど、蒼白い顔をして。
「寝てたほうがいいよ」
「えっ? あっ、ちょっ……」
玄関で靴を脱ぎ捨て、おぼつかない足取りの彼の手を取り、部屋に足を踏み入れる。
見ると、テーブルの上に、まだ中身の入っていそうなビール缶があった。異様な顔色の原因はこれか。
「そっか。大人なんですね、ユキさんって」
嫌味たらしく呟いてしまったのは、今朝のことがより鮮明に脳裏をよぎったからだ。
「飲む?」
「遠慮しときます。未成年だし」
それ飲んだら間接キスじゃないですか、とは言わないでおく。
「真面目だね」
「うち、母が教師なんです。ひとくちでも飲んで帰ったら、きっと気づきます」
「じゃあ、ここにいたらまずくない?」
「そんな顔色で言われても」
苦笑を返して、彼をベッドに寝かせる。
「君、お母さんのこと嫌い?」
布団をかけてやり、
「嫌いってわけじゃないけど、好きじゃないのも確かです」
答えながら、彼に背を向ける形でベッドの淵に腰かけた。
「相手の気持ちが分からない人なんです。担当、現代文なのに」
文章や物語の中に織り込まれている繊細な想いを汲み取って、生徒たちに伝える。そんな仕事をしているはずなのに、いつも何かに焦って、ピリピリして。
「でもね、最近、思い出したんです」
彼と関わるうちによみがえってきた、幼き日の、おぼろげな記憶。
「十五年前――父がいた頃は、今みたいじゃなかった。昔から神経質で心配性なところはあったけど、もうちょっとちゃんと、笑ってました」
訊かれる前に、続ける。
「自殺、かもしれないんです」
父は母とは正反対な性格で、物腰やわらかな人だった。母の小言も、ごめんね、分かったよ、って受け入れながらうまくかわして。
そんな、怒りや苛立ちとは無縁に見えた父が、たった一度だけ、母に反抗したことがあった。
――キミハ、ボクガイナクテモイキテイケルダロ?
とても悲しげな声だった。
なぜそう言ったのかは分からない。当時、私はようやくひとりでトイレに行けるようになった年頃で、夜中に用を足そうと起き出してリビングを通りかかったときに、たまたま聞こえてきたのだ。
「それで、深夜だったのに気分転換に釣りに行くって出ていって、そのまま帰ってこなくなっちゃったみたいで」
翌朝、近所の川で遺体となって発見されたという。
「解剖もしたけど、溺死ってこと以外、詳しい死因が分からないらしくて」
最初、何かの暗号のようにしか聞こえなかった父の最後の言葉も、歳を重ねるにつれてだんだんと理解できるようになった。母が自分を責め続ける気持ちも、自殺かもという呪縛から逃れられない理由も。
「思えば勉強も、もともと母のために頑張ってたんです。テストでいい点取ると、喜んでくれるから」
笑って、くれるから。
「だけどもう、私じゃ無理なんです」
呟いた声は、思った以上に情けなくなった。
「ユキさん、前に私に言いましたよね? 先は長いって。でも、人間って変に賢い生き物だから、自分で死ぬ日を決めることもできるんです。父は、そうだったのかもしれない」
――君は、僕がいなくても生きていけるだろ?
たしかに、父の主張も間違ってはいなかったのだろう。事実、母は父が亡くなってからずっと、女手ひとつで私を育ててきたのだから。
けれど、
「誰かに優しくするのって、心の余裕が必要だと思うんです」
父は、それをくれる人だった。父のことなんてほとんど覚えてないけど、それだけは自信を持って言える。
生活が成り立つとか成り立たないとかじゃなくて、もっと大事なもの。私たちが心穏やかに生きていくために、家族であり続けるために、欠かせないもの。
私は、父の代わりにはなれない。父が空けた穴は、父にしか埋められない。
「愛だね」
ふいに背後から聞こえた声に、「えっ……?」と射貫かれたような気分になる。
「その心の余裕ってやつ、愛だと思うよ?」
あぁ――彼はいつもそうやって、私の一歩先を行く。
当然か。大人なんだから。
「――今朝の人って、彼女ですか?」
せっかく忘れかけていたのに、また意地悪したくなってしまった。
すると、彼はしばらく考えるように間を空けた後、「見てたんだ……」と少し驚いた様子でこぼしてから、
「違うよ」
あくまで落ち着いた声色で答えた。嘘偽りは感じられない。
「じゃあ、どういう?」
「うーん、秘密」
言えないような関係なの? 好きだけどまだ付き合ってないとか? それとも――
「ユキさんって、嘘はつかないけど、隠し事はしますよね」
拗ねたように言うと、彼は「疑ってるな?」といたずらに呟いて起き上がり、私の隣に腰かけた。
「アカネの髪色って、茶色っぽいけど、地毛?」
じっと見つめながら問われ、「う、うん……」と戸惑いながら答える。
「へぇ、かわいいね」
無邪気な口調を崩さず言うと、彼は私のヘアゴムを外した。
「ユキさん……?」
そしてそのまま、優しくベッドの上に押し倒され――
「ねぇ、君、自分で気づいてる? 怒ると敬語に戻るの」
逃げ道を絶たれる。
「機嫌、直してよ」
彼の顔がゆっくりと近づいてきて、思わずぎゅっと目を閉じた。
少し酒臭い、吐息。
「なーんて、冗談」
その一言で、空気が一変し、はっと目を開ける。
彼は涼しい顔でベッドからおりると、私に背を向け、出窓の前で立ち止まってカーテンを開けた。
「未成年と成人がするのは、犯罪だよ」
――じゃあ、私が大人だったら……
身も蓋もない問いかけは呑み込んで起き上がり、その場に座り込む。
たった四つ。片手で数えられるのに、遠い。
「俺はね」
彼は窓枠に肩ひじをついて、話し始めた。
「昔、母親がキャバクラで働いてたとき、観光に来てたアメリカ人の客に気に入られて、大サービスした末にできた子供らしい。妊娠が分かった頃には相手は帰国済みで、認知しなかった。だから俺は父親の顔を一切知らない」
思い出すのは、ハーフかと尋ねたときの、動揺したような彼の反応。人に知られたくない過去なんて、誰もが持っているのかもしれない。
「この話も、ずいぶん前に泥酔した母親から聞かされただけだから、本当かどうか分からない。でもまぁ、他人の君がそう感じるなら、実際そうなのかもね」
他人。
その単語が、容赦なく胸をえぐった。
「いずれにせよ、俺には尻軽女の血が流れてるんだ。君も気をつけたほうがいい。今ので思い知っただろ?」
冷たい背中。
「……私、帰りますね」
シーツの上に放置されていたヘアゴムを拾い上げて結び直し、ベッドからおりる。
「勉強、しないと」
嘘じゃない。受験生は忙しいのだ。
「お邪魔しました」
何も返してくれない彼にそれだけ言い残して、部屋を出た。
*
「はーあ。何やってんだろ、俺」
ベッドに横たわって背中を丸め、深いため息とともに独り言ちる。
あの夜は彼女が帰った直後から自己嫌悪に陥り、すでに鈍い頭痛を感じていたにもかかわらず、残っていた酒を完飲し、案の定地獄行き。
朦朧とした意識の中で、そういえば彼女はあの人との関係を気にしているようだったと思い出し、
『昨日はごめん。会って話したい。絶対なんか誤解してるから』
吐き気に苦しめられながら送ったメッセージには、すぐさま既読がついたものの、一向に返信がなく日曜が終わった。
翌日には無事体調が回復し、
――考えてみればメッセージでのやり取りは初めてだし、年の瀬だし、そんなこともあるか。
と自分に言い聞かせながら年末年始もバイトで気を紛らわせていたが、ついに二週間経っても進展せず、前回と同じ過ちを繰り返して現在に至る。
ほんと、笑えない。
あんなことした上に、自分から拒絶したくせに。
――大人なんですね。
彼女の突き放すような一言が、耳の奥にこびりついていた。
「全然、大人じゃねぇよ……」
彼女は知らないのだろう。
あのとき――酒のせいばかりじゃなく、途中でブレーキをかけるのに、茶化すのに、相当な理性が必要だったことも。
こうやって、二日酔いで寝込んで、独り女々しく思い悩んでいることも。
きっと、何ひとつ知らないのだろう。
彼女は勉強に逃げてしまう自分を卑下していたが、そんなのまだかわいいもんだ。酒に逃げるより、百倍いい。
お母さんのために、なんてめちゃくちゃかわいいじゃないか。
そう思いながら、手は自然と枕もとのスマホへ伸びる。
ダメもとで追撃してみようか、なんて懲りずに彼女の連絡先を開いたとき、
――ピロン。
図ったように、メッセージが届いた。
【返信、遅くなってごめんなさい。今から行ってもいい?】
「おぉっと……」
待て。落ち着け。イエスと叫びたいのは山々だが、この状況でまともに対応できるのか?
最後に吐いたのは今朝の八時。気づけばもう五時間近く経っている。悪心もない。
頭は痛いけど、まったく働かないわけじゃない。
よしっ。
『二日酔いでダウンしてるけど、それでもよけ……』
いやいや。相手に選択を託したら、遠慮されてしまうかもしれない。変なところで大人ぶるな。
ここは、もっと素直に。
『二日酔いでダウンしてるけど、もう吐き気もおさまってるし、君には迷惑かけないと思うから。待ってる』
な、鳴らしてしまった……
――今朝、女の人と会ってましたよね? どうしても気になって来ちゃいました。
なんて、あざとくかわいく、バカ正直に告白する図太さなんか持ち合わせていない。
どうしよう。どうすればいい?
インターホンを押してしまった後で、思考をフル回転させて必死にうまい言い訳を探していた私は、
「どうしたの? こんな時間に」
そう言って出てきた彼を見て、ぴたりと固まってしまった。
「そっちこそ、大丈夫……?」
どうしたの? はこっちの台詞だ。
そんな、薄暗闇でも分かるほど、蒼白い顔をして。
「寝てたほうがいいよ」
「えっ? あっ、ちょっ……」
玄関で靴を脱ぎ捨て、おぼつかない足取りの彼の手を取り、部屋に足を踏み入れる。
見ると、テーブルの上に、まだ中身の入っていそうなビール缶があった。異様な顔色の原因はこれか。
「そっか。大人なんですね、ユキさんって」
嫌味たらしく呟いてしまったのは、今朝のことがより鮮明に脳裏をよぎったからだ。
「飲む?」
「遠慮しときます。未成年だし」
それ飲んだら間接キスじゃないですか、とは言わないでおく。
「真面目だね」
「うち、母が教師なんです。ひとくちでも飲んで帰ったら、きっと気づきます」
「じゃあ、ここにいたらまずくない?」
「そんな顔色で言われても」
苦笑を返して、彼をベッドに寝かせる。
「君、お母さんのこと嫌い?」
布団をかけてやり、
「嫌いってわけじゃないけど、好きじゃないのも確かです」
答えながら、彼に背を向ける形でベッドの淵に腰かけた。
「相手の気持ちが分からない人なんです。担当、現代文なのに」
文章や物語の中に織り込まれている繊細な想いを汲み取って、生徒たちに伝える。そんな仕事をしているはずなのに、いつも何かに焦って、ピリピリして。
「でもね、最近、思い出したんです」
彼と関わるうちによみがえってきた、幼き日の、おぼろげな記憶。
「十五年前――父がいた頃は、今みたいじゃなかった。昔から神経質で心配性なところはあったけど、もうちょっとちゃんと、笑ってました」
訊かれる前に、続ける。
「自殺、かもしれないんです」
父は母とは正反対な性格で、物腰やわらかな人だった。母の小言も、ごめんね、分かったよ、って受け入れながらうまくかわして。
そんな、怒りや苛立ちとは無縁に見えた父が、たった一度だけ、母に反抗したことがあった。
――キミハ、ボクガイナクテモイキテイケルダロ?
とても悲しげな声だった。
なぜそう言ったのかは分からない。当時、私はようやくひとりでトイレに行けるようになった年頃で、夜中に用を足そうと起き出してリビングを通りかかったときに、たまたま聞こえてきたのだ。
「それで、深夜だったのに気分転換に釣りに行くって出ていって、そのまま帰ってこなくなっちゃったみたいで」
翌朝、近所の川で遺体となって発見されたという。
「解剖もしたけど、溺死ってこと以外、詳しい死因が分からないらしくて」
最初、何かの暗号のようにしか聞こえなかった父の最後の言葉も、歳を重ねるにつれてだんだんと理解できるようになった。母が自分を責め続ける気持ちも、自殺かもという呪縛から逃れられない理由も。
「思えば勉強も、もともと母のために頑張ってたんです。テストでいい点取ると、喜んでくれるから」
笑って、くれるから。
「だけどもう、私じゃ無理なんです」
呟いた声は、思った以上に情けなくなった。
「ユキさん、前に私に言いましたよね? 先は長いって。でも、人間って変に賢い生き物だから、自分で死ぬ日を決めることもできるんです。父は、そうだったのかもしれない」
――君は、僕がいなくても生きていけるだろ?
たしかに、父の主張も間違ってはいなかったのだろう。事実、母は父が亡くなってからずっと、女手ひとつで私を育ててきたのだから。
けれど、
「誰かに優しくするのって、心の余裕が必要だと思うんです」
父は、それをくれる人だった。父のことなんてほとんど覚えてないけど、それだけは自信を持って言える。
生活が成り立つとか成り立たないとかじゃなくて、もっと大事なもの。私たちが心穏やかに生きていくために、家族であり続けるために、欠かせないもの。
私は、父の代わりにはなれない。父が空けた穴は、父にしか埋められない。
「愛だね」
ふいに背後から聞こえた声に、「えっ……?」と射貫かれたような気分になる。
「その心の余裕ってやつ、愛だと思うよ?」
あぁ――彼はいつもそうやって、私の一歩先を行く。
当然か。大人なんだから。
「――今朝の人って、彼女ですか?」
せっかく忘れかけていたのに、また意地悪したくなってしまった。
すると、彼はしばらく考えるように間を空けた後、「見てたんだ……」と少し驚いた様子でこぼしてから、
「違うよ」
あくまで落ち着いた声色で答えた。嘘偽りは感じられない。
「じゃあ、どういう?」
「うーん、秘密」
言えないような関係なの? 好きだけどまだ付き合ってないとか? それとも――
「ユキさんって、嘘はつかないけど、隠し事はしますよね」
拗ねたように言うと、彼は「疑ってるな?」といたずらに呟いて起き上がり、私の隣に腰かけた。
「アカネの髪色って、茶色っぽいけど、地毛?」
じっと見つめながら問われ、「う、うん……」と戸惑いながら答える。
「へぇ、かわいいね」
無邪気な口調を崩さず言うと、彼は私のヘアゴムを外した。
「ユキさん……?」
そしてそのまま、優しくベッドの上に押し倒され――
「ねぇ、君、自分で気づいてる? 怒ると敬語に戻るの」
逃げ道を絶たれる。
「機嫌、直してよ」
彼の顔がゆっくりと近づいてきて、思わずぎゅっと目を閉じた。
少し酒臭い、吐息。
「なーんて、冗談」
その一言で、空気が一変し、はっと目を開ける。
彼は涼しい顔でベッドからおりると、私に背を向け、出窓の前で立ち止まってカーテンを開けた。
「未成年と成人がするのは、犯罪だよ」
――じゃあ、私が大人だったら……
身も蓋もない問いかけは呑み込んで起き上がり、その場に座り込む。
たった四つ。片手で数えられるのに、遠い。
「俺はね」
彼は窓枠に肩ひじをついて、話し始めた。
「昔、母親がキャバクラで働いてたとき、観光に来てたアメリカ人の客に気に入られて、大サービスした末にできた子供らしい。妊娠が分かった頃には相手は帰国済みで、認知しなかった。だから俺は父親の顔を一切知らない」
思い出すのは、ハーフかと尋ねたときの、動揺したような彼の反応。人に知られたくない過去なんて、誰もが持っているのかもしれない。
「この話も、ずいぶん前に泥酔した母親から聞かされただけだから、本当かどうか分からない。でもまぁ、他人の君がそう感じるなら、実際そうなのかもね」
他人。
その単語が、容赦なく胸をえぐった。
「いずれにせよ、俺には尻軽女の血が流れてるんだ。君も気をつけたほうがいい。今ので思い知っただろ?」
冷たい背中。
「……私、帰りますね」
シーツの上に放置されていたヘアゴムを拾い上げて結び直し、ベッドからおりる。
「勉強、しないと」
嘘じゃない。受験生は忙しいのだ。
「お邪魔しました」
何も返してくれない彼にそれだけ言い残して、部屋を出た。
*
「はーあ。何やってんだろ、俺」
ベッドに横たわって背中を丸め、深いため息とともに独り言ちる。
あの夜は彼女が帰った直後から自己嫌悪に陥り、すでに鈍い頭痛を感じていたにもかかわらず、残っていた酒を完飲し、案の定地獄行き。
朦朧とした意識の中で、そういえば彼女はあの人との関係を気にしているようだったと思い出し、
『昨日はごめん。会って話したい。絶対なんか誤解してるから』
吐き気に苦しめられながら送ったメッセージには、すぐさま既読がついたものの、一向に返信がなく日曜が終わった。
翌日には無事体調が回復し、
――考えてみればメッセージでのやり取りは初めてだし、年の瀬だし、そんなこともあるか。
と自分に言い聞かせながら年末年始もバイトで気を紛らわせていたが、ついに二週間経っても進展せず、前回と同じ過ちを繰り返して現在に至る。
ほんと、笑えない。
あんなことした上に、自分から拒絶したくせに。
――大人なんですね。
彼女の突き放すような一言が、耳の奥にこびりついていた。
「全然、大人じゃねぇよ……」
彼女は知らないのだろう。
あのとき――酒のせいばかりじゃなく、途中でブレーキをかけるのに、茶化すのに、相当な理性が必要だったことも。
こうやって、二日酔いで寝込んで、独り女々しく思い悩んでいることも。
きっと、何ひとつ知らないのだろう。
彼女は勉強に逃げてしまう自分を卑下していたが、そんなのまだかわいいもんだ。酒に逃げるより、百倍いい。
お母さんのために、なんてめちゃくちゃかわいいじゃないか。
そう思いながら、手は自然と枕もとのスマホへ伸びる。
ダメもとで追撃してみようか、なんて懲りずに彼女の連絡先を開いたとき、
――ピロン。
図ったように、メッセージが届いた。
【返信、遅くなってごめんなさい。今から行ってもいい?】
「おぉっと……」
待て。落ち着け。イエスと叫びたいのは山々だが、この状況でまともに対応できるのか?
最後に吐いたのは今朝の八時。気づけばもう五時間近く経っている。悪心もない。
頭は痛いけど、まったく働かないわけじゃない。
よしっ。
『二日酔いでダウンしてるけど、それでもよけ……』
いやいや。相手に選択を託したら、遠慮されてしまうかもしれない。変なところで大人ぶるな。
ここは、もっと素直に。
『二日酔いでダウンしてるけど、もう吐き気もおさまってるし、君には迷惑かけないと思うから。待ってる』
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

おれは農家の跡取りだ! 〜一度は捨てた夢だけど、新しい仲間とつかんでみせる〜
藍条森也
青春
藤岡耕一はしがない稲作農家の息子。代々伝えられてきた田んぼを継ぐつもりの耕一だったが、日本農業全体の衰退を理由に親に反対される。農業を継ぐことを諦めた耕一は『勝ち組人生』を送るべく、県下きっての進学校、若竹学園に入学。しかし、そこで校内ナンバー1珍獣の異名をもつSEED部部長・森崎陽芽と出会ったことで人生は一変する。
森崎陽芽は『世界中の貧しい人々に冨と希望を与える』ため、SEEDシステム――食料・エネルギー・イベント同時作を考案していた。農地に太陽電池を設置することで食料とエネルギーを同時に生産し、収入を増加させる。太陽電池のコストの高さを解消するために定期的にイベントを開催、入場料で設置代を賄うことで安価に提供できるようにするというシステムだった。その実証試験のために稲作農家である耕一の協力を求めたのだ。
必要な設備を購入するだけの資金がないことを理由に最初は断った耕一だが、SEEDシステムの発案者である雪森弥生の説得を受け、親に相談。親の答えはまさかの『やってみろ』。
その言葉に実家の危機――このまま何もせずにいれば破産するしかない――を知った耕一は起死回生のゴールを決めるべく、SEEDシステムの実証に邁進することになる。目指すはSEEDシステムを活用した夏祭り。実際に稼いでみせることでSEEDシステムの有用性を実証するのだ!
真性オタク男の金子雄二をイベント担当として新部員に迎えたところ、『男は邪魔だ!』との理由で耕一はメイドさんとして接客係を担当する羽目に。実家の危機を救うべく決死の覚悟で挑む耕一だが、そうたやすく男の娘になれるはずもなく悪戦苦闘。劇団の娘鈴沢鈴果を講師役として迎えることでどうにか様になっていく。
人手不足から夏祭りの準備は難航し、開催も危ぶまれる。そのとき、耕一たちの必死の姿に心を動かされた地元の仲間や同級生たちが駆けつける。みんなの協力の下、夏祭りは無事、開催される。祭りは大盛況のうちに終り、耕一は晴れて田んぼの跡継ぎとして認められる。
――SEEDシステムがおれの人生を救ってくれた。
そのことを実感する耕一。だったら、
――おれと同じように希望を失っている世界中の人たちだって救えるはずだ!
その思いを胸に耕一は『世界を救う』夢を見るのだった。
※『ノベリズム』から移転(旧題·SEED部が世界を救う!(by 森崎陽芽) 馬鹿なことをと思っていたけどやれる気になってきた(by 藤岡耕一))。
毎日更新。7月中に完結。
シン・おてんばプロレスの女神たち ~衝撃のO1クライマックス開幕~
ちひろ
青春
おてんばプロレスにゆかりのOGらが大集結。謎の覆面レスラーも加わって、宇宙で一番強い女を決めるべく、天下分け目の一戦が始まった。青春派プロレスノベル『おてんばプロレスの女神たち』の決定版。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
夏風
歩夢
青春
私はどんな場所よりも、空の中に抱かれていることの方が好きだった。
空は、私の全てを肯定してくれていた。
私は、この世界の事が好きではない。ただ、嫌いでもないのだ。ただただ、合わないというだけ。私と私の今いる世界とは、出会うべきではなかった、ただそれだけなのだ。
あれ程美しかった空も、今は重たい雲に覆われて、太陽の姿も見えない。街は水没し、私のいる電波塔のすぐ側まで、水位は昇ってきている。
私は何のために、今更になって、こんな事を書いているのだろう。一体、誰の為に。
窓の外の、豪雨の作る幾つもの細い線の先に、私が憎んでやまなかった雷の壁が揺らいで見えている。
私は書くのをやめた。
・・世界が終わる雨の日に 花澤カレン
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる