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第三章 二人のクリスマス、そして
3-6.二人きりの帰り道
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学校でのクリスマスパーティはつつがなく終わりを告げた。和やかなムードの中、合唱やハンドベルなどの出し物が行われ、あるいはお菓子や軽食などの飲食物が提供され、生徒も教職員も談笑しつつ、年末のひとときを楽しんだのだった。
リズのクラスが制作したお菓子のオーナメントも、予想以上に好評だった。人の形をしたクッキーなどは少し不格好だが、その素朴さがかえって興味を引いたようである。お菓子を食べながら会話をする光景が、講堂のそこかしこに見られた。
(上手くいって良かったわ……でも)
すべてのイベントが終わった帰り道でのこと。リズは溜め息を吐く。空からはちらちらと雪が舞う。ホワイトクリスマスだ。
「リズ先生! 今夜は疲れた? なんだか浮かない顔をしてる……」
ニコニコと笑いながら乱れたショールを直してくれるのは――そう、テッドである。街灯の少ない道には、冷たい風が吹きすさんでいる。二日前に積もった雪が、一旦溶けてふたたびカチカチの氷となり、地面を滑りやすくしている。二人は足を取られないように気を付けながら、一歩一歩、進んでいた。
「たしかに疲れたわ。クリスマスパーティに関してはクラスの方針が二転三転したから、ずっと気を張っていたのね。……ただ、溜め息の理由は違うの。……クラス委員のサムは、あなたのことを〝先生〟と呼んだわ。どういうこと? あなたは私たちの学校で、過去に教師として勤めていたの?」
さすがにパーティ会場では聞けなかったことを、リズはテッドに訊ねた。
最初からおかしいと思っていた。ハロウィンパーティの場に、なぜ正体不明のテッドがいたのか。テッドは生徒でも教職員でもない。年齢的に、どこかから招待される来賓客でもないだろう。出入り業者や地元の住民である可能性もあるにはあるが――しかしそれなら普段の生活が忙しいから、正体を隠し続けてリズと同居するのは難しいだろう。
かつて〝先生〟だった、しかし今は何者でもない若者――そう考えれば、リズとの今の暮らしは腑に落ちるものだ。
「リズ先生。黙っていて、ごめんなさい」
立ち止まったテッドの頬に、街灯の影が落ちる。彼はいつになく真剣な表情で、リズを見つめていた。
「テッド? ……あ、ごめんなさい。もし言いたくないのなら、言わなくてもいいわ」
リズだって、辛い過去を忘れるために前任校を辞めた人間である。教員は忙しく、プレッシャーも多い仕事だ。日々の生活に追われて体調を崩し休職する者は多い。クラス委員のサムが知っていたということは、少なくとも数年前まではリズの学校で働いていたのだろう。その情報が分かるだけで、リズには十分だった。
「いや、学校に行ったらバレるって、分かりきっていた。でも、僕はリズ先生が企画したお菓子のオーナメントを、一目だけでも見たかったんだ。……すごく感動したよ。素晴らしかった。さすがリズ先生、って、しばらく見惚れていたんだ」
「あら、嬉しい。……って、もともとはテッドが考えついた企画でしょう? クッキーの型も貸してくれたし。いつもありがとう」
リズはテッドの前髪をかき分け、その額に手を当てた。外気に当たり、ひんやりと冷たい彼の額は、リズの掌の温度でじわりと温まっていく。
「リズ先生……」
「感謝しているわ。……大好きよ、テッド」
背伸びをして、テッドの頬に口付けをする。テッドは驚きつつも、リズの背中をそっと抱き寄せた。雪がしんしんと降り、暗闇の中の二人を包む。その冷たさに負けず、二人の唇は沸騰するかのように熱いのだった。
リズのクラスが制作したお菓子のオーナメントも、予想以上に好評だった。人の形をしたクッキーなどは少し不格好だが、その素朴さがかえって興味を引いたようである。お菓子を食べながら会話をする光景が、講堂のそこかしこに見られた。
(上手くいって良かったわ……でも)
すべてのイベントが終わった帰り道でのこと。リズは溜め息を吐く。空からはちらちらと雪が舞う。ホワイトクリスマスだ。
「リズ先生! 今夜は疲れた? なんだか浮かない顔をしてる……」
ニコニコと笑いながら乱れたショールを直してくれるのは――そう、テッドである。街灯の少ない道には、冷たい風が吹きすさんでいる。二日前に積もった雪が、一旦溶けてふたたびカチカチの氷となり、地面を滑りやすくしている。二人は足を取られないように気を付けながら、一歩一歩、進んでいた。
「たしかに疲れたわ。クリスマスパーティに関してはクラスの方針が二転三転したから、ずっと気を張っていたのね。……ただ、溜め息の理由は違うの。……クラス委員のサムは、あなたのことを〝先生〟と呼んだわ。どういうこと? あなたは私たちの学校で、過去に教師として勤めていたの?」
さすがにパーティ会場では聞けなかったことを、リズはテッドに訊ねた。
最初からおかしいと思っていた。ハロウィンパーティの場に、なぜ正体不明のテッドがいたのか。テッドは生徒でも教職員でもない。年齢的に、どこかから招待される来賓客でもないだろう。出入り業者や地元の住民である可能性もあるにはあるが――しかしそれなら普段の生活が忙しいから、正体を隠し続けてリズと同居するのは難しいだろう。
かつて〝先生〟だった、しかし今は何者でもない若者――そう考えれば、リズとの今の暮らしは腑に落ちるものだ。
「リズ先生。黙っていて、ごめんなさい」
立ち止まったテッドの頬に、街灯の影が落ちる。彼はいつになく真剣な表情で、リズを見つめていた。
「テッド? ……あ、ごめんなさい。もし言いたくないのなら、言わなくてもいいわ」
リズだって、辛い過去を忘れるために前任校を辞めた人間である。教員は忙しく、プレッシャーも多い仕事だ。日々の生活に追われて体調を崩し休職する者は多い。クラス委員のサムが知っていたということは、少なくとも数年前まではリズの学校で働いていたのだろう。その情報が分かるだけで、リズには十分だった。
「いや、学校に行ったらバレるって、分かりきっていた。でも、僕はリズ先生が企画したお菓子のオーナメントを、一目だけでも見たかったんだ。……すごく感動したよ。素晴らしかった。さすがリズ先生、って、しばらく見惚れていたんだ」
「あら、嬉しい。……って、もともとはテッドが考えついた企画でしょう? クッキーの型も貸してくれたし。いつもありがとう」
リズはテッドの前髪をかき分け、その額に手を当てた。外気に当たり、ひんやりと冷たい彼の額は、リズの掌の温度でじわりと温まっていく。
「リズ先生……」
「感謝しているわ。……大好きよ、テッド」
背伸びをして、テッドの頬に口付けをする。テッドは驚きつつも、リズの背中をそっと抱き寄せた。雪がしんしんと降り、暗闇の中の二人を包む。その冷たさに負けず、二人の唇は沸騰するかのように熱いのだった。
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