七つの家

小鳥遊郁

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  オレ、魚住大樹が一大決心をして家を購入したのには訳がある。オレとミーナは幼馴染だ。そしてこれが一番重要だが恋人同士ではない。こんなに長い間一緒にいるのになぜか恋人にしたいと思ったことがなかった。ミーナの方もオレを男だと思っていないようで一つの部屋に二人で泊まることがあっても妙な空気にさえなったことがない。
   それがどうしたと思うかもしれないが、このままではいけないと何故か思ってしまったのだ。そこでこの格安の家の購入を決めた。もちろんこの家がヤバイ事は小さい頃から聞かされていた。
   でも本当にヤバイのだろうか?  木がボウボウで草もボウボウだから暗くて、お化け屋敷のように感じただけではないのか。小さい頃に探検したときも何も起こらなかった。テレビで取り上げられて、アイドルが一晩ここに止まったけど何もなかったではないか。オレはミーナとの仕事場が欲しかった。仕事場ができれば楽になる。今までみたいに夜中にファミレスで作業をして嫌がられる事もない。
  リフォームされた家の中を見て、これを買わなかったら男じゃないとまで思って判を押した。
   でもやっぱりと言うか、ミーナには呆れられてしまった。でもこの家を買うぐらいの甲斐性しかまかったのだから仕方がない。本当は現金で買ったけどローンで買ったとミーナには言った。その方が折れてくれると思ったのだ。案の定、彼女はそれなら稼がないといけないと思ったようだ。

   オレとユーナは同人誌で生計を立てている。時々は商業誌でも書かせてもらってるけど、ほとんどは同人誌で稼いでいる。オレの方はそれだけの収入では心もとないので週に三回バイトも入れている。実家暮らしのミーナはバイトはしていない。漫画を描くのは時間がかかるから無理らしい。オレは小説の方と原案だけだから、確かに漫画を描くよりは時間に余裕がある。

「えー!  今夜バイトがあるの?」

  コンビニのバイトがあるのでそれを言うとミーナが叫んだ。いつもと同じ曜日なんだし、知ってるはずなのに騒がないでほしい。

「いつものことだろ。それにオレの方は終わってるし、あとはミーナの仕事だろ」

「それはそうだけど、この家に夜は一人でいるのはちょっと…」

「昨日もその前もオレ一人でも大丈夫だったし、隣の家も近いから何かあったら隣にかけ込めばいいよ」

   幽霊なんて眉唾だと思っているから、ミーナが怖がっているのが新鮮だった。ミーナだって幽霊なんて見たことないって言ってるのに何が怖いのだろう。
  ああ、そうか。見たことがないから怖いのかもしれないな。

「まあ、でも広い部屋でゆっくり描けるのは良いよね。ところで屋根はいつ直すの?」

  いつ落ちてくるか不安なのか天井を見ながらユーナが聞いてくる。リフォームされているので天井を見上げても外の屋根の状態はわからない。

「一応、今度の原稿があがってからってにしてくれって言ってる。屋根の修理は音がすごいらしいから、うるさくて作品に集中できないだろ」

  家を売るときに中のリフォームと一緒に屋根を直すのが普通だと思うのに何故か俺が買った家だけ屋根が直されていなかった。本当は引っ越す前には修理されているはずだったのに、何かあったのか工事が遅れたと謝っていた。内心ではユーナに見せるのになんで直しとかないんだって言いたかったけど、何度も謝る姿に何も言えなかった。

「確かにうるさいだろうけど、早く修理した方がいいよ。屋根が落ちて押し潰されて死んだなんて話もあるしね」

「じゃあ、行ってくるよ。冷蔵庫にお茶もコーヒーもあるから」

  アルバイト先はこの町に唯一あるコンビニだ。週に三日だけ深夜のアルバイトをしている。深夜は時給も高いし、仕事も楽だ。
  近いけど車で行く。歩いた方が健康には良さそうだけど、まだ健康を考えるほど歳はとっていない。
  車のエンジンをかけると隣の家の窓から誰かが見ているのに気付いた。誰だろう?  挨拶には行ったけど、家族全員を見たわけではないのでよくわからない。長い髪のようだから女の人かな。
  わざわざ車を降りて挨拶するほどでもないだろう。オレはアルバイトの時間に間に合うように車を走らせた。



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