七つの家

小鳥遊郁

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  幽霊が本当に存在しているとは考えていない。
  でもこの世のものではないものが存在しているのかも知れないとは思うことがある。
  矛盾していると自分でも思うけど、これは理屈ではない。
  この『七つの家』は昔から不気味だった。わたしたちの住んでいる町は娯楽が何もない小さな町だ。そんな小さな町の『七つの家』がテレビのホラー番組で紹介されて、アイドルが一晩そこに泊まったとき、ものすごい騒ぎになった。
  もちろん『七つの家』は昔から有名だったけど、全国放送されるほどとは思っていなかった。その後はみんなが『七つの家』を探検するようになった。
  誰も『七つの家』の幽霊話を本当は信じていなかったと思う。ただアイドルが来たことで盛り上がってしまっただけだ。わたしたちがその日、『七つの家』に探検に行ったのは、暗くなっていなかったし、他にすることがなかったからで大した理由はなかった。
  『七つの家』に行くときは確かに六人だった。わたしは今でも覚えている。
   でもあのとき、確かに七人いたのだ。そしてそのことに誰も触れなかった。まるで誰かに話してはいけないと言われているかのように誰も話さなかった。
  あれから仲が良かった六人はばらばらになった。どうして話さなくなったのかは覚えていない。一人引っ越して、二人引っ越して、段々とこの町からいなくなった。あの六人の中でまだこの町に住んでいるのはわたしと大樹だけだ。だから彼がこの家を買ったと聞いて驚いた。

  彼は本当に覚えていないのだろうか?
  あの時のことを忘れてしまったの?

  でも聞くことができない。聞きたいと思っているのに、聞いた途端に大樹がいなくなってしまう気がして聞くことができないでいる。

  カナカナカナ。

  外からひぐらしの鳴く声が聞こえてくる。もうとっくに日が暮れて、真夜中なのに……変なの。
  このひぐらしの鳴く声を聞くと思い出す。あの日のことを。

  夏の終わりの夕方だった。誰かが

「モウモウどきだ」

と言った。『モウモウどき』とは話もこの辺りでよく聞く言葉だ。墓参りをこの『モウモウどき』にすると、幽霊に出会ってしまうらしい。でもこの言葉はこの町でしか通用しない。他所では『黄昏どき』と言うそうだ。
  『モウモウどき』に肝試し。そんな気分だった。ただの遊びの延長だ。
  でも私たちは時間を選び間違えたのか、草に覆われた道を進んで行くうちに夏なのに寒いと感じていた。

「なあ、寒くないか?」

「日が暮れてくるからだろ」

  それでも誰も帰ろうとは言わなかった。自分だけが怖がっていると思われたくなかった。夜じゃないから大丈夫。それにあのアイドルだって平気だったじゃない。だから何もない。
  みんなそんな風に思っていたのだろう。

  どうして入り口で自転車から降りて歩くことにしたのかは覚えていない。でも私たちは結構な距離を歩いていた。この道の先に『七つの家』がある。もっと近いと思っていたのに、思っていたよりかずっと遠かった。

「あ、あった。あれだな」

「なんだ、あんまり大したことないね」

  家が見えるようになるとホッとした。遠くから見る『七つの家』はテレビで見た時より、おどろおどろしくなかった。あれはやっぱり演出とか言う奴だったのかなと思った。
  でもそんな風に思っていたのも初めのうちだけだった。
  『モウモウどき』と言うだけあって、日が暮れるのはあっという間だった。そのあっという間にそれは起こった。
   わたし達の人数が明らかに増えていた。でも誰が増えているのかわからない。だってみんな知っている人だから。でも…?  増えてるよね?
  みんな顔を合わせて首を傾げる。おかしいけどみんな知ってる人だからいいのかなって気になる。

…カナカナカナ。

  そのあとのことは覚えていない。何かして遊んだような気もするし、そのまま帰ったような気もする。
  ただひぐらしの鳴く声だけはしっかりと覚えている。

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