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54 カイルside
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私はリリアナにプロポーズの言葉を言わなかったことを後悔していた。
あの時はまだリリアナのことを好意はもっていたけど愛していなかったので言葉がでなかった。でも一緒に暮らすうちに愛するようになっていた。サーシャの生まれ変わりとしてではなく、リリアナ自身を愛するようになっていた。
結婚もしているのに今さらプロポーズの言葉を口にするのは恥ずかしい。
それにリリアナがその言葉を望んでいるかもよくわからない。
彼女が何を考えているのかさっぱりわからないのだ。母とのこともリリアナが働きかけてくれたおかげで、少しずつ改善されてきている。サーシャの気持ちを考えると本当にいいのかと考えたが、リリアナがサーシャも望んでいることだと言ってくれたおかげで心がとても楽になった。私にとっては母なわけで憎むことはとても難しいことだったのだ。
確かにサーシャは私と母の仲が悪くなるのを望むような性格ではなかった。
ずっと長い間サーシャのことを想っていたけれど、今はもう思い出せなくなっている。記憶というのはそういうものだとわかってはいるけど悲しいものだ。
屋敷に残されたサーシャの絵を眺めながら、彼女との思い出を振り返る。
あれは結婚して何日目だろうか。サーシャが大きな荷物を抱えていた。その時は侍女と上手くいっていないことを知らなかったので侍女に頼めばいいのにと思ったのだ。
「何を運んでいる?」
サーシャの手から荷物を取りながら尋ねる。形からキャンパスだということはすぐにわかった。
「ふふふ、私の絵なの。お義母さまがくださったのよ」
サーシャの絵をどうして母が持っているのか、首を傾げる。どんな絵なのか興味があったので私の執務室に運ぶ。後ろからサーシャがついてきた。
「これはすごいなぁ」
絵にかけられていた布をとるとサーシャがほほ笑んでいた。今より少し若いころのサーシャだ。
「なんだか子供っぽい気がするわ」
サーシャは描かれている若い姿が気に入らないようで膨れている。
「そんなに変わらないよ」
そういうとさらにふくれっ面になる。膨れている頬をつつくとサーシャも笑った。
絵を眺めているとあの時の情景が浮かんでくるから不思議だ。もうサーシャの顔さえ思い出せなくなっていると思っていたけど、記憶の中に確かにサーシャは存在している。
あの時抱いていたサーシャへの気持ちとリリアナへの想いは違うものだ。どこがどう違うのかは説明できないけど、違うものだとわかる。
それならサーシャへの気持ちは同情だった? それは違う。同情で結婚まではしない。確かにサーシャの命が残り少ないと聞いてショックを受けたが、それで結婚したわけではない。彼女に純粋に惹かれたから結婚をしたいと思ったのだ。
リリアナと私は親子ほど年が違う。だからリリアナを好きになっていることに気付くのが遅れた。結婚してしばらくして愛しているのだと気付いたが、今思えば彼女のために俗世を捨てる決意をしたときにはもう好きになっていたのかもしれない。
グレース王女は私の気持ちに私よりも早く気づいていたような気がする。グレース王女とは彼女が幼いころからの付き合いで、恐れ多いことだが姪のように思っている。おそらくグレース王女の方も私のことを親戚のおじさんくらいには思ってくれているのではないかなと思う。それで私のことをリリアナの結婚相手として選んでくれたのだろう。グレース王女の応援がなければこれほど早く結婚できなかったことは間違いない。
私とリリアナの結婚を応援してくれたグレース王女にはぜひ幸せになってほしい。政略結婚は仕方がないとしても変な男性が選ばれないように目を光らせておかなければならない。リリアナも気にしていたからなおさらだ。
母との問題も解決したし、この結婚には何の問題もない。
あるとすればやはりプロポーズの言葉だけだ。
言うべきか、言わざるべきか…どうしたものか。
あの時はまだリリアナのことを好意はもっていたけど愛していなかったので言葉がでなかった。でも一緒に暮らすうちに愛するようになっていた。サーシャの生まれ変わりとしてではなく、リリアナ自身を愛するようになっていた。
結婚もしているのに今さらプロポーズの言葉を口にするのは恥ずかしい。
それにリリアナがその言葉を望んでいるかもよくわからない。
彼女が何を考えているのかさっぱりわからないのだ。母とのこともリリアナが働きかけてくれたおかげで、少しずつ改善されてきている。サーシャの気持ちを考えると本当にいいのかと考えたが、リリアナがサーシャも望んでいることだと言ってくれたおかげで心がとても楽になった。私にとっては母なわけで憎むことはとても難しいことだったのだ。
確かにサーシャは私と母の仲が悪くなるのを望むような性格ではなかった。
ずっと長い間サーシャのことを想っていたけれど、今はもう思い出せなくなっている。記憶というのはそういうものだとわかってはいるけど悲しいものだ。
屋敷に残されたサーシャの絵を眺めながら、彼女との思い出を振り返る。
あれは結婚して何日目だろうか。サーシャが大きな荷物を抱えていた。その時は侍女と上手くいっていないことを知らなかったので侍女に頼めばいいのにと思ったのだ。
「何を運んでいる?」
サーシャの手から荷物を取りながら尋ねる。形からキャンパスだということはすぐにわかった。
「ふふふ、私の絵なの。お義母さまがくださったのよ」
サーシャの絵をどうして母が持っているのか、首を傾げる。どんな絵なのか興味があったので私の執務室に運ぶ。後ろからサーシャがついてきた。
「これはすごいなぁ」
絵にかけられていた布をとるとサーシャがほほ笑んでいた。今より少し若いころのサーシャだ。
「なんだか子供っぽい気がするわ」
サーシャは描かれている若い姿が気に入らないようで膨れている。
「そんなに変わらないよ」
そういうとさらにふくれっ面になる。膨れている頬をつつくとサーシャも笑った。
絵を眺めているとあの時の情景が浮かんでくるから不思議だ。もうサーシャの顔さえ思い出せなくなっていると思っていたけど、記憶の中に確かにサーシャは存在している。
あの時抱いていたサーシャへの気持ちとリリアナへの想いは違うものだ。どこがどう違うのかは説明できないけど、違うものだとわかる。
それならサーシャへの気持ちは同情だった? それは違う。同情で結婚まではしない。確かにサーシャの命が残り少ないと聞いてショックを受けたが、それで結婚したわけではない。彼女に純粋に惹かれたから結婚をしたいと思ったのだ。
リリアナと私は親子ほど年が違う。だからリリアナを好きになっていることに気付くのが遅れた。結婚してしばらくして愛しているのだと気付いたが、今思えば彼女のために俗世を捨てる決意をしたときにはもう好きになっていたのかもしれない。
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私とリリアナの結婚を応援してくれたグレース王女にはぜひ幸せになってほしい。政略結婚は仕方がないとしても変な男性が選ばれないように目を光らせておかなければならない。リリアナも気にしていたからなおさらだ。
母との問題も解決したし、この結婚には何の問題もない。
あるとすればやはりプロポーズの言葉だけだ。
言うべきか、言わざるべきか…どうしたものか。
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