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🌈2nd time 開花予報、のち
一夜明けて
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眩しさに目を開けると、今いる場所がどこなのか、しばらく分からなかった。
やたら大きく見える二段ベッド。ふたつ並べられた勉強机。青と白を主体とした色調の、落ち着きある部屋。
「ここ……」
そうか。
大和と栞奈の部屋だ。もうずいぶん長いこと足を踏み入れていなかった、相馬家の子供部屋だ。
ということは……
半信半疑で視線を横に移すと、すぐ隣で、同じ布団の中で、大和が眠っていた。
少し驚くのと同時に、そうか、とあることが腑に落ちる。
昨夜、朦朧とする意識の中で、咳き込むたびに背中をさすってくれるぬくもりを感じていた。きっと、彼だったのだろう。
あらためてそのあたたかさを思い出してみる。それは、昨日の夕方、飽きもせず手を握り続けてくれたそれと、捲し立てて咳き込んだときに背中を撫でてくれたそれと、ぴったり重なるようだった。
ということはつまり――今の状況が意味する事実に気づいたとたん、恥ずかしさとともに愛しさがあふれだす。結乃はたまらず、彼の胸のあたりに自分の額をこつんとくっつけた。
「ん……」
すると、彼が小さな声を漏らし、体をよじらせる。起こしてしまったらしい。
おもむろに開かれた切れ長の目は、いつもより少しあどけなく、まるで子犬のようだ。
「おはよー……結乃」
まだ眠気の残る声で朝の挨拶をした彼は、ふいに結乃を引き寄せ、まぶたを閉じた。そして、唇――ではなく、互いの額をそっと重ね合わせる。すっかりぬるくなった冷却シートは、いつの間にかはがれ、布団の上に落ちていた。
「仕返し」
そう言って、口もとにいたずらな笑みを浮かべ、「熱、下がったみたいだね」と目を細める彼。
気づいていたのか。何だかちょっと悔しい。
「栞奈ちゃん、来てくれたね」
ならばこっちも驚かせてやる、と前触れなく振ってみる。
大和は一瞬目を丸くしたが、すぐに、
「よかった。夢じゃなかったみたいで」
と微笑んだ。その瞳の奥は、少し切なげに濡れている。
結乃を、声も出せないほどの苦しみから解放してくれたのは、間違いなく栞奈だった。ふいに感じた冷たさに薄目を開けたとき、見えたのだ。
全身に優しげな青白い光をたずさえた、彼女が。もう二度と会えないはずの、彼女が。
そのとき、結乃はふと自分が犯した失態に気づいた。
しまった、と思いながら、隣の彼に心配の視線を送ると、彼も察したように笑みを深める。
「大丈夫だよ。なんか、そんな気がする」
そう、優しくも強い眼差しで返してくれた。
じわりと、感動とも、驚きとも、切なさともつかない感情が湧き上がってくる。そのとき、突然カメラのシャッターを切る音がした。
大和とふたりそろって、音のしたほうに目をやる。そこには、知らぬ間にベッドの下段に座り込んで、こちらにスマホを向けている志歩の姿があった。
「え、今なに撮ったの?」
恐れるように尋ねた大和に、彼女はわざとらしい笑みを浮かべた。
「べっつに~? 決定的瞬間を写真に収めただけよ。横からだからちょっと分かりづらいけど」
こういう一面を見ると、お姉ちゃん、最近、慶太くんに似てきたよなぁ……なんて思う。 ――違う。そんなことはどうでもいいのだ。
今、何と言った? 写真に収めただと? この光景を? 寄り添い合った姿を!?
自分たちの身に起きたことを理解したふたりは、同時に布団から飛び起きて、なぜか並んで正座した。
再び発熱してしまったかと思うほど、頬が急激に熱を帯びていく。
呆気に取られたのか、じーっと志歩に視線を注ぎ続けている彼も、きっと似たような気恥ずかしさに苛まれていることだろう。
「起きてるのに、いつまでも布団の中でいちゃいちゃしてるからだよーだ!」
いじけた子供のような口調で、いーっと歯を剥き出しにした志歩に対し、
「「してないっ!」」
大和と声をそろえて反撃する。言葉もタイミングも、あまりにぴったりだったから、思わずふたりで顔を見合わせた。
その様子に、また志歩の嫉妬心にあふれた視線が突き刺さる。
「私が上の段からおりてくるのも気づかなかったくせに」
痛いところをつかれ、一瞬ひるんだふたりだったが、
「っていうかそれ僕のスマホだし! 人のものを勝手にっ!」
すぐさま大和が強い口調で迫った。
すると、志歩は拗ねたように、「いいもんね」と呟き、視線を落として何やらスマホをいじり始める。
「そんなこと言うんだったら、今撮った写真、慶太に送っちゃうんだから。パスワード教えなさい」
「ちょ、いい加減に……」
堪忍袋の緒が切れたのか、ついに飛びかかっていく大和。
志歩はそれを軽々とかわし、
「いいじゃなーい。やましいことなんて、なーんにもないんでしょ?」
とベッドの上でトランポリンでもするように跳ねながら、嫌みたらしくそんなことを言う。
あぁ……何だか本当に似てきた。この頃、慶太と一緒にいすぎなのでは。
「ああもう! 返せって!」
必死にスマホを取り返そうとする大和。
「パスワード教えてくれたら返してあげるー」
まったく悪びれず、彼の神経を逆撫でして楽しんでいる志歩。
呆れ顔でその様子を眺めていた結乃だったが、一向に終わる気配のないふたりの幼稚なやり取りに、じわじわと笑いが込みあげてきた。
突然辺りを包んだ結乃の笑い声に、ふたりは驚いて動きを止める。そのうち、つられるようにして志歩が笑いだし、大和も笑いだす。
三人の楽しげな声が、重なって大きく響いた。
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