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🌕最終夜 僕と私の後悔
こんな、誰かが仕組んだみたいなこと
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*
魔力を与えられてから三月になるまでの間は、言われた通り、家事や勉強の合間に、渡された本をじっくり数ページずつ読み込んでいった。
いかにも魔女の持ち物らしい体裁をしたそれには、本当に様々なことが書かれていた。
マダムからも教わった、花魔女の使命と仕事について。
光玉と闇玉の違い――悪霊の種になる闇玉は、懐中時計を用いて回収し、浄化して光玉に変化させたのち、解放すること。逆に、幸せの根源である光玉は、いかなる理由があっても回収してはならないこと。
闇玉の回収や、その他不測の事態に備え、任務にあたる際は基本、二人一組での行動が推奨されていること。
後半には上級編として、他者との契約方法や、隠れ身マントの作り方なども記されていた。
そして、いよいよ最後のページにたどり着いたある日。衝撃的なものを目にしてしまったのだ。
【成り代わりの黒魔法 成り代わり薬の作り方】
見出しの黒魔法という単語だけで、手を出してはいけないものだと分かる。それでも、読むのをやめられなかった。
――魔力を持つ者は、以下の方法により、自分以外の人間に成り代わることができる。
【必須条件】
対象者死亡
【必要品】
対象者の血液
対象者死亡時の年齢と同数以上の純正光玉
純正光玉とは、闇玉から浄化したものでない光玉のことを指したはず。
――採取した対象者の血液中に純正光玉を投入すると、溶液が薄桃色に変化する。必要数分の純正光玉を混ぜ合わせ、薄桃色がさらに光沢のある白色へと変わったら調合完了。飲用、または全身に振りかけて使用する。
こんな、こんなことってあるだろうか。
気づけば、首にかけている小瓶を、襟の上から強く握りしめていた。
ただの戒めのつもりで持っていたのに、こんな、誰かが仕組んだみたいなこと。
研ぎ澄まされた感覚は、あの日、唐突に死を決意した瞬間とよく似ていた。
家族の愛は身にしみた。だけど、胸の奥の痛みが、犯した過ちが消えたわけじゃない。
何度も何度も考えた。
あのとき、せめてスマホを持っていれば。彼の手を振り払わなければ。そもそも、死のうとなんてしなければ。
その後悔だけは、どうしても薄れなくて。むしろ、考えれば考えるほど、色濃くなるばかりで。
――なお、変化があるのは外見や身体構造のみで、精神には影響しない。飲用のほうがより厳密に対象者を複製できるが、体が適応しきれず死亡するリスクが振りかけ使用の倍になる。
構わない。どうせ一度は捨てようとした命だ。それに今回は、死ぬかもしれないというだけで、死のうとしているんじゃない。
私は、あの子になって家族のもとへ帰ろう。「私」が壊した幸せを、「僕」が取り戻す。
ママが命を削ってお父さんと一緒になったように、たとえ悪事に手を染めて、この人生を賭けてでも。
そう決心した翌日。生まれてこの方、整える程度にしか切ったことがなかった髪をばっさり短くし、一人称も意識して「僕」に変えた。アユになったとき、違和感がないように。
秋の風が吹く夜の中で、僕はひとつ深く息を吐いた。
手の中には、くすんだ懐中時計。
「今日は収穫ナシ、か……」
四月の初めに晴れて本格的な活動を許された僕は、この半年足らずの間ずっと、誰ともペアを組むことなくテリトリーをパトロールしていた。
成り代わり計画を、他の魔女に悟られるわけにはいかない。
そう思い、見習い期間が終わるタイミングで、マダムにダメ元で「人と関わるのは苦手だし、単独で行動したい」とお願いしてみたら、案外簡単にOKが出たのだ。
ペアを組んでの行動はあくまで推奨事項だし、わたげ荘には僕ら三人の魔女しかいなかったこともあるのだろう。
それでも、所属人数が奇数の場合はわざわざ他のタイプやクラスをまたいでまでペアを作ることもめずらしくないようで、嫌々ハル兄と組まされているショウ兄には、「元魔女の血が流れてるからって、お前ばっかいい思いしやがって。いけ好かねぇ」と露骨に渋い顔をされたが。
今夜はたった今、悪霊のたまごの処理を終えたところだった。案件が不幸に終わると、たいていの亡者は悪霊化し始める。子供相手だったからどうにかなったけれど、たしかにこういうときは相棒がいてくれたほうがスムーズだし、魔力の消費が少なくて助かりそうだ。
今回の依頼者は、長い闘病生活の末、先月に九歳という若さで亡くなった女の子。
シングルマザーだった母親が次第に見舞いに来なくなり、ついには死に目にも顔を見せなかったので、最後の最後に会いたい、と。
話を聞いたときから、なんだか嫌な感じがするなとは思っていた。そしてその予感は、見事に的中することになる。
家に着いたら寿命を譲り渡すと約束して、女の子に連れられて実家まで行ってみたところ、酒に酔った母親が若い男と腕を組んで中へ入っていったのだ。
女の子は絶望した。
――ねぇ、どうしてママが知らない男の人と一緒にいるの? わたしのこと、忘れちゃったの?
九歳。大人には程遠いが、まっさらな子供でもない。僕がお父さんと理佳子さんの関係について気づき始めたのも、そのくらいの年齢だった気がする。
泣き喚いて闇玉に支配されていく女の子にそんなことを思いながら、すぐさま淡々と処理を進めていった。寿命を譲る前でよかったと思う。
かける言葉なんてなかった。
娘のことなど、もうどうでもよかったのか。悲しみのあまり、目を背けてしまったのか。あるいは、もっと別の理由か。あの母親が何を考えていたのか、本当のところは分からない。
いずれにせよ、詳しい事情を知らない僕が何か言ったところで、それは安いなぐさめにすらならないから。
どうしてかな。少し前の僕なら、あの子に同情していてもおかしくないのに。
僕はいつの間に、こんなに冷たい人間になってしまったのだろう。
懐中時計を腰に戻し、代わりに襟から小瓶を取り出す。
見習い期間中はおとなしくサポート役に徹していたけれど、ひとりになれば自由の身だ。
本の最終ページに書かれていた内容は、どういうわけか翌日にはきれいさっぱりなくなっていたけれど、初めて光玉を回収した日――瓶の中の毒々しい血が優しいピンク色に変わったのを見て、事実だと確信した。
意外だったのは、光玉より、闇玉を残していく亡者がはるかに多いこと。人は、今際の際の際でもなお、幸せになれない確率のほうが高いらしい。
兄貴たちの言いつけで、任せてもらえた曜日が少ないせいもあり、計画は順調とは言い難かった。
僕の記憶が正しければ、これまで集めた光玉は七つ。およそ一ヶ月に一個のペースだ。アユが亡くなった年齢は十一歳なので、あと四つ以上必要ということになる。
まぁ、焦ったってしかたがない。このぶんなら、タイムリミットである二十歳までには間に合うはず。
今日はもう疲れたし、そろそろ帰ろう。
小瓶を胸にしまい、用心深くフードを目深にかぶって、わたげ荘へ向かっている途中、
「ちょっと、聞いた?」
道端で噂話をしている、中年女性の亡者ふたりとすれ違った。
亡者の中には、ある程度開き直って、第二の自分を謳歌している者もいる。
未練を抱えながらも、気の合う者同士でコミュニティを作り、お喋りしたり、散歩したり。その姿は、一般的な人間となんら変わりない。
実際、そんな日々を過ごすうち、未練ごと受け入れて自然と成仏することもあるようだ。それも、「死」というものに対するひとつの向き合い方かもしれない。
なんて穏やかな気持ちでいられたのも、
「最近、光玉を回収してる魔女がいるらしくって」
信じがたい一言が届いた、その瞬間までだった。心臓がいやに跳ねる。
思わず、少し離れたところで足を止め、耳をそば立てた。
「えっ、でもあれってたしか、集めちゃいけないものなんでしょ?」
「そう聞くわよね。何をしようとしてるのか分からないけど」
噂好きな亡者は、どこから仕入れてくるのか、やたらと魔女の事情に精通していたりする。そんなところも、生きている人間と同じだ。
「やだやだ。怖い魔女もいるものねぇ」
「ほんとにね」
亡者たちは、あれこれ言い合いながら去っていった。
なんで、どうしてこんな噂が立っているんだ? まさか回収している場面を見られた? だとしたらいつどこで?
思えば、兄貴たちとは担当する曜日が違ってテリトリーも若干ずれているし、他のクラスの魔女とはもっとかけ離れている。だから鉢合わせるわけがないと油断して、依頼者以外の亡者にはそれほど目を光らせていなかった。
どうしよう。今の亡者たちは詳細までは知らないようだったけれど、もしも、黒魔法に手を出していることが広まったら……
前言撤回。あまり悠長にしている暇はなさそうだ。
ひとりでいたら、なおのこと目立つだろうが、他の魔女に助けを求めるわけにもいかない。
――そうだ。
四月に魔女として本格始動したのと同時期に学校生活も再開し、秘密の森から通いやすいよう、野花の姓を名乗って隣町の高校に転校した。もちろん家族の許可は得ている。
見た目をがらりと変えて、「僕」なんて言っているせいか、単に知名度の問題か、モデルのニアだと気づかれることはなかった。
校内では極力、人と関わらないように過ごしていた。友だちなんか作ったって、そのうち僕は僕じゃなくなるから。
すると、雰囲気がミステリアスだと騒がれ始め、あることないこと囁かれるようになった。
大人に負けず劣らず噂好きな彼らなら、魔女に関する都市伝説的なものを流せば、数人くらい飛びついてくれないだろうか。
何も告げず計画に引き入れたところで、気休めのカモフラージュ程度にしかならないかもしれないけれど。
とにかく、協力者が必要だ。
魔力を与えられてから三月になるまでの間は、言われた通り、家事や勉強の合間に、渡された本をじっくり数ページずつ読み込んでいった。
いかにも魔女の持ち物らしい体裁をしたそれには、本当に様々なことが書かれていた。
マダムからも教わった、花魔女の使命と仕事について。
光玉と闇玉の違い――悪霊の種になる闇玉は、懐中時計を用いて回収し、浄化して光玉に変化させたのち、解放すること。逆に、幸せの根源である光玉は、いかなる理由があっても回収してはならないこと。
闇玉の回収や、その他不測の事態に備え、任務にあたる際は基本、二人一組での行動が推奨されていること。
後半には上級編として、他者との契約方法や、隠れ身マントの作り方なども記されていた。
そして、いよいよ最後のページにたどり着いたある日。衝撃的なものを目にしてしまったのだ。
【成り代わりの黒魔法 成り代わり薬の作り方】
見出しの黒魔法という単語だけで、手を出してはいけないものだと分かる。それでも、読むのをやめられなかった。
――魔力を持つ者は、以下の方法により、自分以外の人間に成り代わることができる。
【必須条件】
対象者死亡
【必要品】
対象者の血液
対象者死亡時の年齢と同数以上の純正光玉
純正光玉とは、闇玉から浄化したものでない光玉のことを指したはず。
――採取した対象者の血液中に純正光玉を投入すると、溶液が薄桃色に変化する。必要数分の純正光玉を混ぜ合わせ、薄桃色がさらに光沢のある白色へと変わったら調合完了。飲用、または全身に振りかけて使用する。
こんな、こんなことってあるだろうか。
気づけば、首にかけている小瓶を、襟の上から強く握りしめていた。
ただの戒めのつもりで持っていたのに、こんな、誰かが仕組んだみたいなこと。
研ぎ澄まされた感覚は、あの日、唐突に死を決意した瞬間とよく似ていた。
家族の愛は身にしみた。だけど、胸の奥の痛みが、犯した過ちが消えたわけじゃない。
何度も何度も考えた。
あのとき、せめてスマホを持っていれば。彼の手を振り払わなければ。そもそも、死のうとなんてしなければ。
その後悔だけは、どうしても薄れなくて。むしろ、考えれば考えるほど、色濃くなるばかりで。
――なお、変化があるのは外見や身体構造のみで、精神には影響しない。飲用のほうがより厳密に対象者を複製できるが、体が適応しきれず死亡するリスクが振りかけ使用の倍になる。
構わない。どうせ一度は捨てようとした命だ。それに今回は、死ぬかもしれないというだけで、死のうとしているんじゃない。
私は、あの子になって家族のもとへ帰ろう。「私」が壊した幸せを、「僕」が取り戻す。
ママが命を削ってお父さんと一緒になったように、たとえ悪事に手を染めて、この人生を賭けてでも。
そう決心した翌日。生まれてこの方、整える程度にしか切ったことがなかった髪をばっさり短くし、一人称も意識して「僕」に変えた。アユになったとき、違和感がないように。
秋の風が吹く夜の中で、僕はひとつ深く息を吐いた。
手の中には、くすんだ懐中時計。
「今日は収穫ナシ、か……」
四月の初めに晴れて本格的な活動を許された僕は、この半年足らずの間ずっと、誰ともペアを組むことなくテリトリーをパトロールしていた。
成り代わり計画を、他の魔女に悟られるわけにはいかない。
そう思い、見習い期間が終わるタイミングで、マダムにダメ元で「人と関わるのは苦手だし、単独で行動したい」とお願いしてみたら、案外簡単にOKが出たのだ。
ペアを組んでの行動はあくまで推奨事項だし、わたげ荘には僕ら三人の魔女しかいなかったこともあるのだろう。
それでも、所属人数が奇数の場合はわざわざ他のタイプやクラスをまたいでまでペアを作ることもめずらしくないようで、嫌々ハル兄と組まされているショウ兄には、「元魔女の血が流れてるからって、お前ばっかいい思いしやがって。いけ好かねぇ」と露骨に渋い顔をされたが。
今夜はたった今、悪霊のたまごの処理を終えたところだった。案件が不幸に終わると、たいていの亡者は悪霊化し始める。子供相手だったからどうにかなったけれど、たしかにこういうときは相棒がいてくれたほうがスムーズだし、魔力の消費が少なくて助かりそうだ。
今回の依頼者は、長い闘病生活の末、先月に九歳という若さで亡くなった女の子。
シングルマザーだった母親が次第に見舞いに来なくなり、ついには死に目にも顔を見せなかったので、最後の最後に会いたい、と。
話を聞いたときから、なんだか嫌な感じがするなとは思っていた。そしてその予感は、見事に的中することになる。
家に着いたら寿命を譲り渡すと約束して、女の子に連れられて実家まで行ってみたところ、酒に酔った母親が若い男と腕を組んで中へ入っていったのだ。
女の子は絶望した。
――ねぇ、どうしてママが知らない男の人と一緒にいるの? わたしのこと、忘れちゃったの?
九歳。大人には程遠いが、まっさらな子供でもない。僕がお父さんと理佳子さんの関係について気づき始めたのも、そのくらいの年齢だった気がする。
泣き喚いて闇玉に支配されていく女の子にそんなことを思いながら、すぐさま淡々と処理を進めていった。寿命を譲る前でよかったと思う。
かける言葉なんてなかった。
娘のことなど、もうどうでもよかったのか。悲しみのあまり、目を背けてしまったのか。あるいは、もっと別の理由か。あの母親が何を考えていたのか、本当のところは分からない。
いずれにせよ、詳しい事情を知らない僕が何か言ったところで、それは安いなぐさめにすらならないから。
どうしてかな。少し前の僕なら、あの子に同情していてもおかしくないのに。
僕はいつの間に、こんなに冷たい人間になってしまったのだろう。
懐中時計を腰に戻し、代わりに襟から小瓶を取り出す。
見習い期間中はおとなしくサポート役に徹していたけれど、ひとりになれば自由の身だ。
本の最終ページに書かれていた内容は、どういうわけか翌日にはきれいさっぱりなくなっていたけれど、初めて光玉を回収した日――瓶の中の毒々しい血が優しいピンク色に変わったのを見て、事実だと確信した。
意外だったのは、光玉より、闇玉を残していく亡者がはるかに多いこと。人は、今際の際の際でもなお、幸せになれない確率のほうが高いらしい。
兄貴たちの言いつけで、任せてもらえた曜日が少ないせいもあり、計画は順調とは言い難かった。
僕の記憶が正しければ、これまで集めた光玉は七つ。およそ一ヶ月に一個のペースだ。アユが亡くなった年齢は十一歳なので、あと四つ以上必要ということになる。
まぁ、焦ったってしかたがない。このぶんなら、タイムリミットである二十歳までには間に合うはず。
今日はもう疲れたし、そろそろ帰ろう。
小瓶を胸にしまい、用心深くフードを目深にかぶって、わたげ荘へ向かっている途中、
「ちょっと、聞いた?」
道端で噂話をしている、中年女性の亡者ふたりとすれ違った。
亡者の中には、ある程度開き直って、第二の自分を謳歌している者もいる。
未練を抱えながらも、気の合う者同士でコミュニティを作り、お喋りしたり、散歩したり。その姿は、一般的な人間となんら変わりない。
実際、そんな日々を過ごすうち、未練ごと受け入れて自然と成仏することもあるようだ。それも、「死」というものに対するひとつの向き合い方かもしれない。
なんて穏やかな気持ちでいられたのも、
「最近、光玉を回収してる魔女がいるらしくって」
信じがたい一言が届いた、その瞬間までだった。心臓がいやに跳ねる。
思わず、少し離れたところで足を止め、耳をそば立てた。
「えっ、でもあれってたしか、集めちゃいけないものなんでしょ?」
「そう聞くわよね。何をしようとしてるのか分からないけど」
噂好きな亡者は、どこから仕入れてくるのか、やたらと魔女の事情に精通していたりする。そんなところも、生きている人間と同じだ。
「やだやだ。怖い魔女もいるものねぇ」
「ほんとにね」
亡者たちは、あれこれ言い合いながら去っていった。
なんで、どうしてこんな噂が立っているんだ? まさか回収している場面を見られた? だとしたらいつどこで?
思えば、兄貴たちとは担当する曜日が違ってテリトリーも若干ずれているし、他のクラスの魔女とはもっとかけ離れている。だから鉢合わせるわけがないと油断して、依頼者以外の亡者にはそれほど目を光らせていなかった。
どうしよう。今の亡者たちは詳細までは知らないようだったけれど、もしも、黒魔法に手を出していることが広まったら……
前言撤回。あまり悠長にしている暇はなさそうだ。
ひとりでいたら、なおのこと目立つだろうが、他の魔女に助けを求めるわけにもいかない。
――そうだ。
四月に魔女として本格始動したのと同時期に学校生活も再開し、秘密の森から通いやすいよう、野花の姓を名乗って隣町の高校に転校した。もちろん家族の許可は得ている。
見た目をがらりと変えて、「僕」なんて言っているせいか、単に知名度の問題か、モデルのニアだと気づかれることはなかった。
校内では極力、人と関わらないように過ごしていた。友だちなんか作ったって、そのうち僕は僕じゃなくなるから。
すると、雰囲気がミステリアスだと騒がれ始め、あることないこと囁かれるようになった。
大人に負けず劣らず噂好きな彼らなら、魔女に関する都市伝説的なものを流せば、数人くらい飛びついてくれないだろうか。
何も告げず計画に引き入れたところで、気休めのカモフラージュ程度にしかならないかもしれないけれど。
とにかく、協力者が必要だ。
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