上 下
1 / 10

第1話

しおりを挟む
 1

 今日「私」は、最近流行のVR機器を手に入れた。商店街の「ハロウィン大セール福引き」で当てたのだ。
 一等賞の海外旅行券を狙っていたため、必死に福引券を集めて挑んだのだが、当たったのは四等賞のVR機器のみだった。
 よく分からないが、ヘッドセットに好きなシチュエーションを入力すると、希望に添った体験ができるらしい。
(四等賞だからたいしたものではなさそうだけれど、とりあえず、試してみるか。どんなのがいいかなあ)
 VR体験といえば――ウェブ上で読めるエッチな小説によく登場するシチュエーションだ。これを枕詞よろしく導入に使えば、インモラルな内容も許容されてしまう。
 VR機器を起動させると、シチュエーション設定画面が出てきた。
 「ハロウィンの夜に、敬語の上司と職場で滅茶苦茶セックスする!」と、ごくごく軽い気持ちで入力する。
 まったく期待はしていないが、もしかしたら面白い夢が見られるかもしれない――そう私は考えたのだ。
 しかし、思えばこれが運の尽きだった。
 私はヘッドセットを装着して、ベッドの上のシーツに寝転び、スタートを選択した。
 するとオープニング映像とともに、ヴァーチャルながらもリアリティのある体験が始まったのだった――。
 
 * * *
 
「う……ん?」
 
 目を開けるとそこはオフィスだった。誰もいない。おそらく休日だ。
 窓を見ると、ブラインド越しに西日が差している。季節は秋、時間帯は夕暮れと思われた。
 ここはどこだろう? 私は一体どうしたのだろう? 頭がぼーっとしているせいか、状況がよく分からない。
 とにかく起き上がろうとするが、上手く体が動かなかった。
 
「あ、あれ?」
 
 そこでようやく自分が椅子に座っていることに気付いた。
 白いワイシャツにグレーのチェックのベスト、紺色の膝丈タイトスカートという、事務員の制服を身につけている。
 手を動かそうとするがやはり動かない。足はM字に開かれ拘束されており、同様に動かすことができない。
 よくよく見れば、手は後ろ手に縛られ、脚も開かれた状態で椅子に拘束されている。
 
(ど、どういうこと?)
 
 戸惑っていると、一人の男性が現れた。
 その男は私を見てニヤリと笑った。
 
「ようこそ」
「えっ!? あっ! はい!」
 いきなり呼ばれて驚く。どうして私の事を知っているのだろうか。
(この人は誰なんだろ……)
 
 そう思いながら男の顔をじっと見る。整った顔立ちをしており、優しそうな印象を受ける。年齢は三十代前半といったところだろうか。
 服装は紺色のスーツだ。髪の色は黒で肌は白い。切れ長の瞳に薄い唇。まるでこけしのようにきれいな男性である。
 彼は私を見つめると、ゆっくりと口を開いた。
 
「ようやく目覚めましたね。あなたには、今から僕とセックスをしてもらいます」
「……へぇ?」
 あまりにも唐突すぎる言葉に、思考が追いつかない。何が何だかさっぱり分からなかった。
 
「え? え? ちょ、ちょっと待ってください。あの……」
「はい、なんでしょう?」
「せ、セックスというのは、つまり、あの……そういうことで、合っていますよね?」
「もちろんですよ」
「じゃ、じゃあ私がこれからすることっていうのは……えっちなこと、ってことでしょうか?」
 
 VRにエッチな指示をしたわりに、私は下ネタが苦手だ。
 セックス、と口にするだけで、頬が赤くなるくらいに。
 美しい顔をした男性から生々しい言葉が出ること自体に、私は早くもドキリとしてしまった。
 
「そうですね。まぁ簡単に言えばそうなります」
「で、でもっ、私……身動きができないんですけど!」
 そう言うと、彼はニヤリと笑った。
 
「好都合じゃないですか。椅子に拘束されたあなたと、僕がセックスするんです。あなたは身動きが取れない。つまり、僕が好きなようにできるということです」
「そ、それはそうかもしれませんけど……」
「さて、それでは始めましょうか」
 そう言って彼が近づいてくる。
 
「ふぇっ!? わ、分かりました。覚悟を決めます」
 私はごくりと唾を飲み込んだ。
 そうだ、これはVR。何も心配することはない。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

彼氏が完璧すぎるから別れたい

しおだだ
恋愛
月奈(ユエナ)は恋人と別れたいと思っている。 なぜなら彼はイケメンでやさしくて有能だから。そんな相手は荷が重い。

処理中です...