34 / 39
33
しおりを挟む
私は両親と向かい合っている。
ロイドのことはまだ話す予定ではなかった。まずはエドと話し合ってからと思っていたのに、なぜこういうことになったのか。
答えは簡単だ。なぜか兄がロイドを連れて屋敷に戻ってきたからだ。あの時の驚きと言ったら、どういえばいいのだろうか。顎が外れるかと思うほど口を開けてしまったわ。
そして今、兄に呼ばれて両親までもが同じ席にいる。兄の考えが良くわからない。もっと根回しとか必要ではないのかしら。
「娘さんとの結婚を許してください」
ロイドを不思議そうな顔で見ていた両親はロイドの言葉にさらに不思議そうな顔になった。
「きみ、ロイドと言ったか? アネットはもう婚約者もいるのだが?」
「それは…」
ロイドが言葉に詰まってしまったので助け船を出す。
「お父様、そのことなら大丈夫です。婚約は解消することになっていますので」
「な、な、なにを言ってるの? 婚約解消などできるはずがないでしょう。そんなことをすればあなたはどこにも嫁に行けなくなるのよ」
「あら、お母さま。それなら大丈夫です。こうして嫁にもらってくれる方がいますから」
両親の顔は見ものだった。あっけにとられた顔というのは間抜けなものね。
「どうです? こうなったからには二人の結婚を認めては?」
すかさず兄の援護が入る。
「……だ、駄目だ。駄目だ。許さん! アネットはセネット侯爵家の娘だ。子爵家の三男などにやれるか!」
父の怒った声を聴いたのは初めてだった。私が引き取られてから、どこか遠慮した態度だった父の初めての本気の声だった。
「そうねぇ、いくら婚約解消した娘の貰い手が少なくなるとは言え、子爵家の三男はないわね。せめて嫡男なら考える余地はあるけど……」
なんと子爵家の三男というのはそこまで人気がないのか。あんまりではないだろうか。
「二人ともあんまりです。ロイドが子爵家の三男に生まれたのは彼のせいではありません! それを三男だから駄目とか嫡男ならとか酷いです。父さまも母様も嫌いです!」
二人は見事に固まっていた。声も出ないようだ。
私はこの家に引き取られてから、両親に逆らったことはない。ずっと素直な娘を演じていた。それがこの家で上手くやっていく為には絶対に必要なことだと思っていたから我慢したこともある。庶民として育った娘を引き取ったことによって両親が苦労していることもわかっていた。だからそのくらいの我慢は仕方のないことだっていう気持ちもあった。でもこれだけは譲れない。
絶対に譲れないのだ。
ロイドのことはまだ話す予定ではなかった。まずはエドと話し合ってからと思っていたのに、なぜこういうことになったのか。
答えは簡単だ。なぜか兄がロイドを連れて屋敷に戻ってきたからだ。あの時の驚きと言ったら、どういえばいいのだろうか。顎が外れるかと思うほど口を開けてしまったわ。
そして今、兄に呼ばれて両親までもが同じ席にいる。兄の考えが良くわからない。もっと根回しとか必要ではないのかしら。
「娘さんとの結婚を許してください」
ロイドを不思議そうな顔で見ていた両親はロイドの言葉にさらに不思議そうな顔になった。
「きみ、ロイドと言ったか? アネットはもう婚約者もいるのだが?」
「それは…」
ロイドが言葉に詰まってしまったので助け船を出す。
「お父様、そのことなら大丈夫です。婚約は解消することになっていますので」
「な、な、なにを言ってるの? 婚約解消などできるはずがないでしょう。そんなことをすればあなたはどこにも嫁に行けなくなるのよ」
「あら、お母さま。それなら大丈夫です。こうして嫁にもらってくれる方がいますから」
両親の顔は見ものだった。あっけにとられた顔というのは間抜けなものね。
「どうです? こうなったからには二人の結婚を認めては?」
すかさず兄の援護が入る。
「……だ、駄目だ。駄目だ。許さん! アネットはセネット侯爵家の娘だ。子爵家の三男などにやれるか!」
父の怒った声を聴いたのは初めてだった。私が引き取られてから、どこか遠慮した態度だった父の初めての本気の声だった。
「そうねぇ、いくら婚約解消した娘の貰い手が少なくなるとは言え、子爵家の三男はないわね。せめて嫡男なら考える余地はあるけど……」
なんと子爵家の三男というのはそこまで人気がないのか。あんまりではないだろうか。
「二人ともあんまりです。ロイドが子爵家の三男に生まれたのは彼のせいではありません! それを三男だから駄目とか嫡男ならとか酷いです。父さまも母様も嫌いです!」
二人は見事に固まっていた。声も出ないようだ。
私はこの家に引き取られてから、両親に逆らったことはない。ずっと素直な娘を演じていた。それがこの家で上手くやっていく為には絶対に必要なことだと思っていたから我慢したこともある。庶民として育った娘を引き取ったことによって両親が苦労していることもわかっていた。だからそのくらいの我慢は仕方のないことだっていう気持ちもあった。でもこれだけは譲れない。
絶対に譲れないのだ。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。
霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。
「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」
いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。
※こちらは更新ゆっくりかもです。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
(完結)私の夫を奪う姉
青空一夏
恋愛
私(ポージ)は爵位はないが、王宮に勤める文官(セオドア)の妻だ。姉(メイヴ)は老男爵に嫁ぎ最近、未亡人になったばかりだ。暇な姉は度々、私を呼び出すが、私の夫を一人で寄越すように言ったことから不倫が始まる。私は・・・・・・
すっきり?ざまぁあり。短いゆるふわ設定なお話のつもりです。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
業腹
ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。
置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー
気がつくと自室のベッドの上だった。
先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた
【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった
岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】
「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」
シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。
そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。
アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。
それだけではない。
アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。
だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。
そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。
なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる