53 / 55
53
しおりを挟む
義母とのお茶会は無事に終わった。彼女はサーシャにしたことを後悔していた。
私にはそれだけで義母と仲良くなれる気がした。義母がサーシャにしたことを反省していないようだったらさすがに仲良く付き合うのは無理な気がしていたからホッとした。
あとはカイルと義母との仲を取り持たなくてはいけないけど、これは急がなくてもいいだろう。義母にしてみれば何もかもカイルのためにしたことだったのだから、いつかはその気持ちがカイルにも通じるはずだ。
「今日、母がきたそうだね」
「あら、知っていらしたの?」
「いや、帰ってきたときに聞いた」
ノートンから聞いたようだ。お茶会をすることは口止めしていたけど、無事に終わったのでいいと思ったのだろう。
「お義母さまとは仲良くやっていかないといけないでしょう?」
「無理はしなくていいと言っただろう」
「無理なんてしていません。それにいろいろ話したことで誤解も解けましたの。お義母さまはケイト嬢の手紙を真に受けただけですわ」
「だがそれによってサーシャは酷い目にあうことになった。だいたい私はケイトを母に紹介していない。そんな女の話の方をサーシャよりも信じた。それが許せない」
カイルの表情は苦渋に満ちている。母に対する怒りもあるみたいだけど、自分に対する怒りの方が多いように感じた。
「でも、ケイト嬢と付き合っていたのは事実でしょう? お義母さまが騙されたのは仕方のないことだわ。貴方も初めはサーシャとの婚約を嫌がっていたことをお義母さまも知っていらしたから起きたことだと思うの」
「…私が一番悪かったということか…」
私の言いたかったことは通じたらしい。そのことを責める気持ちはないけど義母のしたことも許してあげてほしい。
「カイルだけが悪かったわけではないけど、もっとお義母さまと話しあっていれば誤解も起きなかったと思うの。あなた達親子は言葉が足りないわ」
親子ほども年の違う私が説教をするのはどうかと思ったけれど、カイルは気にしていないようで神妙に私が言ったことを考えている。
「…そうかもしれない。母に心配をかけたくなくて結論しか言わなかった。サーシャとの結婚が決まった時も彼女の病気のことも言わず、ただ事務的に報告しただけだった。あの時恥ずかしがらずにサーシャに恋していることを母に話していたらケイトからの手紙に惑わされることはなかったのだな」
過去を思い出して話すカイルは後悔している。私は震えている彼に手を握った。
「今度は三人でお茶会をしましょう。きっとサーシャも喜ぶわ」
「まだ母と仲良くできるかわからないけど、君が傍にいれば少しは歩み寄れそうな気がするよ」
カイルはサーシャに恋していたと言った。そのことについて私は考える。
カイルは同情からではなくサーシャを選んだのだろうか。サーシャの記憶ではカイルは同情とサーシャへの好意から結婚してくれたことになっていたけど、恋という文字はなかった。ケイトと別れたと思っていたけど、まだ付き合っているのかもと終わりの方は誤解までしている。
若かったからかカイルは言葉が足りなかったのね。今のカイルはどうだろうか? 言葉が足りている?
そう考えてハッとした。そういえばプロポーズってされたかしら。あの言葉をもらっていない。
『生まれ変わっても一緒になろう』
どうして今まで気づかなかったのかしら。もしかしてカイルは次は一緒になりたくないの?
あり得る話だ。今回だって真名の問題が私たちを縛ることになった。あれがなければ一緒になっていただろうか? よくわからない。結婚だって強引に私が決めたようなものだ。
ジッとカイルを見つめていると、彼が首を傾げる。
「ん? どうかしたかい?」
ここでプロポーズの言葉が欲しいとは言えない。言えば言ってくれるかもしれないけど、それは何か違う気がする。強請ることで言ってもらったプロポーズには何の価値もない。
もう結婚しているからプロポーズの言葉はもらえないのかな。でも言ってもらいたい。確かにサーシャの時にはしてもらっているけど、私はリリアナだもの。
リリアナとして『生まれ変わっても一緒に』という言葉が欲しい。
カイルが言ってくれる日がくるかしら……。
私にはそれだけで義母と仲良くなれる気がした。義母がサーシャにしたことを反省していないようだったらさすがに仲良く付き合うのは無理な気がしていたからホッとした。
あとはカイルと義母との仲を取り持たなくてはいけないけど、これは急がなくてもいいだろう。義母にしてみれば何もかもカイルのためにしたことだったのだから、いつかはその気持ちがカイルにも通じるはずだ。
「今日、母がきたそうだね」
「あら、知っていらしたの?」
「いや、帰ってきたときに聞いた」
ノートンから聞いたようだ。お茶会をすることは口止めしていたけど、無事に終わったのでいいと思ったのだろう。
「お義母さまとは仲良くやっていかないといけないでしょう?」
「無理はしなくていいと言っただろう」
「無理なんてしていません。それにいろいろ話したことで誤解も解けましたの。お義母さまはケイト嬢の手紙を真に受けただけですわ」
「だがそれによってサーシャは酷い目にあうことになった。だいたい私はケイトを母に紹介していない。そんな女の話の方をサーシャよりも信じた。それが許せない」
カイルの表情は苦渋に満ちている。母に対する怒りもあるみたいだけど、自分に対する怒りの方が多いように感じた。
「でも、ケイト嬢と付き合っていたのは事実でしょう? お義母さまが騙されたのは仕方のないことだわ。貴方も初めはサーシャとの婚約を嫌がっていたことをお義母さまも知っていらしたから起きたことだと思うの」
「…私が一番悪かったということか…」
私の言いたかったことは通じたらしい。そのことを責める気持ちはないけど義母のしたことも許してあげてほしい。
「カイルだけが悪かったわけではないけど、もっとお義母さまと話しあっていれば誤解も起きなかったと思うの。あなた達親子は言葉が足りないわ」
親子ほども年の違う私が説教をするのはどうかと思ったけれど、カイルは気にしていないようで神妙に私が言ったことを考えている。
「…そうかもしれない。母に心配をかけたくなくて結論しか言わなかった。サーシャとの結婚が決まった時も彼女の病気のことも言わず、ただ事務的に報告しただけだった。あの時恥ずかしがらずにサーシャに恋していることを母に話していたらケイトからの手紙に惑わされることはなかったのだな」
過去を思い出して話すカイルは後悔している。私は震えている彼に手を握った。
「今度は三人でお茶会をしましょう。きっとサーシャも喜ぶわ」
「まだ母と仲良くできるかわからないけど、君が傍にいれば少しは歩み寄れそうな気がするよ」
カイルはサーシャに恋していたと言った。そのことについて私は考える。
カイルは同情からではなくサーシャを選んだのだろうか。サーシャの記憶ではカイルは同情とサーシャへの好意から結婚してくれたことになっていたけど、恋という文字はなかった。ケイトと別れたと思っていたけど、まだ付き合っているのかもと終わりの方は誤解までしている。
若かったからかカイルは言葉が足りなかったのね。今のカイルはどうだろうか? 言葉が足りている?
そう考えてハッとした。そういえばプロポーズってされたかしら。あの言葉をもらっていない。
『生まれ変わっても一緒になろう』
どうして今まで気づかなかったのかしら。もしかしてカイルは次は一緒になりたくないの?
あり得る話だ。今回だって真名の問題が私たちを縛ることになった。あれがなければ一緒になっていただろうか? よくわからない。結婚だって強引に私が決めたようなものだ。
ジッとカイルを見つめていると、彼が首を傾げる。
「ん? どうかしたかい?」
ここでプロポーズの言葉が欲しいとは言えない。言えば言ってくれるかもしれないけど、それは何か違う気がする。強請ることで言ってもらったプロポーズには何の価値もない。
もう結婚しているからプロポーズの言葉はもらえないのかな。でも言ってもらいたい。確かにサーシャの時にはしてもらっているけど、私はリリアナだもの。
リリアナとして『生まれ変わっても一緒に』という言葉が欲しい。
カイルが言ってくれる日がくるかしら……。
41
お気に入りに追加
2,619
あなたにおすすめの小説

不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。
水無月あん
恋愛
本編完結済み。
6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。
王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。
私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。
※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる