15 / 55
15
しおりを挟む「よくわかりました。何故わたくしたちが結婚したか。結局、同情で結婚したと言うことでしょうか」
「何を聞いていたのですか? 私はサーシャが好きだった。結婚したいと思ったから結婚した。同情なんかではないですよ」
カイル伯爵の話では確かにサーシャを好きだから結婚したように聞こえる。でも私の頭の中にある彼はサーシャを疎んじていたあの最後の姿しか思い浮かばない。これ以上話を聞くのは危険な気がした。ここまで詳しく聞くことはない。箇条書きにした事実だけ聞くことにしよう。
「君と父親を説得するのは時間がかかった。特に君は今も言ったように同情されるのは嫌だとなかなか頷いてはくれなかった。それでもなんとか説得して夏になる頃には結婚できた。婚約期間が一年いるという君の父親を説得したのは君だ。もう十分婚約期間はあったと言ってね」
「それでわたくしたちは思ったよりも早く結婚したのですね」
「君は私と王都にある屋敷で結婚生活を送ることになった。本当なら田舎の方がいいのだろうが、私の仕事の関係で仕方がなかった」
「王都にある屋敷?」
「父が亡くなった時に手放していたが、君の父上が買い取って結婚プレゼントだとくれたんだ。執事もハウスキーパーも昔のままだった。私の母もとても喜んだ。君と母はとても仲が良くて、私が間に入れないことさえあった」
彼の話はとりとめがない。きっと話したくないことを隠しているからだと思った。カイルの母のことはあまり覚えていない。私の記憶の中の彼女はとても印象が薄いのだ。幼い頃からカイルの婚約者だったから仲良くしていたのは確かで、彼女がカイルの部屋の鍵を貸してくれたことも覚えている。そうだ、彼女が私にカイルのアパートに訪ねていけばいいと背中を押してくれたんだった。私の誕生日の日はカイルは仕事だと教えてくれたのも彼女だった。私がどうしてもカイルと会いたがっているのを見かねて親切にも手助けしてくれたのだ。カイルとは最後の別れのために会うのだということは言えなかったけれど、彼女にはとても感謝した。とても優しい人だった。それなのにどうして顔が思い出せないのだろう。私ではないサーシャの記憶だからだろうか。重要ではない人の顔は薄い気がする。
「でも確か五年は生きられると言っていたのにどうしてわたくしは結婚してから数ヶ月で亡くなったのですか? 医術の先生の診立て違いですか?」
私が一番気になっていたことを尋ねた。カイルの顔は青ざめている。サーシャが亡くなったのは昔のことなのに。
「いつものように熱が高くなって、心臓がもたなかった。すごく突然のことだった」
「それだけではないのでしょう? 貴方は何かを隠しているわ」
それだけで青ざめるとは思えない。私の死は彼が青ざめるような酷いことだったのか。
「君は私が帰った時どこにもいなかった。突然いなくなったとみんなが探していた。誰かがどこかに出て行ったのではないかと言い。私もそんな気がしていた。もしかしたら実家に帰ったのではないかと思った。だがそんなことはないと庭師のワンダが言った。あの日は花の植え替えでたった一つの門の前にずっといたが奥様は通らなかったと証言した。それでもう一度隅から隅まで探すことになった」
「わたくしはどこにいたの?」
「ワインを置いてある地下にある部屋に閉じ込められていた。鍵がかけられていた」
「どうして最初に探した時は見つからなかったの?」
「それはハウスキーパーだったメルがそこは見たと言ったからだと執事が言っていた」
「ではわたくしはハウスキーパーに閉じ込められたということなのね」
「いや、それがわからないんだ。君は誰に閉じ込められたかは言わないで亡くなってしまい。そのハウスキーパーは失踪してしまった。だが逃げ出したということは罪を認めたのだと思う」
「どうして隠そうとしたの?」
「これは誰にも言っていないからだ。閉じ込められたことが原因だとはマドリード伯爵にも言ってないことだ」
「何故?」
「君が望んだからだ。死ぬ前にただ熱を出して亡くなったことにしてほしいいと」
サーシャは本当にカイルを愛していたんだなと思った。死んだ後の彼の評判まで気にするなんて私にはできそうにない。サーシャは私の前世だけどやっぱり私とは違うと思うのはこんな時だ。彼女のようにはなれない。そこまで人を愛するなんてできない
「そう。他には何か言った?」
それは何気ない質問だった。でもカイルはとても動揺した。聞いてはいけない質問だっただろうか。長い沈黙が続いてどうしようかなと考えているとカイルが口を開いた。
「生まれ変わっても……」
「え?」
声が小さくてよく聞こえないので聞き返す。
「生まれ変わっても一緒にはならないって言うのが最後の言葉だった」
これには驚いた。てっきり生まれ変わっても一緒にと言ったのかと思った。これはどう考えればいいのか。サーシャがカイルを愛していたことは確かなのに、どうして最後の最後にあんなことを言ったのだろうか。
49
お気に入りに追加
2,571
あなたにおすすめの小説
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
王妃の鑑
ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。
これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
今更何の御用でしょう? ウザいので止めて下さいませんか?
ノアにゃん
恋愛
私は3年前に幼馴染の王子に告白して「馬鹿じゃないの?」と最低な一瞬で振られた侯爵令嬢
その3年前に私を振った王子がいきなりベタベタし始めた
はっきり言ってウザい、しつこい、キモい、、、
王子には言いませんよ?不敬罪になりますもの。
そして私は知りませんでした。これが1,000年前の再来だという事を…………。
※ 8/ 9 HOTランキング 2位 ありがとう御座います‼
※ 8/ 9 HOTランキング 1位 ありがとう御座います‼
※過去最高 154,000ポイント ありがとう御座います‼
白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。
蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。
「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。
形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。
お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。
しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。
純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。
※小説家になろう様にも掲載しています。
もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
円満婚約破棄をしたらゆるい王妃様生活を送ることになりました
ごろごろみかん。
恋愛
死霊を祓うことのできる霊媒師・ミシェラは皇太子から婚約破棄を告げられた。だけどそれは皇太子の優しさだと知っているミシェラは彼に恩返しの手紙を送る。
そのまま新興国の王妃となったミシェラは夫となった皇帝が優しい人で安心する。しかもゆるい王妃様ライフを送ってもいいと言う。
破格の条件だとにこにこするミシェラはとてつもないポジティブ思考の持ち主だった。
勘違いものです
ゆるゆる更新で気が向いた時に更新します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる