2 / 4
2
しおりを挟むオレ、魚住大樹が一大決心をして家を購入したのには訳がある。オレとミーナは幼馴染だ。そしてこれが一番重要だが恋人同士ではない。こんなに長い間一緒にいるのになぜか恋人にしたいと思ったことがなかった。ミーナの方もオレを男だと思っていないようで一つの部屋に二人で泊まることがあっても妙な空気にさえなったことがない。
それがどうしたと思うかもしれないが、このままではいけないと何故か思ってしまったのだ。そこでこの格安の家の購入を決めた。もちろんこの家がヤバイ事は小さい頃から聞かされていた。
でも本当にヤバイのだろうか? 木がボウボウで草もボウボウだから暗くて、お化け屋敷のように感じただけではないのか。小さい頃に探検したときも何も起こらなかった。テレビで取り上げられて、アイドルが一晩ここに止まったけど何もなかったではないか。オレはミーナとの仕事場が欲しかった。仕事場ができれば楽になる。今までみたいに夜中にファミレスで作業をして嫌がられる事もない。
リフォームされた家の中を見て、これを買わなかったら男じゃないとまで思って判を押した。
でもやっぱりと言うか、ミーナには呆れられてしまった。でもこの家を買うぐらいの甲斐性しかまかったのだから仕方がない。本当は現金で買ったけどローンで買ったとミーナには言った。その方が折れてくれると思ったのだ。案の定、彼女はそれなら稼がないといけないと思ったようだ。
オレとユーナは同人誌で生計を立てている。時々は商業誌でも書かせてもらってるけど、ほとんどは同人誌で稼いでいる。オレの方はそれだけの収入では心もとないので週に三回バイトも入れている。実家暮らしのミーナはバイトはしていない。漫画を描くのは時間がかかるから無理らしい。オレは小説の方と原案だけだから、確かに漫画を描くよりは時間に余裕がある。
「えー! 今夜バイトがあるの?」
コンビニのバイトがあるのでそれを言うとミーナが叫んだ。いつもと同じ曜日なんだし、知ってるはずなのに騒がないでほしい。
「いつものことだろ。それにオレの方は終わってるし、あとはミーナの仕事だろ」
「それはそうだけど、この家に夜は一人でいるのはちょっと…」
「昨日もその前もオレ一人でも大丈夫だったし、隣の家も近いから何かあったら隣にかけ込めばいいよ」
幽霊なんて眉唾だと思っているから、ミーナが怖がっているのが新鮮だった。ミーナだって幽霊なんて見たことないって言ってるのに何が怖いのだろう。
ああ、そうか。見たことがないから怖いのかもしれないな。
「まあ、でも広い部屋でゆっくり描けるのは良いよね。ところで屋根はいつ直すの?」
いつ落ちてくるか不安なのか天井を見ながらユーナが聞いてくる。リフォームされているので天井を見上げても外の屋根の状態はわからない。
「一応、今度の原稿があがってからってにしてくれって言ってる。屋根の修理は音がすごいらしいから、うるさくて作品に集中できないだろ」
家を売るときに中のリフォームと一緒に屋根を直すのが普通だと思うのに何故か俺が買った家だけ屋根が直されていなかった。本当は引っ越す前には修理されているはずだったのに、何かあったのか工事が遅れたと謝っていた。内心ではユーナに見せるのになんで直しとかないんだって言いたかったけど、何度も謝る姿に何も言えなかった。
「確かにうるさいだろうけど、早く修理した方がいいよ。屋根が落ちて押し潰されて死んだなんて話もあるしね」
「じゃあ、行ってくるよ。冷蔵庫にお茶もコーヒーもあるから」
アルバイト先はこの町に唯一あるコンビニだ。週に三日だけ深夜のアルバイトをしている。深夜は時給も高いし、仕事も楽だ。
近いけど車で行く。歩いた方が健康には良さそうだけど、まだ健康を考えるほど歳はとっていない。
車のエンジンをかけると隣の家の窓から誰かが見ているのに気付いた。誰だろう? 挨拶には行ったけど、家族全員を見たわけではないのでよくわからない。長い髪のようだから女の人かな。
わざわざ車を降りて挨拶するほどでもないだろう。オレはアルバイトの時間に間に合うように車を走らせた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
AI彼氏
柚木崎 史乃
ホラー
日々の疲れに癒しを求めていた七海は、ある時友人である美季から『AI彼氏』というアプリを勧められる。
美季が言うには、今流行りのAIとの疑似恋愛が体験できる女性向けのマッチングアプリらしい。
AI彼氏とは、チャットだけではなくいつでも好きな時に通話ができる。人工知能の優秀さは一線を画しており、そのうえ声まで生身の人間と変わらないため会話もごく自然だった。
七海はそのアプリでレンという名前のAI彼氏を作る。そして、次第に架空の恋人に夢中になっていった。
しかし、アプリにのめり込みすぎて生活に支障をきたしそうになったため、七海はやがてレンと距離を置くようになった。
そんなある日、ラインに『R』という人物が勝手に友達に追加されていた。その謎の人物の正体は、実は意思を持って動き出したAI彼氏・レンで──。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
滅・百合カップルになれないと脱出できない部屋に閉じ込められたお話
黒巻雷鳴
ホラー
目覚めるとそこは、扉や窓のない完全な密室だった。顔も名前も知らない五人の女性たちは、当然ながら混乱状態に陥り──
あの悪夢は、いまだ終わらずに幾度となく繰り返され続けていた。
『この部屋からの脱出方法はただひとつ。キミたちが恋人同士になること』
疑念と裏切り、崩壊と破滅。
この部屋に神の救いなど存在しない。
そして、きょうもまた、狂乱の宴が始まろうとしていたのだが……
『さあ、隣人を愛すのだ』
生死を賭けた心理戦のなかで、真実の愛は育まれてカップルが誕生するのだろうか?
※この物語は、「百合カップルになれないと脱出できない部屋に閉じ込められたお話」の続編です。無断転載禁止。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる