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悪役令嬢とチョコレートボンボン
しおりを挟むチョコレートボンボンを広めたのは悪役令嬢ことリリアーナ・オッドウェイ公爵令嬢であるわたしだ。彼女が前世を思い出したときは絶望しかなかったがしばらくして前世のお菓子を売り出そうと考えた。別に前世のお菓子を食べたかったからではない。前世ではお菓子のせいで体重が増え、痩せるためにダイエットしてそしてまた誘惑に負けて食べてそしてダイエッ……エンドレスだった。そういうわけで決して自分の楽しみのために作ることにしたわけでは決してないのである。
手始めにチョコレートがこの世界でもあったのでチョコレートボンボンを作ることにした。これなら超簡単で大人向けで売れると確信した。しかし私のような幼い子供のいうことに調理人が従ってくれるかというと難しかった。公爵令嬢なのになぜか食を握っている調理人の立場は上だったのだ。
「お嬢様、食べ物で遊ぶのは感心しませんな」
調理人のルクルートは包丁を片手に持って脅してくる。本人に脅す気があるのかないのかは疑問だ。まだ幼かった私はその頃から今と変わらない縦ロールの髪をなびかせていた。
「遊びじゃないのよ。これは絶対に売れるから作らせてちょうだい」
「そんなものが売れるわけないでしょう。昨日も言いましたがここはリリアーナ様の遊び場ではありません。聞き分けのない子は鍋で煮てしまいますよ」
ルクルートが言うと冗談に聞こえないから私は涙目になっていた。でもここで負けたら私の未来はさらに悲惨なことになる。少しでも自分の財産が欲しい。平民に落とされて国外へ追放になってもお金さえあればなんとか暮らしていけるはずだ。最悪身体を売るような目にだけは会わずに済む。
「そんなこと言わないで。きっとルクルートも好きだと思うわ。そうねぇ、売れたら利益の二割はルクルートのものにしても良いのよ」
これは今思いついたことではない。私のような子供が発案者になってもお金は親のものになってしまう。ルクルートになってもらってこっそり私に渡してもらうための一割なのだ。
そして私はこの時ルクルートがお金を必要としていることを知っていた。
博打の借金とかなら協力者にはできないけれど病気の母親のためと聞けば彼を仲間にしてこき使……ゴホ、ゴホッ…仲間にして一緒に作りたいと思ったのだ。
「本当に売れるのか?」
「当たり前でしょう。私を誰だと思っているの? リリアーナ公爵令嬢よ」
ルクルートの顔はさらに不安げになった。解せない。
どうにかこうにか説得して作ったチョコレートボンボンはルクルートの舌にも合ったようで目を輝かせた。
「どうしてこんな簡単なことに思いつかなかったんだ」
自分のアイデアだったら利益が全部懐に入っていたのにとあまりに嘆くのでこのままお金を持っていなくなるのではないかと心配になった。
チョコレートボンボンは売りに売れた。そのおかげかルクルートの母親も元気になり、若い嫁さんまでもらってしまった。あの料理バカと侍女たちはルクルートの事をずっとバカにしていたのにお金持ちになったとたんに人気者になっていた。でもルクルートはそんな侍女たちには目も向けず、下働きの優しい娘にプロポーズしたのだ。
それを聞いて私は気付いた。彼が私に協力してくれたのは彼女の口添えがあったからだと言うことに。その下働きのユーノにはいつも話し相手になってもらっていたのだ。私のとりとめのない話を聞いてくれるのはユーノか猫くらいだった。双子の妹がいたら話し相手になってくれたのに私には猫とユーノしかいない。でもユーノが私の話を信じてくれたおかげでルクルートは金持ちになり私も自動的に金持ちになった。
「このチョコレートボンボン美味しいね」
殿下はかおを真っ赤にしてチョコレートボンボンを頬張っている。誰だ? 殿下にチョコレートボンボンを出したのは!
私の婚約者である殿下はその当時まだ幼くてチョコレートボンボンのお酒に酔ってしまった。殿下が「勝手に食べた僕がいけなかったんだ」と言ってくれたから良かったけどもう少しで主人公が現れる前に断罪されるところだったよ。
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