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第二十四話 女史とサロンへ……?
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「ミリオン編集者……どう言うことだよ」
俺は他にも封筒の中に何か入ってないかと探すと、【エルシー・М・スカラー様】と宛名の書かれた小さな封筒が見つかった。
内容は……、
『サプラーイズ! エルシーさん! 校正者さんに見て貰ったあとで、編集長にエルシーさんの作品を見せたら、即掲載決定になったの!』
おおおお、おい!! マジか!?
『ペンネームは【エルシー・М・スカラー】で良かしら?
原稿の裏に書いてたからそのまま使っちゃったけど。ダメだったら手紙で教えてね?』
ダメじゃないダメじゃない!
……あ、足が震えて来た……。
『◯月◯日までに返事が無かったらOKってことにしちゃうから、お願いね? 詳しい話や契約などは、次にサロンで会ってから交わしましょう!
あなたの担当編集者ジェニー・ミリオンより』
う、ううう嘘だろ!?
俺の担当がミリオン編集者!?
ホワイト先生と同じ編集者なのか!?
俺は震える足でどうにか歩き、ベッドに腰掛ける。
舐めるように手紙を何度も読み返してから、震える手で見本の単行本を見る……と、
「あ、【サンドラ・G・ローリー】の名前も入ってる!」
う、うわぁああ! キャラハン女史と明日どんな顔して会えば良いんだ! 気恥ずかしいー!!
――で、翌日の午後――
「どうしましたの? エルシー」
午前中に、もはや日課となったランニング。
護身術の自主練習。
護身用の杖の修理……は何故かトニーがやってくれた……。
トニー器用だなあ。と思いつつ「何故そんなことまで出来るの?」と聞いたら有事の際の武器などの修理点検も任されているのとのこと。
釘は殆ど杖に付け直された。
残った釘は、俺がもしもまた襲われて、超接近戦をやらなきゃならなくなった場合の為に持っていようと、服のあちこちに隠し持つことにした。
そして、今、キャラハン女史とご対面と言うワケだが……めちゃくちゃ気恥ずかしい!!
嬉しいけど気恥ずかしい!!
「エルシー? 本当にどうしましたの? 顔色が赤くなったり、青くなったり……具合が悪いんですの?」
キャラハン女史が俺の額におデコをくっ付けて来た!
「ななななな! なんでもありませんのよ!」
思わずソファから立ち上がり、後退ってしまう。
「なんですの? その態度は? 何かあったのでしょう? 今日はずっとお勉強に身が入っていませんことよ?」
うぐ……確かに……。
「わ、分かりましたわ……なんだかとても恥ずかしいのですけれど……私の……私の短編が単行本に掲載されますの!」
俺は思い切って、ベッドの側にあるテーブルから単行本の見本を持って来てキャラハン女史に見せた。
「これ……は」
表紙の文字を……正しくは作者の名前一覧を見て、一瞬表情が固まるキャラハン女史。
「……もしかして、この、【エルシー・М・スカラー】が、エルシーさん……ですの?」
噛み締めるように問うキャラハン女史……。
あぁあ……! 気恥ずかしい! エルシーが尊敬するキャラハン女史こと【サンドラ・G・ローリー】先生のすぐ下に俺の考えたペンネームが書かれている!
いや、はっきり言って転生してから、この時がこんなに早く来るとは思ってなかった……!
エルシーは自分のペンネー厶を考えてなかったんだよな。
エルシー・マーチャントの【マーチャント】はそのまんま『商人』って意味だから。
ミドルネームとファミリーネームに当たる部分は俺の名前をモジッて付けたんだ。
エルシー・「М」の部分は岳士の岳を英語にしたMountainのМを当てて。
エルシー・М・「スカラー」の部分は岳士の士を英語にしたscholarを当てたんだよ。
だからペンネームは「エルシー・М・スカラー」にした。
英語苦手だったから意味間違ってるかもだけどさ……。
転生してからは普通に話して書いてる感じだったしなあ。
この王国では意味が合ってるはずだ。
しかし……二十二歳でプロの小説家目指して苦節十六年……いや十七年(転生後込み)! 漸く……漸く日の目を見ることができた!
まあ、転生してからだがな……。
以前の俺には何が足りなかったんだろう……。
エルシーに転生してからは暴漢に襲われたりもして大変だったけれど。
今回トントン拍子で話が進んで。次は長編作品が書籍化するかも。ってところまで来て……っ。
「エルシー……泣いてますの? ……なんだか嬉し涙ではなさそうですけれど……大丈夫ですの?」
あ……俺泣いてた? そうか……泣いていたのか……。
嬉しいんだか悔しいんだか、感情がぐちゃぐちゃで、なんで泣いてるのか俺にもよく分からないよ……。
「え、エルシーさん。今からお祝いにサロンへ行きませんこと? 何故そのように泣いているのかは分かりませんが……」
キャラハン女史はポケットからハンカチを取り出して俺の涙を拭いながら、
「短編とは言え、小説家としてデビューしたことは喜ばしいでしょう?」
と、言って微笑み掛けてくれた。
「は……い」
「それならば、サロンで多くの人にお祝いして貰いましょう」
キャラハン女史は優しい笑みを浮かべている。
「あの……キャラハン女史はサロンによく行かれます……の?」
キャラハン女史は見掛けたことないけどなぁ……。
「ええ。一度だけ行ったことがありましてよ」
一度だけかぁ……だから見たこと無いんだな。
「さあ! 今日はお勉強はお休みですわよ。エルシーさんの小説家デビューのお祝いに行きましょうね!」
グイッ、と少し強めに、俺の腕を掴んで、キャラハン女史はドアへと向かう。
「ああ、このハンカチは差し上げますわ。涙をお拭きなって。ね?」
「は、はい……!」
手渡されたハンカチを、ぎゅっと握り締める。
「ありがとうございます。ぐすっ、キャラハン女史。私……私、ひっく、喜ぶべきことなのに、色々あって感情が追い付かなくて……ううっ、ぐすん」
「よく分かりませんが、そう言うこともあるのでしょう。さあ、サロンで沢山の人にお祝いして貰ったらその涙もきっと嬉し涙に変わりますわよ?」
「ずびっ」
と鼻をすすった俺は、キャラハン女史と部屋を出て玄関に向かう。
俺は靴を履き護身用の杖を持って、キャラハン女史と玄関を出る
と、サーヤが掃除をしているところに出会した。
「あら? キャラハン女史とエルシーお嬢様。どうされました?」
キャラハン女史と、ハンカチで涙を拭いたあとの俺の顔を交互に見ながら、サーヤが不思議そうに言った。
「エルシーをサロンに誘いましたのよ。サーヤさん。宜しくて?」
「サロン。ですか? キャラハン女史が一緒ならば問題は無いでしょうが……」
昨夜の襲撃事件があったばかりだ。サーヤは心配そうに俺を見た。
「夕方にはエルシーさんをお帰ししますわね。それに、今のエルシーさんには多くの人の称賛が必要ですのよ?」
キャラハン女史は後ろ姿しか見えないが、始終笑顔で話していると、なんとなくだが分かる。
「エルシーお嬢様に……ですか?」
サーヤは俺の顔を見て、納得したようなイマイチよく分からないと言ったような複数な表情をしている。
「ずずっ、ぐすん……サーヤ。サロンから帰ったら、全部理由を話すから……」
サーヤは少し悩んだが、まだ涙が止まり切らない俺を見て、分からないなりにだろうがうなずいた。
「キャラハン女史が一緒ですし、トニーもおりますから、大丈夫だとは思いますが、くれぐれも気をつけて下さいね?」
「ええ、ありがとう。サーヤ ……ずびっ」
鼻水も止まり切らない。
俺、みっともない顔をしているんだろうな。
馬車の中にもメイクセットは少し置いてあるし、そこで直そう。
「それでは、行きますわよ」
キャラハン女史に腕を取られ、俺は馬車へと向かった。
……が。
「あ、あら、私ったらお花を積みに行きたくなってしまいましたわ。先に馬車に乗っていて下さるかしら?」
お花を摘みに……つまり、トイレか。人間自然には逆らえないもんなあ。
「はい。分かりましたわ」
と俺は答えて、トニーに事情を話し始める。
トニーは涙が止まり切らない俺の表情を見て、何かを察したのか、黙ってうなずき御者席に乗った。
馬車の中で俺がメイクを直していると、キャラハン女史がお花摘みから戻って来て、馬車はサロンへ向けて出発したが……。
しかし、俺達はサロンへは辿り着けなかった。
(続く
俺は他にも封筒の中に何か入ってないかと探すと、【エルシー・М・スカラー様】と宛名の書かれた小さな封筒が見つかった。
内容は……、
『サプラーイズ! エルシーさん! 校正者さんに見て貰ったあとで、編集長にエルシーさんの作品を見せたら、即掲載決定になったの!』
おおおお、おい!! マジか!?
『ペンネームは【エルシー・М・スカラー】で良かしら?
原稿の裏に書いてたからそのまま使っちゃったけど。ダメだったら手紙で教えてね?』
ダメじゃないダメじゃない!
……あ、足が震えて来た……。
『◯月◯日までに返事が無かったらOKってことにしちゃうから、お願いね? 詳しい話や契約などは、次にサロンで会ってから交わしましょう!
あなたの担当編集者ジェニー・ミリオンより』
う、ううう嘘だろ!?
俺の担当がミリオン編集者!?
ホワイト先生と同じ編集者なのか!?
俺は震える足でどうにか歩き、ベッドに腰掛ける。
舐めるように手紙を何度も読み返してから、震える手で見本の単行本を見る……と、
「あ、【サンドラ・G・ローリー】の名前も入ってる!」
う、うわぁああ! キャラハン女史と明日どんな顔して会えば良いんだ! 気恥ずかしいー!!
――で、翌日の午後――
「どうしましたの? エルシー」
午前中に、もはや日課となったランニング。
護身術の自主練習。
護身用の杖の修理……は何故かトニーがやってくれた……。
トニー器用だなあ。と思いつつ「何故そんなことまで出来るの?」と聞いたら有事の際の武器などの修理点検も任されているのとのこと。
釘は殆ど杖に付け直された。
残った釘は、俺がもしもまた襲われて、超接近戦をやらなきゃならなくなった場合の為に持っていようと、服のあちこちに隠し持つことにした。
そして、今、キャラハン女史とご対面と言うワケだが……めちゃくちゃ気恥ずかしい!!
嬉しいけど気恥ずかしい!!
「エルシー? 本当にどうしましたの? 顔色が赤くなったり、青くなったり……具合が悪いんですの?」
キャラハン女史が俺の額におデコをくっ付けて来た!
「ななななな! なんでもありませんのよ!」
思わずソファから立ち上がり、後退ってしまう。
「なんですの? その態度は? 何かあったのでしょう? 今日はずっとお勉強に身が入っていませんことよ?」
うぐ……確かに……。
「わ、分かりましたわ……なんだかとても恥ずかしいのですけれど……私の……私の短編が単行本に掲載されますの!」
俺は思い切って、ベッドの側にあるテーブルから単行本の見本を持って来てキャラハン女史に見せた。
「これ……は」
表紙の文字を……正しくは作者の名前一覧を見て、一瞬表情が固まるキャラハン女史。
「……もしかして、この、【エルシー・М・スカラー】が、エルシーさん……ですの?」
噛み締めるように問うキャラハン女史……。
あぁあ……! 気恥ずかしい! エルシーが尊敬するキャラハン女史こと【サンドラ・G・ローリー】先生のすぐ下に俺の考えたペンネームが書かれている!
いや、はっきり言って転生してから、この時がこんなに早く来るとは思ってなかった……!
エルシーは自分のペンネー厶を考えてなかったんだよな。
エルシー・マーチャントの【マーチャント】はそのまんま『商人』って意味だから。
ミドルネームとファミリーネームに当たる部分は俺の名前をモジッて付けたんだ。
エルシー・「М」の部分は岳士の岳を英語にしたMountainのМを当てて。
エルシー・М・「スカラー」の部分は岳士の士を英語にしたscholarを当てたんだよ。
だからペンネームは「エルシー・М・スカラー」にした。
英語苦手だったから意味間違ってるかもだけどさ……。
転生してからは普通に話して書いてる感じだったしなあ。
この王国では意味が合ってるはずだ。
しかし……二十二歳でプロの小説家目指して苦節十六年……いや十七年(転生後込み)! 漸く……漸く日の目を見ることができた!
まあ、転生してからだがな……。
以前の俺には何が足りなかったんだろう……。
エルシーに転生してからは暴漢に襲われたりもして大変だったけれど。
今回トントン拍子で話が進んで。次は長編作品が書籍化するかも。ってところまで来て……っ。
「エルシー……泣いてますの? ……なんだか嬉し涙ではなさそうですけれど……大丈夫ですの?」
あ……俺泣いてた? そうか……泣いていたのか……。
嬉しいんだか悔しいんだか、感情がぐちゃぐちゃで、なんで泣いてるのか俺にもよく分からないよ……。
「え、エルシーさん。今からお祝いにサロンへ行きませんこと? 何故そのように泣いているのかは分かりませんが……」
キャラハン女史はポケットからハンカチを取り出して俺の涙を拭いながら、
「短編とは言え、小説家としてデビューしたことは喜ばしいでしょう?」
と、言って微笑み掛けてくれた。
「は……い」
「それならば、サロンで多くの人にお祝いして貰いましょう」
キャラハン女史は優しい笑みを浮かべている。
「あの……キャラハン女史はサロンによく行かれます……の?」
キャラハン女史は見掛けたことないけどなぁ……。
「ええ。一度だけ行ったことがありましてよ」
一度だけかぁ……だから見たこと無いんだな。
「さあ! 今日はお勉強はお休みですわよ。エルシーさんの小説家デビューのお祝いに行きましょうね!」
グイッ、と少し強めに、俺の腕を掴んで、キャラハン女史はドアへと向かう。
「ああ、このハンカチは差し上げますわ。涙をお拭きなって。ね?」
「は、はい……!」
手渡されたハンカチを、ぎゅっと握り締める。
「ありがとうございます。ぐすっ、キャラハン女史。私……私、ひっく、喜ぶべきことなのに、色々あって感情が追い付かなくて……ううっ、ぐすん」
「よく分かりませんが、そう言うこともあるのでしょう。さあ、サロンで沢山の人にお祝いして貰ったらその涙もきっと嬉し涙に変わりますわよ?」
「ずびっ」
と鼻をすすった俺は、キャラハン女史と部屋を出て玄関に向かう。
俺は靴を履き護身用の杖を持って、キャラハン女史と玄関を出る
と、サーヤが掃除をしているところに出会した。
「あら? キャラハン女史とエルシーお嬢様。どうされました?」
キャラハン女史と、ハンカチで涙を拭いたあとの俺の顔を交互に見ながら、サーヤが不思議そうに言った。
「エルシーをサロンに誘いましたのよ。サーヤさん。宜しくて?」
「サロン。ですか? キャラハン女史が一緒ならば問題は無いでしょうが……」
昨夜の襲撃事件があったばかりだ。サーヤは心配そうに俺を見た。
「夕方にはエルシーさんをお帰ししますわね。それに、今のエルシーさんには多くの人の称賛が必要ですのよ?」
キャラハン女史は後ろ姿しか見えないが、始終笑顔で話していると、なんとなくだが分かる。
「エルシーお嬢様に……ですか?」
サーヤは俺の顔を見て、納得したようなイマイチよく分からないと言ったような複数な表情をしている。
「ずずっ、ぐすん……サーヤ。サロンから帰ったら、全部理由を話すから……」
サーヤは少し悩んだが、まだ涙が止まり切らない俺を見て、分からないなりにだろうがうなずいた。
「キャラハン女史が一緒ですし、トニーもおりますから、大丈夫だとは思いますが、くれぐれも気をつけて下さいね?」
「ええ、ありがとう。サーヤ ……ずびっ」
鼻水も止まり切らない。
俺、みっともない顔をしているんだろうな。
馬車の中にもメイクセットは少し置いてあるし、そこで直そう。
「それでは、行きますわよ」
キャラハン女史に腕を取られ、俺は馬車へと向かった。
……が。
「あ、あら、私ったらお花を積みに行きたくなってしまいましたわ。先に馬車に乗っていて下さるかしら?」
お花を摘みに……つまり、トイレか。人間自然には逆らえないもんなあ。
「はい。分かりましたわ」
と俺は答えて、トニーに事情を話し始める。
トニーは涙が止まり切らない俺の表情を見て、何かを察したのか、黙ってうなずき御者席に乗った。
馬車の中で俺がメイクを直していると、キャラハン女史がお花摘みから戻って来て、馬車はサロンへ向けて出発したが……。
しかし、俺達はサロンへは辿り着けなかった。
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