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第一章 辺境のハロウィンパーティ
1-12.ハロウィンパーティの結末★
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「どこへ行くの?」
「うーん……そうだな、みんなの見ていないところかな」
ワンコ君はリズの手を強く握ったまま、闇に包まれた夜を進んで行く。振り返ればホールのある建物は遠く、直線的に切り取られた窓の先で踊る人々が、まるで天上を描く絵画のように神々しく光って見えた。
そうして二人が辿り着いた先は、ホールと特別教室棟のちょうど中間にある、大きなマロニエの木の下だった。ちょうど落葉の季節。足下には大きな手のような形の葉が、無数に散らばっている。
「なんで私を引っ張ってきたの?」
何もホールから連れ出す必要はなかったはずた。不思議に思い、リズは問いかける。
ワンコ君の顔の上半分は、仮面に隠れて見えなかった。けれどその下の表情は、なんとなく想像できる。――彼は今の状況を楽しんでいると。
「君はうっかり僕とキスをして、とても動揺していたから。……だから、今すぐ連れ出さなきゃいけないと思った」
まるで何も裏なんてないという調子で、ワンコ君は説明した。
(いや、そこで「パーティを抜け出そう」とか言わないでしょ、普通)
一応は教師としての体裁を保ちたいため、リズは本音をこらえて大人の対応をする。
「そこまでしてくれなくて良かったのよ。……正直に言うとね、あんなおかしな状況で、公衆の面前でキスをしてしまって、とても恥ずかしかったの」
入職してから始めてのハロウィンパーティである。何事もなく良い思い出にしたかった。
リズはワンコ君を見上げる。彼は若く見えるが、身長はリズよりずっと高い。もしかしたら、在校生なのかもしれないが、少なくともリズは見たことのない顔だった。
「……それなら、改めて〝ちゃんとしたキス〟をしよう」
「え?」
戸惑うリズを抱き寄せると、ワンコ君はそっと唇を重ねた。
(なに? なんで? どうしてこうなる?)
リズの方は状況を上手く呑み込めずにいた。それでも、チュ、チュ、と小鳥がついばむように繰り返し角度を変えて口付けられると、唇からはただ甘い吐息が漏れていく。身体が熱い。
ワンコ君はリズの顎の先を掴むと、わずかに顔を上向かせる。自然と開いた唇の間に、舌を差し込んできた。
(やだっ……なにこれ)
ワンコ君の愛撫はねっとりと追い込むようにしつこかった。濡れた舌が口腔を這い回る。内側の粘膜をなぞられると、それだけで腰が砕けてしまいそうになる。見た目によらず、ワンコ君は大人なのかもしれない。
――まさかの濃厚なキスが終わる頃には、リズの心境も変わっていたほどだ。
「魔女さん、続きもしていい?」
引き続きとんでもない言葉を、ワンコ君はリズにかける。背中に手を回され、抱き寄せられると、またその気になってしまいそうだが――しかしここは校内だ。パーティは終わっていない。
リズは決心を固め、口を開く。
「ここでは駄目よ。……せめて……私の寮へ来て」
正体不明の男を部屋に上げるなど、もってのほかである。……リズ自身もそう思っていたが、今夜は何かがおかしかった。彼をなんとかつなぎとめたい、一瞬でも長く一緒にいたい――そう強く願っていた。つまり、リズは〝ワンコ君〟に惚れてしまったのである。
「いいの? うん……喜んで。先生のお宅にお邪魔します!」
ワンコ君はリズの手を取り、瞳を輝かせ声を弾ませた。
――ハロウィンパーティの夜、こうしてリズは完敗したのである。
「うーん……そうだな、みんなの見ていないところかな」
ワンコ君はリズの手を強く握ったまま、闇に包まれた夜を進んで行く。振り返ればホールのある建物は遠く、直線的に切り取られた窓の先で踊る人々が、まるで天上を描く絵画のように神々しく光って見えた。
そうして二人が辿り着いた先は、ホールと特別教室棟のちょうど中間にある、大きなマロニエの木の下だった。ちょうど落葉の季節。足下には大きな手のような形の葉が、無数に散らばっている。
「なんで私を引っ張ってきたの?」
何もホールから連れ出す必要はなかったはずた。不思議に思い、リズは問いかける。
ワンコ君の顔の上半分は、仮面に隠れて見えなかった。けれどその下の表情は、なんとなく想像できる。――彼は今の状況を楽しんでいると。
「君はうっかり僕とキスをして、とても動揺していたから。……だから、今すぐ連れ出さなきゃいけないと思った」
まるで何も裏なんてないという調子で、ワンコ君は説明した。
(いや、そこで「パーティを抜け出そう」とか言わないでしょ、普通)
一応は教師としての体裁を保ちたいため、リズは本音をこらえて大人の対応をする。
「そこまでしてくれなくて良かったのよ。……正直に言うとね、あんなおかしな状況で、公衆の面前でキスをしてしまって、とても恥ずかしかったの」
入職してから始めてのハロウィンパーティである。何事もなく良い思い出にしたかった。
リズはワンコ君を見上げる。彼は若く見えるが、身長はリズよりずっと高い。もしかしたら、在校生なのかもしれないが、少なくともリズは見たことのない顔だった。
「……それなら、改めて〝ちゃんとしたキス〟をしよう」
「え?」
戸惑うリズを抱き寄せると、ワンコ君はそっと唇を重ねた。
(なに? なんで? どうしてこうなる?)
リズの方は状況を上手く呑み込めずにいた。それでも、チュ、チュ、と小鳥がついばむように繰り返し角度を変えて口付けられると、唇からはただ甘い吐息が漏れていく。身体が熱い。
ワンコ君はリズの顎の先を掴むと、わずかに顔を上向かせる。自然と開いた唇の間に、舌を差し込んできた。
(やだっ……なにこれ)
ワンコ君の愛撫はねっとりと追い込むようにしつこかった。濡れた舌が口腔を這い回る。内側の粘膜をなぞられると、それだけで腰が砕けてしまいそうになる。見た目によらず、ワンコ君は大人なのかもしれない。
――まさかの濃厚なキスが終わる頃には、リズの心境も変わっていたほどだ。
「魔女さん、続きもしていい?」
引き続きとんでもない言葉を、ワンコ君はリズにかける。背中に手を回され、抱き寄せられると、またその気になってしまいそうだが――しかしここは校内だ。パーティは終わっていない。
リズは決心を固め、口を開く。
「ここでは駄目よ。……せめて……私の寮へ来て」
正体不明の男を部屋に上げるなど、もってのほかである。……リズ自身もそう思っていたが、今夜は何かがおかしかった。彼をなんとかつなぎとめたい、一瞬でも長く一緒にいたい――そう強く願っていた。つまり、リズは〝ワンコ君〟に惚れてしまったのである。
「いいの? うん……喜んで。先生のお宅にお邪魔します!」
ワンコ君はリズの手を取り、瞳を輝かせ声を弾ませた。
――ハロウィンパーティの夜、こうしてリズは完敗したのである。
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