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1章「第一次大規模メンテナンス」

大忙しな【蒼穹】メンバー

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あっさりと迎撃を終えて、アステリスクに戻ってきた4人。

「やっぱりまだまだだな!」
「私にカウンターなんて意味ないわ」
「僕らを出し抜くにはもっと奇襲っぽくないと」
『まだ俺は死ぬつもりはない』

勿論、全員無傷である。残っていたルキとアリスも当然といった体で答える。

「だよな。でさー……」
「ルキが言いにくいならあたしから言うよ。あたしもそうなんだけど、こっち側陣営のギルドの人達がね、あたしたちの作ったものを貸してちょうだいって言ってきてるの」
「あー…成程」

カイとアリス、ユリィはギルドハウス近くに個別に店を持っている。そこで自らが作ったものを売っているのだが、まあなんというか、連日かなり賑わっている。

「貸すだけならよくないか?数を限った上で」
「ルキは【建築家】だからな。でもどうすっかなー」

暗にわかってねーなと言われたルキは微妙な表情になる。
実はカイの作る武器防具の一部は、ヒビキが刻印を刻んだり織り込んだりすることで強化してある。アリスが作るのは主にアクセサリー類で、実用性が高くデザインと効果の両面で特に女性プレイヤーに人気だった。

「僕はある程度までなら作るよ。大変だろうけど」
「あたしもアクセ作るの楽しいし、じゃああたしたちはこれからちょっとだけ別行動になるね」
「おう、わかった」
「こっちは任せといてね」
「まあ、心配はしてないわ」

そういってカイとアリスがそれぞれの拠点に転移していった後、ヒビキたちはテーブルを囲んでソファに各々腰掛ける。

『そういえばまだ、俺たちとあいつらが戦うことになった理由、話してなかったな』
「確かに聞いてなかった」
「……そうだわね」
「……」

3人が次を促すと、スコールは淡々と、手短に話し始めた。


『……………………こういう経緯だ』
「成程、とどのつまりは精霊族のトップにどっちが君臨するかの争いってことか」
「しかもそれぞれの長とその側近たちの仲が悪かった上、彼らが今回の事を起こしたってことね」
「面倒くさい話だな…既に精霊と契約してるプレイヤーがほとんどだから、プレイヤーも一緒に巻き込まれた形だろう。それをうまく調整して条件終了型にした訳か」
『俺と、あいつらの中にいる【血塗れた咎人】とは過去に大罪を犯したことを指す。俺とあいつは、過去に一度だけ共に犯した罪があるからな。他の精霊族には忌みられてるんだ』
「その「大罪」って何なの?」

一瞬、そこで黙り込むと、次には口を開いた。

『…………「神殺し」』
「「「!?」」」
「…マジかよ。ここで嘘なんてつくはずねぇし」
そういえば、思い当たる節はある。カヴンの街で読んだ古文書の中にこの世界でも有名な伝承があり、堕ちた神【堕神】の一柱【深海の踊り子】とある精霊たちが戦った話だ。最終的に精霊たちは【深海の踊り子】を殺し封印するのに成功したが、「神殺し」の罪と堕神の呪詛で永遠に死ねない罰を受けたのだと。
「……!?」
「本当…!?」
「てかお前、どんだけ生きてんだって話になるんだが」
『…………』

そもそも、と言えば、いくらこの世界がリアル極まりないと言ってもNPCだけは、今のところ対応範囲外の質問をされると「答えられない」趣旨の答えを返してくる。
なのにこの青年は普通の人間プレイヤーと変わりない受け答えができている。

「(まあいいけど。そんなこと関係ないし)……大体の経緯は分かった」
「(これ、かなりややこしそうだわね)…私も」
「(権力争いって…不毛なのになー)……」

3人ともそれぞれ感想は違ったが、バックストーリーの一部を聞くことができた。

それから暫く経った後、掲示板を開いていたルキが驚きの声を上げた。

「おい、これ見てくれ」

そういって見せてきたのは、血晶精霊族陣営所属のギルドメンバーしか開けない作戦掲示板である。

「んー?」
「なになに?SOS?」
「簡単に言えばそんな感じだな」
「どこが?」
「【ブルーロータス】。規模はぎりぎり中規模程度だけど何故か男女比が物凄く偏ってる戦闘系ギルドだよ」
「ああ、あそこかー…」

男女比が9:1から7:3程度だと言われるこのVRMMO【ザ・ファイナルリコード・オンライン】において、女性プレイヤーは珍しい。そして【ブルーロータス】というギルドは、かなり大多数のプレイヤーからハーレムギルドだと嫉妬半分からかい半分で揶揄されることが多かった。当の本人ギルマスは不本意そうだったが。

「どうやら、『輝きの水晶』が設置されてたから相手のほとんどが攻めてきたらしい」
「ははは、マジか」

ヒビキは面白そうに笑い、続けて言う。

「じゃ、誰が行く?」
「俺はここに残るぞ?」
「まあいいけど。カイとアリスいないからなー」
「敵はどの位なのかしらねぇ」
「俺たち3人で加勢するか?正直1人だけで十分だとは思ってるが、面白そうだからな!」
『それを撃退できれば決着はもうすぐか?』
「多分そうだろうな。デスぺナって結構手痛いし」

プレイヤーが死亡すると原則、最寄りのリスタート地点(主街区か村)に強制送還&一時間全ステータス低下のデスペナルティが付く。ただ、ギルド戦で死亡した場合はその2つに加え、極稀に自分の装備品がその場にドロップしてしまうことがある。その確率1%あるかないかで非常に低いのだが、もしそうなってしまえば手痛いどころの話ではない。

「じゃ、行くか」
「だわね」
『了解』

そして3人は、ギルドハウスの転移機能を使って掲示板に書かれていた座標付近へと転移する。


さて、転移してきた地点では、既にかなりの人数が集まっていた。
【ブルーロータス】のメンバーとギルドマスターの魔法剣士、グレイスは既に戦闘状態。敵は千人にも届こうかという勢いで、まさに戦争である。
激戦地域から少し離れた小高い丘の上に転移した3人は、辺りを見渡す。

「わぁ、すごいわね」
「だな」
『行くか?』
「「勿論」」

虚空から真紅の結晶体が現れ、形を成す。彼自身も闇・炎複合属性の双剣型覇双【ダークブレッドチェイサー】を取り出している。
ユリィは魔杖【花神ティアードロップ】を振って契約獣のラボラスとアールヴを呼び出し、ヒビキはメインウェポンではなく、神話級ミソロジークラス覇弓カテゴリ武器の白い弓【閃雨双撃弓】を持っている。
この弓はMPを消費して魔力の矢を生成するタイプの弓で、注ぎ込むMPの量で威力が変動する。

「まずは殲滅だぜ!」

弓の弦を引き、一本の矢を生成する。それを、空に向かって撃った。
その矢は天に向かって飛ぶ途中で幾つもの細い矢に分裂し、地へと落ちた。
ズドドドドドッ、と凄まじい轟音を立てて落ちる矢は、低レベルのプレイヤーやNPCのほとんどを巻き込んで刺し貫いて黒いガラスの様な死亡エフェクトへと容赦なく変えていく。

「ヒビキ!弓を使うのならアールヴに乗った方がいいと思うわ」

ユリィがアールヴを呼び寄せ、待機状態にさせる。

「助かる!」

白い大鷹であるアールヴに乗り、ヒビキは戦場が見渡せる上空へ。

「ラボラス!存分に暴れてきなさい!」

その指示でラボラスが嬉々とした様子で突っ込んでいく。さらにユリィはアールヴと対になる真っ黒な体色に星の輝きをちりばめたような魔属性の鳥型モンスター、ケイオスを呼び出した。

「ケイオス、貴方はこの人と一緒に戦うのよ」

スコールと一時的なパートナーを組ませ、彼の指示に従わせる命令を下す。

『行ってもいいか?』
「準備は出来たから、行ってもいいわよ」
『では』

スコールも戦場へと駆けていく。

「私も私で、出来ることはあるわね」

2人が戦場へ向かった後、ユリィは戦場全体を見渡す。
ヒビキの天剣雨撃によってある程度は数を減らしたものの、いまだにプレイヤーと聖花精霊族の人数は多い。
絶え間なく行われる回復魔法によって、ちょっとやそっとのダメージではすぐ全快してしまう。
それを考え、錬金術師なりの答えをはじき出す。

「うふふ。【アークバインド】」

―――光属性魔法スキル【アークバインド】。

杖から光の鎖が伸び、手近なプレイヤーを拘束する。元々【アークバインド】はバインド系の魔法スキルの中でも拘束力がかなり高い。

「暫くそこにいなさい」

ユリィは微かに笑みを浮かべ、そう言った。

―――――――――上空にて、アールヴに騎乗しているヒビキ。
弓を構え、1人1人を確実に射殺していっている。既に職業【マーセナリ―】を修めているので、限界突破したDEXと合わさり、その命中率は尋常ではない。

「ていうか、どうしたもんかなぁ。これじゃジリ貧だぜ」

弓術系戦技スキル【ガトリングショット】で何発も矢を放ちながら、ヒビキがぼやく。
しかし、ふと下に目を向けた瞬間、凄まじい質量の真っ赤な結晶が上空に生み出され、そして極寒の冷気が荒れ狂った。

「…成程」

ヒビキは口元に笑みを浮かべ、残りの残党を狙いにかかる。

―空を飛ぶ黒い大鷹、ケイオスと共に駆けていくスコール。
彼に気づいた敵が驚きの声を上げ、全方位から襲い掛かってくる。が。

『後ろ頼む』

ケイオスが彼の指示に頷いた次の瞬間。
彼の姿が、一陣の風が吹いたかと思うと全周囲の敵が倒れ、死亡エフェクトへと変わった。

―――剣術系戦技スキル【虚ろなる舞踏】。

双剣型武器を装備している時しか使えない、敏捷性を数瞬だけ激増させ、アクロバティックなまでの動きを可能にするスキルである。

『そちらも…大丈夫なようだな』

ケイオスの方も、見事に敵を蹴散らしていた。

『…キリがない、か』

ひとつ頷くと、今まで発動させていなかったもう一つの職業【概念の操者】の職業特性を発動させる。
―――――――――彼の深い青の両目が血を凍てつかせたような鮮烈な紅に変わり、奇妙な五芒星に似た模様が浮かび上がった。
その紅い眼からは、一切の感情が感じられない。
他人には聞き取れない音量で、高速で何かを唱える。
パキパキパキパキ…と連続して響く音は、凄まじい質量の紅い結晶が生み出される音。
上空の虚空から現れる弾丸の様に鋭い形をした紅い結晶の群と共に、極寒の冷気が辺りに荒れ狂う。

『…………』

敵だけが正確に凍てつき、敵を閉じ込めた氷の柱がいくつもできた。追うように落ちてきた幾つもの紅い結晶が、氷と、それに拘束されたプレイヤーたちに降り注ぐ。
いっそ畏怖すら覚えそうなその夥しい数の紅い結晶は豪雨の様に降ってくる。
ズガガガッ!!と地を穿つ勢いで降り続ける紅い雨は、十数秒ほどで止んだ。

『………終わった、か』

【概念の操者】の発動を解く。目の色も元に戻り、模様も消えた。
―後にいるのは、呆気にとられている味方プレイヤーたちと、上空から丁度降りてきた心底面白そうな様子のヒビキだった。


―――【ブルーロータス】のギルドハウス大襲撃から数日後。
アステリスクに集まったヒビキ、ルキ、ユリィの3人は、いささか疲れた様子でソファーに座り込んでいた。
その様子をスコールが若干不思議そうに見ている。

「あー疲れたわぁ」
「だなー」
「俺もある意味疲れた」
『……?』

あれから数日間、3人は掲示板のSOSに応じて傭兵よろしく大陸中を駆け回っていたのだ。
何しろ最強集団ゆえに、唯1人いるだけでもう戦局は確実にひっくり返る訳で。時々カイとアリスも状況報告代わりにチャットを飛ばしてくるが、連日大盛況らしく、そちらも疲れ果てた様子だった。

「なあなあ、ちょっとこれ」
「何かしら?」
『何だ?……!』
「へぇ」

掲示板をチェックしていたヒビキが見せてきたのは、こんな内容。


351:名も無き冒険者
俺らのギルドは、総出で相手の「輝きの水晶」を探してたんだが、遂に設置場所を見つけた!
「忘郷の詩」ってとこのギルドハウスだ。座標貼っておくぜ(5913,428)
そこを落とせば俺らの勝ちだ!手の空いてるやつは来てくれると助かる。


「見つけたみたいね」
「よくやるじゃん」
「今度は俺と、ヒビキと、スコールで行くか」
『…了解』
「OK。私は今回は留守番するわね」
「わかったぜ!」

―もうそろそろ、決着がつく時が来ていた。
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