NSSO〈国家特別秘密組織〉

まっふん

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腹喰い事件1章

腹喰い事件9

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翌日。

「ここら辺がスラム街の入り口だよね、結構中心地から離れているんだね…」

3人はスティリンジットのスラム街に来ていた。

「捜査っぽいことって思って来てみたけど、することは特に無いね。」

イザベラはそう言ってハハハと苦笑いした。

「ここではチェストラの事件と同じようなこと起こっていないのかな?メグさんのスクラップは度を越えた事件ばかりだったから、あったとしても切り取っていないかも。」

「そう思ってマージさんに聞いたけど、身体の一部が消える事件だなんて聞いたことも見かけたことも無いって言ってた。」

ジェシカの言葉にイザベラは首を振って返した。

「じゃあ、起こったかもしれないし、起こっていないのかもしれないってことか…私達って本当にチェストラ市以外の治安情報とか他国について知らないから、ここのスラム街のどこが危険で話が通じるのかとか全然わからないのよね…」

ジュディもそう言ってため息をついた。

「まあ、社会勉強ってことで探索しながら、話せそうな雰囲気なら聞いてみよう。チェストラのジャーナリストですとでも言っておけば、信用してもらえるでしょ。」

イザベラがそう言うと、3人はスラム街の中へと入っていた。

「…南エリアと似ているね。そこまで暗くないし、服装もまだ仕立てられている。」

ジュディが小声で言った。

「そうだね、この雰囲気ならまだ聞きやすい。とりあえず、あの家族連れに聞いてみよう。」

イザベラはそう言うと、数メートル先にいる母と二人の子供に近づいていった。

「こんにちは、今お時間よろしいですか?」

「こんにちは!どうかした?」

母親はパッと笑顔を見せて、返事をした。

「突然すみません。私、チェストラの方でジャーナリストをしているイザベラと申します。スラム街での医療状況について話を聞きたくて、声を掛けさせていただきました。」

「へぇ、ジャーナリストの方なんですね!チェストラ市からわざわざここまで来るだなんて、仕事大変ですね。私で良かったら、答えますよ」

母親は向こうへ行こうとする子供の手をつなぎ直した。

「ありがとうございます。病気やけがで手術をしなければならない状況になることは、なかなか無いと思うので、噂レベルで構いません。スラム街の方へどのような手術が施されているか知っていますか?手術っていうのはナイフを入れたり、縫合したりするレベルのものです。」

「手術…私の周りでは受けたという話は聞いたことが無いのですが…確かこの子の友達が大怪我をした時に傷口を縫ってもらったという話は聞いたことがあります。」

「なるほど。その縫合をされたのは誰とか知っていたりは…?」

「週に一度ぐらいスラム街にボランティアでお医者さんが来てくれるんです。その人かもしれません。もちろんこのスラム街にも診療所はあるのですが…そういう切ったり縫ったりは出来ないと思います。」

「切ったり縫ったり以外で噂を聞いたことはありませんか?例えば、身体の一部を取りだすとか…」

イザベラは臓器というワードをオブラートに包んだ。

「一部を入れる…あ、輸血とかですか?」

「いえ、怪我無く内臓を取り出すとかです。」

ジェシカが横から口を出した。

「内臓の取り出し!?そ、そんなことが出来るのですか!?」

「まぁ、一部の国ですが出来るところはあります。」

「すごいですね!初めて聞きました…」

「質問はこれだけです。答えていただき、ありがとうございます。」

イザベラはそう言ってニッコリと笑った。

「あ、それだけでいいんですね。ちゃんと答えられなくてごめんなさい…あ、さっき私が言った診療所、ここを真っすぐ行って3本目の道を左に曲がって、更に4つ目の道を右に行けばあるので、もし良かったら!」

「ありがとうございます。」

イザベラが礼をすると、母親は笑顔で手を振って去っていった。

「感じが良いね。ここらの人たちは仲が良さそう。」

親子が遠ざかっていくのを見ながら、ジュディはそう言った。

「確かに。さっきの人が言っていた診療所の方に向かいながら、聞き込みするのはどう?」

「いいね。」

ジェシカの案にイザベラは賛成すると3人は更に奥へと進んでいった。

「さっきの通りは大通りだったみたいだね。ちょっと薄暗い…」

診療所への道を進むにつれて、薄暗くなり始めたことにイザベラたちは気付き始めた。

「診療所って言いながらもやぶ医者かもね。」

「始めの母親の後にも2人聞いたけど、臓器摘出については何も知らなかったよね、この先の人に聞いても同じ回答しか得られない気もする…」

この先にあまり期待できないと感じたイザベラはそう呟いた。

「確かにね…次で終わりにして診療所の雰囲気を見て戻ろう。初めての土地だし、約束の時間に間に合わなかった時が怖いし…」

スラム街慣れしていない上に、初めての土地だから不安を感じているのか、ジェシカは肩を縮こまらせていた。

「そうしよう、」

ジュディも小さな声で賛成すると、3人は止まっていた足を再び踏み出した。

「…ねえ、あの人なら問題なさそうじゃない?話を聞いてくれそう…」

しばらく歩いているとジュディが数メートル先を歩く老婆を小声で指さした。

「そうね…行ってみよう。」

イザベラはそう言って老婆に近づき、声を掛けた。

「すみません、聞きたいことがあるのですが…」

「うわぁっ!ビックリしたじゃないか、誰かに話しかけられたのはいつ振りじゃ…」

やせ細っている老婆は落ちくぼんだ眼を見開いて、イザベラ達を見つめた。

「すみません、貴方に聞きたいことがあって…」

「な、なんじゃ…私は何もしとらんぞ。」

「いえ、貴方に関することじゃなくて、私達が知りたい情報について聞くだけなので安心してください。」

ジェシカが逃げたそうな表情をする老婆に優しく言った。

「そ、そうなのかい?」

「突然、不可解な質問になってしまうのですが…ここ数年で若者の遺体が見つかった事件や臓器に関するワードの含まれた事件は起きていませんか?」

「若者の遺体は毎年数十人は出てくるよ、ここは貧民街じゃからなぁ…臓器…そんな話聞いたことも見たことも無いね。」

「そうですよね…じゃあ臓器に関わらず不可解な事件や噂、出来事はこの数年ありませんでしたか?」

もし、メグの家で見た吸血鬼事件がここでも起こっていたのだとすれば、犯人は並大抵の人物ではないと考えたイザベラは大まかに考えることにした。

「うーん…不可解なことか…そういえば数か月前、ある家族がここから出て良い暮らしを始めたという噂を聞いたな」

「良い暮らし?失礼になりますが、スラム街でそれは可能なのでしょうか…?」

「いや、ここで暮らしている者は皆、門構えのある邸宅の門をくぐることなく、生まれて死んでいく。じゃから、その家族が貧民街を出て、ここから離れた住宅街で暮らすことになったと聞いたときは驚いたな。」

「その家族、ご存じないですか?」

イザベラは畳みかけるように聞いた。

「知らんの。噂で聞いただけじゃ。生まれてこのかたいい暮らしというものをしたことがない私にとってどうでもいいことじゃ。」

「なるほど…ありがとうございます。」

イザベラがそう言って会釈をすると、ジュディとジェシカも続けて会釈をし、3人は診療所の方に向かって行った。

「さっきの御婆さんの話、チェストラの事件と関係あるのかな?」

「さぁ…?窃盗か何かの手段で手に入れたんじゃない?もし、関係があるとしたら殺人委託だけど、何十人もの遺体が出るここで臓器だけ取り出すような目立つ殺し方をする必要がない。」

「確かに…臓器をわざわざ取り出す意味がない…チェストラの犯人はシントの犯人の模倣犯だと思う?」

イザベラの言葉にジュディは首をひねって考え込んだ。

「恐らくシントの犯人はただの快楽殺人者で、チェストラの犯人はまた別の目的を達成するために臓器を抜き出したとしか考えられない。シントとチェストラは別人物と考えられるけど、もしここでも同じ事件が起きていた場合、スティリンジットとチェストラは同一犯だと仮説を立てといた方が良いかも。」

イザベラがそう言ってしばらく歩くと、消えかかった文字で診療所と書かれた古びた看板が見えた。

「ここだね…静かだけど、誰かいるかもしれないし、鳴らしてみよう。」

ジェシカがそう言うと、イザベラは腐りかけた木の扉を3回ノックした。

ドンドンドン!

応答がないのでイザベラがもう一度、ドアを大きめにノックするとバタバタという音が中からし、誰かがドアノブを回す音が聞こえた。

「何の用ですかな?」

しゃがれたおじいさんの声がしたと同時に、ドアがきしみながら開いた。


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