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33 カイルside
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「貴方が訪ねてくるなんて、珍しいこと」
母は私を見て嬉しそうにほほ笑んでいる。確かに母に会うのは何か月ぶりだろう
母の再婚を一番喜んだのは私だ。私にとって母は大事な人だったけれど、サーシャが亡くなってから、どうしても疑いの目を向けてしまうので一緒に暮らすのが苦痛だった。
「どうしても教えてほしいことができたので尋ねてきました」
「教えてほしこと?」
母は不思議そうな顔をしている。
「ええ、昔私の屋敷で働いていたハウスキーパーがこちらで働いていることがわかったので話をさせてください。彼女にはどうしても聞きたいことがあります」
「そ、それは教えてほしいことではないでしょう。どういうことかしら?」
「母様に教えてほしいことはたくさんあります。一つは何故サーシャを閉じ込めた犯人であるハウスキーパーがここで働いているのかということです」
「偶然ですよ。それに彼女が閉じ込めたというのは想像だけじゃないですか。姿が見えなくなっただけで、彼女は関係なかったそうよ。たまたまあの時に男の方と駆け落ちしたから疑われてしまったのね」
母はサーシャの生まれ変わりであるリリアナの存在を知らないから、状況証拠だけでハウスキーパーを疑っていると思っている。
「そんな誤魔化しが通用すると思っているのですか? 私は確かな情報を得てハウスキーパーが犯人だと言っているのです」
「確かな証拠ですって?」
「そうです、閉じ込められた当人であるサーシャから聞いたのですから真実ですよ」
「サ、サーシャから聞いた? カイルは何を言ってるかわかっているの?」
母の顔色は一気に青くなった。
「私は正気ですよ。母様には聞きたいことがたくさんありますが、先にハウスキーパーと話をさせてください。隠そうとしても無駄です。裏で母様が動いていていたこともわかっています」
「ど、どうして今頃になって……」
母の嘆きは私の胸に響かない。あれほどサーシャに慕われていたのに裏切っていたのだから、自業自得だと思う。
私は母の代わりに使用人に命じて、ハウスキーパーを呼んだ。ハウスキーパーの名前はミドル・クライン。彼女は昔よりずっと年をとっていて、すれ違ってもきっとわからなかっただろう。
「君がサーシャを閉じ込めたことはわかっている。何故そんなことをした? 誰の命令だった?」
ミドル・クラインは助けを求めるように母を見たが、母は目を合わせなかった。
「閉じ込めたのは誰の命令でもありません。奥様がいることに気づかず鍵を閉めてしまったのです。奥様が亡くなってしまい怖くなって逃げ出してしまいました」
リリアナから話を聞いていなければ、彼女の話を信じていただろう。そのくらいミドルの話は上手だった。
「よくできた話しだが、私が聞いた話とは違うな。君は彼女に物を盗み、箱に入れて運んでいたところを見つかった。そして謝るどころか逆上してサーシャを部屋に閉じ込めた。これが真相だ。覚えがあろう」
ミドルの自信満々だった顔は急速に変化した。オロオロとして母に助けを求めるかのように視線を何度も向けている。やはり母が関係していることは間違いないようだ。
ミドルだけの単独犯であってくれればと願っていたが無駄に終わった。
「証拠は? 証拠のないことでうちのハウスキーパーを疑うことは許しませんよ」
母は苦々しい顔でハウスキーパーを見ながらも、彼女を庇う。
「証拠ですか? その場にいた者の証言で十分でしょう」
「その場にいた者? サーシャとミドル以外に誰かいたの?」
母がミドルに目を向けると、ミドルはビクッとして姿勢を正す。
「い、いません。私たちしかあの場にはいませんでした」
「本当に? それを確認したか?」
「か、確認はしていませんが、確かです」
「確認していないのに何がわかる。『お金を積んで結婚したくせに態度だけはでかいんだから。貴女のことなんて誰も女主人だなんて認めてないわよ。ご主人とケイト様がかわいそう』ほう、顔色が変わったな。そうだ、これは君がサーシャに最後に言った言葉だ」
ミドルは力が抜けたように座り込んで泣き出した。母はそれを冷めた目で見ている。
ミドルが話せば母の関与も明らかになるのに何の感情も読み取れないくらい、落ち着いている。どういうことだ? 私が母を責めることはないと思っているのか?
ミドルが泣き止んで話ができるようになるまでどのくらいかかるのだろう。
母は私を見て嬉しそうにほほ笑んでいる。確かに母に会うのは何か月ぶりだろう
母の再婚を一番喜んだのは私だ。私にとって母は大事な人だったけれど、サーシャが亡くなってから、どうしても疑いの目を向けてしまうので一緒に暮らすのが苦痛だった。
「どうしても教えてほしいことができたので尋ねてきました」
「教えてほしこと?」
母は不思議そうな顔をしている。
「ええ、昔私の屋敷で働いていたハウスキーパーがこちらで働いていることがわかったので話をさせてください。彼女にはどうしても聞きたいことがあります」
「そ、それは教えてほしいことではないでしょう。どういうことかしら?」
「母様に教えてほしいことはたくさんあります。一つは何故サーシャを閉じ込めた犯人であるハウスキーパーがここで働いているのかということです」
「偶然ですよ。それに彼女が閉じ込めたというのは想像だけじゃないですか。姿が見えなくなっただけで、彼女は関係なかったそうよ。たまたまあの時に男の方と駆け落ちしたから疑われてしまったのね」
母はサーシャの生まれ変わりであるリリアナの存在を知らないから、状況証拠だけでハウスキーパーを疑っていると思っている。
「そんな誤魔化しが通用すると思っているのですか? 私は確かな情報を得てハウスキーパーが犯人だと言っているのです」
「確かな証拠ですって?」
「そうです、閉じ込められた当人であるサーシャから聞いたのですから真実ですよ」
「サ、サーシャから聞いた? カイルは何を言ってるかわかっているの?」
母の顔色は一気に青くなった。
「私は正気ですよ。母様には聞きたいことがたくさんありますが、先にハウスキーパーと話をさせてください。隠そうとしても無駄です。裏で母様が動いていていたこともわかっています」
「ど、どうして今頃になって……」
母の嘆きは私の胸に響かない。あれほどサーシャに慕われていたのに裏切っていたのだから、自業自得だと思う。
私は母の代わりに使用人に命じて、ハウスキーパーを呼んだ。ハウスキーパーの名前はミドル・クライン。彼女は昔よりずっと年をとっていて、すれ違ってもきっとわからなかっただろう。
「君がサーシャを閉じ込めたことはわかっている。何故そんなことをした? 誰の命令だった?」
ミドル・クラインは助けを求めるように母を見たが、母は目を合わせなかった。
「閉じ込めたのは誰の命令でもありません。奥様がいることに気づかず鍵を閉めてしまったのです。奥様が亡くなってしまい怖くなって逃げ出してしまいました」
リリアナから話を聞いていなければ、彼女の話を信じていただろう。そのくらいミドルの話は上手だった。
「よくできた話しだが、私が聞いた話とは違うな。君は彼女に物を盗み、箱に入れて運んでいたところを見つかった。そして謝るどころか逆上してサーシャを部屋に閉じ込めた。これが真相だ。覚えがあろう」
ミドルの自信満々だった顔は急速に変化した。オロオロとして母に助けを求めるかのように視線を何度も向けている。やはり母が関係していることは間違いないようだ。
ミドルだけの単独犯であってくれればと願っていたが無駄に終わった。
「証拠は? 証拠のないことでうちのハウスキーパーを疑うことは許しませんよ」
母は苦々しい顔でハウスキーパーを見ながらも、彼女を庇う。
「証拠ですか? その場にいた者の証言で十分でしょう」
「その場にいた者? サーシャとミドル以外に誰かいたの?」
母がミドルに目を向けると、ミドルはビクッとして姿勢を正す。
「い、いません。私たちしかあの場にはいませんでした」
「本当に? それを確認したか?」
「か、確認はしていませんが、確かです」
「確認していないのに何がわかる。『お金を積んで結婚したくせに態度だけはでかいんだから。貴女のことなんて誰も女主人だなんて認めてないわよ。ご主人とケイト様がかわいそう』ほう、顔色が変わったな。そうだ、これは君がサーシャに最後に言った言葉だ」
ミドルは力が抜けたように座り込んで泣き出した。母はそれを冷めた目で見ている。
ミドルが話せば母の関与も明らかになるのに何の感情も読み取れないくらい、落ち着いている。どういうことだ? 私が母を責めることはないと思っているのか?
ミドルが泣き止んで話ができるようになるまでどのくらいかかるのだろう。
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