上 下
39 / 55

39

しおりを挟む
何となくだけどカイルが隠し事をしているような気がした。たぶん母親のことだろう。私には話したくない何かがあったのかもしれない。
  サーシャの記憶ではカイルとの結婚の決めた時、彼の母親のことは考えてなかった。一緒に暮らせることを喜んでいたようだけど、カイルとの結婚を反対されるとは微塵も思っていなかった。それは二人が本当の親子のように仲が良かったからだ。
 あれが全て見せかけだったのだろうか。ハウスキーパーが最後に言ったように、本心では大事な息子を金にまかせて結婚させた悪い女のように思っていたの?

「お義母様が泣かないからといって、悲しんでいないとは限らないわ。サーシャの記憶の中の彼女はとても優しかったの。あれが全て噓だったなんて思えないわ」
「…確かにとても可愛がっていた。この間、サーシャの絵が見つかったんだ。母が絵師に描かせたものだ。私の絵よりサーシャの絵の方が多かった…だから余計に母のしたことが信じられない。せめて悪いことをしたと謝ってほしい」

 なるほど。彼の母親は謝ることも拒んだということか。でも彼女は何故私をいじめたのだろう。結婚する前ならまだわかる。でも結婚した後に嫌がらせをされたとしても、よほどのことがなければ離婚することはないのに意味のないことだ。でもその意味のないことが結構あることを私は人の噂で知っている。嫁姑問題ははるか昔から存在している。簡単に離婚ができない世界で、姑に好かれなかった場合地獄の結婚生活になってしまうらしい。最近は旦那が味方するから嫁の方が強いところもあるらしいけどね。

「それでこれからどうしたらいいと思います?」
「私は母のことがなければ結婚が一番いいと思っていた。だが、私の母がサーシャを死に追いやった人物だとわかって、正直どうするのがいいのかわからない」

 カイルの母親は再婚して家を出ているから、結婚したとしてもずっと一緒にいるわけではない。カイルの母は私がサーシャの生まれ変わりだって知らないのだから、私が気にしないといえば.....。
  仲良くできるだろうか。たまにしか会うことがなくても義理の母親になるのだ。一緒に食事をしたり、服だって買いに行くかもしれない。サーシャだった時もよく二人で買い物をした。服を選びあったこともある。あの時のあの笑顔が嘘だったとわかったのに、一緒に笑いあうことができるだろうか。

「わたくしも彼女と仲良くできるか自信がないですわ」
「.....それで昨日ずっと考えて、私と違って君は若い。将来を考えれば真名に縛られて人生を決めるのはどうかと思う」
「それはどう言う意味ですか? 棄教しろと言うのですか?」

  棄教すれば公爵令嬢として生きて行くことはできない。この大陸のどこにも居場所がなくなってしまうだろう。

「まさか。そうではなくて私が神殿に入ろうかと思ったんだ」
「は?」
「私は君よりずっと生きている。それにサーシャを守ってあげることができなかった。せめて生まれかわりである君は幸せになって欲しい」
「そんなこと無理です。へ、陛下がお許しになりませんわ」

  陛下のことを言うとカイルは、

「陛下のことは私が説得するから大丈夫だ」

と言った。でもそんなに簡単なことではないと思う。グレース王女の話では陛下の唯一無二の親友がカイルなのだ。そのカイルが神殿に入るのを黙って見ているわけがない。

「無理だと思います。陛下は徹底的に調べて、カイル様が神殿に入るのを邪魔するでしょう」
「陛下とは長い付き合いだ。私だって陛下の弱みの一つや二つ知っているから心配しなくていい」

  カイルは神殿に入る考えを変えそうにない。私のために神殿に入るのなら、 やめて欲しい。
  でもなんと言えばいいのかわからない。
  早くグレース王女が帰って来てくれないかしら。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。

あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。 願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。 王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。 わあああぁ  人々の歓声が上がる。そして王は言った。 「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」 誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。 「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」 彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。

目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。

霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。 「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」 いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。 ※こちらは更新ゆっくりかもです。

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

貴方の事を愛していました

ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。 家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。 彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。 毎週のお茶会も 誕生日以外のプレゼントも 成人してからのパーティーのエスコートも 私をとても大切にしてくれている。 ーーけれど。 大切だからといって、愛しているとは限らない。 いつからだろう。 彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。 誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。 このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。 ーーけれど、本当にそれでいいの? だから私は決めたのだ。 「貴方の事を愛してました」 貴方を忘れる事を。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

処理中です...