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池で謎の怪奇音
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「突然、”ジャボン”という音が聞こえたんです」
男性がおもむろに口を開いた。それはあまりにも不可解な現象だった。千葉県F市在住のTさん(29歳)は、2021年10月某日夜、F市にある大きな池を有したF市近隣公園を訪れていた。
「趣味で動画を撮影することにハマっており、その公園はホラームービーを撮影するには最適の場所だったんです…だから、撮影をしようと機材を整えていたら…」
その日は雨が降ったこともあり、そこかしこに大きな水溜まりができる中、Tさんは絶好の撮影スポットを求めて、公園内を散策したという。
F市近隣公園は広大な敷地内に、芝生広場や遊具なども点在しており、市民の憩いの場となっている。通常ならば人々の活気に包まれている公園であるが、この日は直前まで雨が降っていたこと、そして、何と言っても夜であることが影響して、公園で遊んでいる人はほとんどいなかったという。
「唯一見かけたのは、自転車に乗った2人組の若い男性くらいでしょうか」
この日、Tさんは街灯が灯る公園内を一周し、敷地内の大半を占める池の脇道にカメラを設置しようと決める。コンクリート上にカメラの三脚を設置し、様々な小道具を背負っていたリュックサックから取り出す作業にかかった。ところが、ここでTさんに災難が降りかかる。
「いつもは街灯が灯っているその脇道に、電気が点いていなかったんです。しかも、不思議なことに、池の脇道以外の街灯は点いているのに、その一部分だけが、そっくり消えてしまってたんです」
Tさんは公園の街灯を頼りにしていたため、照明器材は一切用意していなかったという。困り果てたTさんだったが、せっかく来たのだからと、撮影を敢行。自らが想定した通りに、撮影を進めていった。何度もリテイクを重ねながら、撮影した動画のチェックをしていた…すると、Tさんの右手に広がる池から「ジャボン」という奇妙な音が聞こえてきたという。
「何の音だ?と驚いたのを覚えています。大きな石か何かが池に投げ込まれたような…そんな音でした。初めは気にせず、撮影を続けようかとも思ったのですが、よくよく考えてみると、誰もいない池の水面から音が聞こえてくるのはおかしいと気づいたんです」
Tさんはあまりの恐怖から、すぐにその場を立ち去ることを決めた。
「だって、あまりにも大きな音だったので、何かの事件にでも巻き込まれたら怖いじゃないですか…」
そう語るTさんの表情は、みるみるうちに不安と恐怖に押しつぶされそうになっていった。結局Tさんは、その夜聞いた「ジャボン」という音の正体を確かめずに家路についた。
「あの音は何だったのでしょう?何かが投げ込まれたのか?はたまた得体の知れない生物が池から出てきたのか…」
後日、この不可思議な「ジャボン現象」を調べるために、編集部はF市近隣公園へと足を運び、公園内に位置する管理事務所で話を聞いた。対応してくれたのは、該当の公園の管理を任されているというSさんだ。思い切って、Tさんが謎の音を聞いたという夜に何か事件はなかったか尋ねてみた。すると予想だにしない答えが返ってきた。
「よくあるんですよね、そういった通報が…」
一体どういうことだろうか。編集部は詳細を尋ねた。
「ここは新興住宅街でして、小さな子供を育てている若い夫婦の方々が多くて、遊びに来る家族がたくさんいるんです。そういった方々から、昼夜問わず、池の方に人影を見ただとか、池が波立っていただとか、水面を叩く音がしたという連絡を受けるんでね…」
水面を叩く音…Tさんが聞いたという謎の音と酷似している。編集部の腕に鳥肌が立った。言いようのない恐怖に晒されたが、ここで引き下がるわけにはいかない。声を震わせながら、Sさんに、その原因は判明しているのかと尋ねた。
「いや…ハッキリしたことはわかりません…ですが、その昔、この池で”ある事件”が起きたことは確かです」
Sさんの表情が曇ったように見えた。その事件とは一体…?
Sさんの証言によると、遡ること30年前の1991年。まだ住宅街も公園すらも出来上がる以前のこと。広場として開放されていたこの場所で、一人の女児が水遊びをしようと池に近づき、両親が目を離した隙に、池に落下。そのまま帰らぬ人となってしまった事件があったそうだ。ピクニックにやって来ていた家族を襲った悲劇だった。
「実際のところ、池の中にはフナやらドジョウやらはいるので、そういった魚がただ水面で跳ねただけかもしれません…でも、私は思うんですよ。この池で溺れてしまった女の子が、一緒に遊んでくれる人を探し続けているのではないかと…」
ここでSさんは来客の対応をしなくてはならなくなり、編集部は泣く泣く公園を後にすることに。結局、真相にたどり着くことはできなかった。
太古の昔から、水辺にはカッパなどの妖怪がいるといった都市伝説が後を絶たないが、今回の「ジャボン現象」は、なにやら都市伝説というだけでは片付けられない”真実”を孕んでいそうだ。
Tさんが聞いた「ジャボン」という音の正体は、単なる魚の仕業だったのか、あるいはこの世に未練を残す地縛霊の仕業なのか…。
(取材・文:廣島達哉)
男性がおもむろに口を開いた。それはあまりにも不可解な現象だった。千葉県F市在住のTさん(29歳)は、2021年10月某日夜、F市にある大きな池を有したF市近隣公園を訪れていた。
「趣味で動画を撮影することにハマっており、その公園はホラームービーを撮影するには最適の場所だったんです…だから、撮影をしようと機材を整えていたら…」
その日は雨が降ったこともあり、そこかしこに大きな水溜まりができる中、Tさんは絶好の撮影スポットを求めて、公園内を散策したという。
F市近隣公園は広大な敷地内に、芝生広場や遊具なども点在しており、市民の憩いの場となっている。通常ならば人々の活気に包まれている公園であるが、この日は直前まで雨が降っていたこと、そして、何と言っても夜であることが影響して、公園で遊んでいる人はほとんどいなかったという。
「唯一見かけたのは、自転車に乗った2人組の若い男性くらいでしょうか」
この日、Tさんは街灯が灯る公園内を一周し、敷地内の大半を占める池の脇道にカメラを設置しようと決める。コンクリート上にカメラの三脚を設置し、様々な小道具を背負っていたリュックサックから取り出す作業にかかった。ところが、ここでTさんに災難が降りかかる。
「いつもは街灯が灯っているその脇道に、電気が点いていなかったんです。しかも、不思議なことに、池の脇道以外の街灯は点いているのに、その一部分だけが、そっくり消えてしまってたんです」
Tさんは公園の街灯を頼りにしていたため、照明器材は一切用意していなかったという。困り果てたTさんだったが、せっかく来たのだからと、撮影を敢行。自らが想定した通りに、撮影を進めていった。何度もリテイクを重ねながら、撮影した動画のチェックをしていた…すると、Tさんの右手に広がる池から「ジャボン」という奇妙な音が聞こえてきたという。
「何の音だ?と驚いたのを覚えています。大きな石か何かが池に投げ込まれたような…そんな音でした。初めは気にせず、撮影を続けようかとも思ったのですが、よくよく考えてみると、誰もいない池の水面から音が聞こえてくるのはおかしいと気づいたんです」
Tさんはあまりの恐怖から、すぐにその場を立ち去ることを決めた。
「だって、あまりにも大きな音だったので、何かの事件にでも巻き込まれたら怖いじゃないですか…」
そう語るTさんの表情は、みるみるうちに不安と恐怖に押しつぶされそうになっていった。結局Tさんは、その夜聞いた「ジャボン」という音の正体を確かめずに家路についた。
「あの音は何だったのでしょう?何かが投げ込まれたのか?はたまた得体の知れない生物が池から出てきたのか…」
後日、この不可思議な「ジャボン現象」を調べるために、編集部はF市近隣公園へと足を運び、公園内に位置する管理事務所で話を聞いた。対応してくれたのは、該当の公園の管理を任されているというSさんだ。思い切って、Tさんが謎の音を聞いたという夜に何か事件はなかったか尋ねてみた。すると予想だにしない答えが返ってきた。
「よくあるんですよね、そういった通報が…」
一体どういうことだろうか。編集部は詳細を尋ねた。
「ここは新興住宅街でして、小さな子供を育てている若い夫婦の方々が多くて、遊びに来る家族がたくさんいるんです。そういった方々から、昼夜問わず、池の方に人影を見ただとか、池が波立っていただとか、水面を叩く音がしたという連絡を受けるんでね…」
水面を叩く音…Tさんが聞いたという謎の音と酷似している。編集部の腕に鳥肌が立った。言いようのない恐怖に晒されたが、ここで引き下がるわけにはいかない。声を震わせながら、Sさんに、その原因は判明しているのかと尋ねた。
「いや…ハッキリしたことはわかりません…ですが、その昔、この池で”ある事件”が起きたことは確かです」
Sさんの表情が曇ったように見えた。その事件とは一体…?
Sさんの証言によると、遡ること30年前の1991年。まだ住宅街も公園すらも出来上がる以前のこと。広場として開放されていたこの場所で、一人の女児が水遊びをしようと池に近づき、両親が目を離した隙に、池に落下。そのまま帰らぬ人となってしまった事件があったそうだ。ピクニックにやって来ていた家族を襲った悲劇だった。
「実際のところ、池の中にはフナやらドジョウやらはいるので、そういった魚がただ水面で跳ねただけかもしれません…でも、私は思うんですよ。この池で溺れてしまった女の子が、一緒に遊んでくれる人を探し続けているのではないかと…」
ここでSさんは来客の対応をしなくてはならなくなり、編集部は泣く泣く公園を後にすることに。結局、真相にたどり着くことはできなかった。
太古の昔から、水辺にはカッパなどの妖怪がいるといった都市伝説が後を絶たないが、今回の「ジャボン現象」は、なにやら都市伝説というだけでは片付けられない”真実”を孕んでいそうだ。
Tさんが聞いた「ジャボン」という音の正体は、単なる魚の仕業だったのか、あるいはこの世に未練を残す地縛霊の仕業なのか…。
(取材・文:廣島達哉)
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