相棒はかぶと虫

文月 青

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9月 2

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日中かぶと虫はあまり動かなかった。夜になるとかさかさ歩いてはいるけれど、祖父ちゃんが言っていたように、かごの中を飛び回ることは一度もなかった。

仏間から自分の部屋にかぶと虫を移した後、俺はとりあえず自分が持っていた微々たるお金(過去のお小遣いの使わなかった分)で、餌とマットだけでも買おうとした。

ところが祖父ちゃんに、

「盆の小遣いをやっていなかったな」

二年ぶりにお小遣いを貰ってしまい、根性のない俺はそれをありがたく頂いて、大きめの飼育かごと転倒防止用の木まで頼んでしまった。

買いに行く根性ももちろんないので、ネット様にお任せ。受け取りだけは頑張ろうと、指定した配達時間間際に玄関で待機していたら、通りかかった祖父ちゃんが吹き出した。

「この暑いのに。デストロイヤーかと思ったぞ」

ちなみに俺は中学時代のスキー教室で使った、いわゆる黒い目出し帽を着用中。汗のせいで顔が痒くて困っている。

「お前の変装道具も一緒に買えばよかったんじゃないのか?」

祖父ちゃんは酒屋のタオルで目頭を押さえながら、お腹を抱えて笑っている。俺は帽子の内側で口を尖らせた。だからその変装道具を頼んだとしても、届くのはこれからなんだよ。最初は手持ちでどうにかするしかないじゃん。しかもデストロイヤーって何? 人なの?

まぁ確かに、ちょうど祖父ちゃんと話しているときに訪れた宅配業者さんは、かなりぎょっとしていたけれど。

でも祖父ちゃんにかなり助けられて、かぶと虫は俺の目の前で寛いでいる。と思う。たぶん。

いろいろ調べてみて驚いたのだが、かぶと虫の成虫は冬眠どころか、夏のほんの短い期間しか生きられない。外敵もなく、適温で過ごしても、越冬するのは稀でかなり奇跡に近いらしい。夏の虫だとは分かっていたけれど、もう少し長生きするものだと思っていた。

祖父ちゃんがあの日言いかけたのは、このことなのかもしれない。現在九月下旬。まだまだ暑さは変わらないし、かぶと虫もさほど弱っているようには見えないけれど、もしかしたら別れは迫っている。

「かぶと」

我知らずそう呼んでしまうのは、待ち人が一向に姿を見せてくれないから。かぶとも待っていると言っていたのだから、俺が冬眠から覚めないと会えないのかもしれないけれど。

いつでも入って来られるように、つっかえ棒だって外したのに。もう俺のことなんて忘れてしまったのかな。


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