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リアルPv

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 情報があるとすれば獣人族のようなものだということ。
 獅子の獣人で注意することまずはバインドハウル、バインドハウルの範囲=相手の間合いなのでコンマ5秒でも足止めされてはいけない。
 次に獅子の獣人のテンプレ的な職業の職業別注意。専用職「獣戦士」の場合は単純に力の上乗せだがバインドハウルの範囲が広がるので間合いが大事。「狂戦士」ならば「バーサクモード」の発動時間、切れてからリキャスト可能時間まで時間管理。「武術家」なら瞬間的に間合いを詰めてくる「瞬動」、あとネコ科の獣人は虎砲拳の範囲が伸びる。
 以上のことからキャスターが獅子の獣人に遭遇した場合の対処方法として、遠距離キープを心がける。詠唱のない魔法を使う。そもそも不利なので1対1にならない。
 これが「オルファナオンライン」で攻城戦での基本だ。
 だがこの世界はゲームじゃない。ならばもっと簡単な対策がある。

 僕が投げた真紅の槍はワ―ライオンの左の太ももに勢いよくぶつかるとそのまま液状になって消えた。
 ハンガンの大太刀で切れなかった皮膚だ、最初から刺さるとは思っていない。しかしダメージを与えることは出来たのだろうワ―ライオンは槍のぶつかった場所を抱えてその場でもがいている。
 その間に僕は詠唱する。大魔導士で賢者の職業をサブにつけた僕が詠唱を必要とするほど魔法はワ―ライオンが立ち上がる前に完成する。

「捕らえよ、ブラッディチェーン」

 直後、僕の前方に多くの魔法陣が展開され、その魔法陣の中心から真紅の鎖が音もなく伸びてワ―ライオンに向かう。
 ワ―ライオンはすぐさま立ち上がり鎖を避ける、しかし無数にある鎖はワ―ライオンを追い続ける。
 長さに限界のない鎖は鎖同士が交差し絡まろうと関係なくワ―ライオンへと伸び続ける。その挙動はワ―ライオンが僕に近づこうと隙をうかがう暇さえ与えない。
 ブラッディチェーンはヴァンパイアだけが使える固有スキル「血魔法」の中で後半に覚えることが出来る魔法。その効果は鎖で相手を拘束するという単純なものだが、無限に伸びる真紅の鎖は超大型のモンスターでさえ拘束でき、暴れられて砕かれても瞬時に再生可能な血の鎖だ。

 奇襲の形になる初手で足を狙い行動力を奪った上で、詠唱の必要な魔法を使う。ダメージに痛みが伴わなかった「オルファナオンライン」ではできない戦い方だ。
 そしてこの攻城戦では使用制限されていたブラッディチェーンで捕らえれば勝負はつく。
 逃げ惑うワ―ライオンを見ながら僕はそう考えていた。
 僕が森を背にしている以上ワ―ライオンは森に逃げれない。ワ―ライオンはレイドボスレベルとは言えないので街に向かっても討伐されるだろう。つまりもう勝ちは確定している。はずだった――

「ミィーちゃん! どこなの?」

 完全に想定外だった。さっきの子供を探しているのだろうか。魔力を感じることのできない完全な一般人では、戦闘音すらしないこの戦いに気付くことは難しい。
 僕は咄嗟に鎖の数本を声の主にワ―ライオンが向かわないように動かす。当然、僕の注意もそちらに向いて追う鎖が減ったとなれば――

 バインドハウル。レベル差によって時間は短縮されていくが最低でもコンマ5秒相手を威圧しその行動の全てを中断させる。
 ワ―ライオンは僕との距離を詰めて「ぐぎゃがががぎゃぎゃ」という悍ましい声を張り上げた。

 真紅の鎖は砕け、真っ赤な液体になって消えた。展開されていた無数の魔法陣も薄いガラスが割れるような音を立てて砕け散った。
 そして声に怯んだ僕がすぐに正気なって前を見ると、そこには大きく歪な手が鋭利な爪を立ててこちらに向かってきていた。爪のある獣の獣人が使える固有スキル「スラッシュネイル」、通称ひっかきだ。
 幸いとドレスには傷一つなかった、だが勢いよく後方に弾き飛ばされた僕は背後の木に思い切り叩きつけられる。

 戦闘による初めてのダメージ、HPの表示なんてないこの世界でどれほどのダメージを受けたのかはわからない。しかし僕の体感で答えるならめちゃくちゃ痛かった。すぐにでもその場に蹲って「痛い、痛い」と口にしながら悶え苦しんでしまいそうだった。でもそれはできない。そんなことしている暇はない。ワ―ライオンは標的をすぐに仕留められないと判断した僕から先ほどの声の主に変えたのが見えたのだから。そしてその声の主を助けるために、森の中から飛び出したよく知る混血の少年が見えたからだ。

 ビリオンの飛び出しは無駄に終わる。ワ―ライオンの方が圧倒的に早い上におそらくさきほどの声の主は抵抗もできずにすぐ終わる。
 しかし出てきてしまった以上はビリオンも標的になる。打たれ強いと言ってもあの1撃を耐えるのは不可能だ、となると防御スキルのないビリオンでは相手にもならない。

 飛びそうな意識を必死で掴みながら僕がそんなことを考えているとビリオンが突然叫びだす。
 バインドハウル。バインドハウルにはさっきの効果の他にもう一つ効果がある、それは硬直させる範囲外だとしても敵意を自分に向けるヘイト稼ぎの効果。
 ワ―ライオンはその場で振り返るとすぐにビリオンに向かって走り出してきた。
 それを確認してビリオンは僕の方に振り返った、恐怖から表情には血の気が全くない。でもその顔を無理やり笑顔を作りこちらに向けてくる。まるであとは頼んだと言わないばかりに。

 実に勝手なことだ。ここまでして僕に頼るくらいならさっさと逃げればよかったのに。ビリオンとワ―ライオンの距離は5秒もしないでなくなるだろう。それを割って助けることなど今の僕には不可能だ。だとしたらあとは頼んだというようなさっきのはまだ顔も見ていない誰かを探しに来たあの人物を頼むということだろうか。自分はいいからあの人をという自己犠牲なんだろうか。そういうのはもっと大人になってからにしてほしい、まだギリギリショタキャラでいけるような見た目でそんなことするのは十年はやい。本当に勝手なことだ。

 ビリオンとワ―ライオンの距離が完全に縮まる。完全に間合いの中に入ってしまったビリオンが死を覚悟して目を閉じる。しかしその時は訪れることはなかった。

乙女の純血覚醒アイテム残り少ないのに。ビリオン、街に入ったら驕りな」

 ビリオンがその声にゆっくりと目を開くと――
 顔色はいつにもまして青白く、真紅の瞳が妖しく光りを放つ、口からは普段見えない牙のような歯むき出しになり楽しそうに笑う僕と首を押さえてもがきながら浮遊しているワ―ライオン。
 ――そしてビリオンと僕の目が合うと怯える様にビリオンが震え出す。そして僕が乾いた唇を舌で潤そうとすると、色々と勘違いしたビリオンは股間を濡らして気を失った。
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