NSSO〈国家特別秘密組織〉

まっふん

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腹喰い事件1章

腹喰い事件2

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「…というわけなんだけど、ジェシカとジュディ。付いてきてくれる?」

「もちろん!」

「私の知識が役に立つかは分からないけど…雰囲気だけでも醸し出せるように頑張る。」

あちこちに出てたり、訓練をしていたり、家事をしていたメンバーを家に召集している間に、駅で明日の切符を購入して帰って来たイザベラは、メンバー全員に事件の現状と今後の動きについて説明した。

「明日にはナルシッサさんがNSSOにどういったことを調べて欲しいのか、どう動いてほしいのか教えてくれると思うから、警察と上手く連携して潜入捜査を進めて欲しい。私達3人の捜査は最悪のシナリオである国絡みの事件になってしまった時のことを想定した予防線のようなものだから、5日以内に帰ってくる。恐らくこっちで活動してもらう皆の猶予も5日だね。スラム街は底なし沼だから、警察を待たせすぎると躍起になって強制捜査に踏み込んでくると考えている。」

「わかった。とりあえず今の情報から行くと、亡くなった少年の身元の確認と少年の行動の把握、そして似たような事件が起きていないかを悟られないように見つけ出すっていう3つだね。」

ステラがイザベラの話を簡単にまとめた。

「その通り。ある程度の行動範囲は絞られているけど、それ以上になる可能性も十分にある。各ポイントに散らばって余計な事件に巻き込まれないようにしてね。」

「場所によっては住民同士の仲が良くて、互いの顔を覚えているだなんてことがあるけど…特に私とレイがいた地域とかは子供が多いから、隣人と協力し合ってたことが多かったの。」

スーザンがおずおずと声を挙げた。

「あぁ~…それは考えていなかったな…二人の家族が住んでいる地域は事件現場から近い?」

「ん~、まあまあかな。私ら、2週間前ぐらいに帰ったし、帰省を名目でそこら辺を探そうか?」

レイがイザベラに提案をした。

「うん。他ももし、嫌じゃなければ自分が住んでいた地域を拠点として、捜査にあたって欲しいな。地形とか雰囲気とかその方が理解しているだろうし。」

「了解。国絡みの事件になるかもしれないってことは、イザベラが国外で捜査するかもしれないってこと?」

ローレンスが聞いた。

「まあ可能性はほぼ無いけどね。一応、越境許可証を今日中に発行出来る人を連れて行けってチャーリーさんに言われたから、向こうも覚悟はしているんじゃないかな。」

「国外か~、行ってみたいな…」

ブロッサムがぼやいた。スラム街に住む多くは、明確な住所を役所に届けることが出来ないため、違う国に行くことはなかなか難しいのだ。

「チェストラ市自体もなかなか出たことないもんね…いつか国内の旅とかもしてみたいな…」

フラーが空を見つめて、想像を始めた。

「ここほど、良い場所はないよ。チェストラを離れれば、畑しかない地域やこんな立派な建物に住んでいない人も多い。水道が通っているだなんて、国内ではチェストラ以外にあまりないからね。」

「イザベラってここ出身なのに、詳しいね」

「いや…知り合いが色々教えてくれたから…話を戻そう。もし、警察の捜査が入ることになってしまったら、スラム街は更に混乱に陥ることが見えている。だから、5日後も怪しまれないように住民の1人として常に細心の注意を払って行って欲しい。」

「大丈夫。皆、里帰りのようなものだから。安心して、イザベラも捜査に行ってきて!」

ジュリーが明るく言ってくれた。

「ありがとう。じゃあまあ、話はこれぐらいで。それぞれのしていることに戻っていいよ。ジェシカとジュディは用意して欲しい物とかあるから、残ってもらってもいい?あとステラも。」

イザベラがそういうと、指名された3人は返事をし、その他のメンバーは二階に上がったり、キッチンに戻ったりした。

「ジェシカを選んだのは、医療関係の知識があるってことなんだけど、ジュディはまた違った理由があるの。チャーリーがスティリンジットで行われるメグさんが出演するオペラを見ても良いから、その業界で4人の知り合いを作っておけって。」

「本当!?それは嬉しすぎる!!」

「だから、私服の他にカジュアルなドレスも用意しといて欲しい。後、絡む人間によっては位が高い人と会うことになるかもしれないから、正装もよろしく。警察だってバレても危険な目には合わないとは思うけど、向こうの隙をつくためにもあまり堅くなりすぎないようにね。」

「分かった。明日は朝一にここを出て、メグさんと会うってことでいいのかな?」

「恐らくね。向こうのスケジュールによっては公演後にしか会えない可能性もある。その時は自力で何か策を考えるしかないね。二人はもう大丈夫だよ。」

イザベラの言葉に頷いた二人は準備をするために上に上がっていった。

「で、ステラには私がいない間、NSSO全体も統括して欲しいんだけど…普段は私が署内にいるから、刑事部長も勝手な判断が出来ないのね。だけど、私がいないと気付いたら、多少強引なやり口でかかってくるかもしれない。ステラは私がいない時の部長だから、もし刑事部長に何やら言われても言い返していいからね。副リーダーだからとか気にしなくていい。」

「分かった。」

「もし、うじうじ言われたら秘書のブルームさんに文句を言えば大丈夫。年も近いし、引け目を感じることは無いから。」

「分かった。なるべく早く帰ってきてよね。メンバー数人が近くにいないってことは今まであまりなかったんだから。近くにいないと心配してしまう。」

「大丈夫だよ。スラムの潜入に比べたら、よっぽど安全だから。後、誰かもいいそうだけどスラム街以外の出身の人の単独での行動は危険すぎるから、外すか土地勘がある人をペアにして欲しい。」

「確かにね。ナルシッサさんから指示を受け次第、考えるわ。」

「よし、頼んだ。ありがとう、まだ先だけど後はよろしくね。」

イザベラはそう言うと、自身も明日の準備をするために、自室に戻った。

「はぁ…いきなり特別捜査か…厄介なことになりそうだな…」

イザベラは部屋に戻った瞬間、溜息を吐いた。

「(腎臓の片方をどう使うつもりなんだ…?他国ではそれを活用するほどの技術があるのか…?何にも使わないのに内臓の一部を切り抜くだなんて、倫理観がおかしい…ということは必ず目的があるってことか…アッ……)」

一人で考えを巡らせていると、イザベラは日曜日に出会った証言者の存在を思い出した。

「(あぁ…ステラに言うの忘れていたな…まあでも大丈夫か…)」

イザベラはそう考え直すと、クローゼットにしまっていた正装一式を取り出し、捜査の準備を進めた。



※ イザベラ以外のメンバーは普段何をしているかというと、スラム街に住む家族の様子を見に行ったり、トレーニングをしたりしています。人数が多いので、ローテーションで家事を一日中するメンバーが6人ほどいます。他は警察署内で事務の仕事を手伝ったり、警察関連のアルバイトを手伝ったりしています。
NSSOは難解な事件や潜入捜査を主軸として活動しているので、毎日行わなければならない訓練や勉強などがあり、訓練ではトレーニング以外にも馬術・水泳・剣術・射撃・演技を行っています。
勉強では、爆薬の解除方法・地理・モノの組み立て方・富裕層に紛れてもバレないためのダンス・食事などの所作・芸術の知識などを勉強しています。
時間割が決められていて、20人を曜日ごとに分けて、警察が管轄する特別講師に教えてもらっているような形です。

次話は2/18予定です。
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