とらぶるチョコレート

文月 青

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茂木編 カタツムリの恋

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俺の腕の中に捕らわれた奈央さんが、却下の嵐に途方に暮れている。夜食にサンドイッチを作ってきたから食べましょう、先日の喧嘩について話しませんか、じゃあせめてシャワーを浴びさせて。全ての要望を却下しているのは、はい俺です。

「あやめさんがにやにやしてたから、家でお風呂に入りづらかったんです。仕事の後なのでそこは譲歩して下さい」

「俺も仕事帰りです。同じですね」

「そんなお揃いいりません!」

じたばたしている奈央さんが面白い。

「じゃあ一緒に浴びましょう」

「却下!」

びっくり仰天した顔がおかしくて、俺は堪えきれずに吹き出した。

「揶揄ったんですね」

普段あまり取り乱さない人が、地団駄踏んで悔しがっている。その姿に暴走しかけた自分が少しだけ冷静になった。

「いえ本音ですけど」

でもやはり勢いのまま奈央さんを抱くわけにはいかない。ちゃんと彼女の気持ちが解れてから、ゆっくり体も解してあげたい。

「ここに来てくれただけで充分なので、とりあえず奈央さんの希望を優先しますね。して欲しいことを教えて下さい」

「して…?」

目を剝く奈央さん。ちょっと意地悪し過ぎたかな?

「すみません、今のは度が過ぎました」

苦笑しながら腕の力を緩めると、奈央さんはきっと俺を睨みあげた。

「いいでしょう、受けて立ちますよ」

がしっと俺の手首を掴む。待って下さい。一体何の闘いですか。

「シャワーでも何でも一緒に浴びてやろうじゃないですか」

「ちょ、奈央さん?」

「お風呂…あぁ、こっちですね」

そのまま呆気に取られる俺を引きずって、力強い足取りで浴室に向かってゆく。もしかして俺、変なスイッチを入れてしまったんだろうか。




「で、どうして真っ暗なんでしょう、奈央さん」

シャワーの水音が響く浴室で、隣にいるのに月明かりのおかげで辛うじて輪郭がつかめる程度の奈央さんに問う。

「だって、運動不足であちこちたるんでるんです。明るい所で見られたくない」

おそらく口を尖らせているのだろう。浴室に来たまではいいものの、結局恥ずかしかったらしい奈央さんは、一切の灯りをつけず、尚且つ服を脱ぐときも俺に回れ右をさせて、そそくさと脱衣場から逃げた。

視覚効果がないせいか、衣擦れの音がやけにはっきり聞こえ、俺としては妄想が膨らんで困っていたのだが、いざ浴室に入っても奈央さんは俺の気配から逃れるように、壁に張り付いてしまったので、お預け感が半端ない。

「ごめんなさい、奈央さん」

最初にマッハで湯に打たれていた奈央さんを、もう一度腕の中に収める。服越しではない奈央さんは、柔らかくてすべすべしていて心地よい。全くどこがたるんでるんだか。

「あの、茂木さん、下に…」

さっきから自己主張しっ放しの分身に、奈央さんが戸惑いを見せた。

「許して下さいね。さすがに隠すのは無理なので」

鼓動は早いけれど、嫌悪していない様子にひとまず安堵して、俺は奈央さんの体を洗い始めた。

「じ、自分でできますから!」

「逃げられると逆に刺激されて辛いんですが」

その一言で察したらしい。奈央さんの動きがぴたっと止まった。狭いので動くと却って密着度が上がるのだ。偶然の産物ではあるが、どさくさ紛れに事を進められる分怖さが半減して、奈央さんのためにはこの方が良かったのかもしれない。

「そうそう。じっとしていて下さいね」

「うー」

唸る奈央さんは小動物みたいだ。そして発見。実は結構敏感かも。首筋から滑り降りてゆく俺の手に、体がびくんびくんと跳ねている。嬉しいような、片岡の影が見えて面白くないような。ちょっとその辺りの記憶は塗り替えたい。

「!」

しかもさりげなく胸の尖りや、足の間の瑞々しい芽を掠めると、悩ましい吐息を漏らすのに、頑なに声は出さない。体だけではなく、奈央さんが俺を求めている証が欲しいのに。



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